22.タロの架け橋2
せっちゃんは何故あのようなリクエストをしたのか。
それには理由があるらしい。
そこで僕は彼女を食事に誘う事にしたのだ。
(もちろんやましい気持ちはない。ないって!あ、信じてないでしょ!マコさんに誓うもんね!!指切った!)
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30分後、僕達はラジオ局から歩いて程近い場所にあるイタリアンレストランの片隅に座っていた。
白と緑のクロスが掛かった四角いテーブルには小さなキャンドルが灯っている。
ここは良くラジオ局の若い局員達が利用していると聞いていた。
”少ない予算でもっとも美味しい料理を楽しめる”と評判なのだ。
「良く利用されてるんですか?」 せっちゃんが店の様子をキョロキョロと楽しそうに眺めつつ僕に訪ねた。
「いや、実は初めて来るんです。局の人たちがお勧めの店だってよく噂してたもんだから、どうかなって思って」
僕もメニューを眺めながら答える。
「ご注文はお決まりでしょうか」 黒服のウェイターが厳かに話しかける。
せっちゃんは慌ててメニューを眺める。
僕は”トマトとモツァレラチーズのパスタ”と”グリーンサラダ”をお願いする。
「えっと、えっとね」 せっちゃんは決めかねてメニューを捲り続けている。
僕はウェイターさんに聞いてみた。
「女性にお勧めのメニューはありますか」
そうですな、と表情を和らげて黒服がメニューの一箇所を指差す。
「”トマトとルッコラのサラダ”と」 さらにメニューを捲り、とんとんと指を刺す。
「”ベネチア産イカ墨のパスタ”がお勧めですな。イカ墨にはヒアルロン酸などに代表されるムコ多糖類が含まれておりまして、女性に大変評判がよろしいようです」
「じゃあ、それをお願い」 とせっちゃんは微笑んだ。
にっこりと微笑み返した黒服は優雅に一礼すると厨房へと消えて行った。
黒服と入れ替わるように現れた女性スタッフが、僕達のテーブルに数枚の紙切れとえんぴつを置く。
「このリストに好きな曲を書いてリクエストできます。聴けるかどうかは運次第なの。ではごゆっくり!」
女性スタッフはそう言うと、ステップを効かせてくるりとターンして次のテーブルへと移動する。
「リクエストかあ、ふふ」 せっちゃんは嬉しそうに笑う。
「タロさんにリクエストさせる機会なんて、貴重だわ」
まあ運良くCDが掛かれば楽しいよね、と僕達はリクエスト曲を慎重に吟味し始めた。