2.眠り病 (2005年1月)
”眠り病”
担当医のサワダからマコさんの病名を聞いたのは、半年前の冬だった。
ちかちかと古くなった蛍光灯の灯りに照らされた診察室で、サワダはカルテとレントゲン写真を交互に見比べる。
彼はシックなメタルフレームの分厚いメガネを掛けていた。
(フレームには☆マークが仲良く並んで刻まれている)
「最初に説明しなければならないのは」 メガネのレンズをハンカチで丁寧に拭きながら、彼は僕に向き直る。
「どこに問い合わせても答えが分からない病気だと言う事実です」
年季の入ったスチールデスクに掛けられたビニールシート越しに、一枚の女性の写真が見えていた。
「ああ、これは妻です」 僕の視線を辿ってサワダは首元を爪で掻いた。
「6年前に他界しちゃいましてね」 それでも毎日眺めてしまうのだと、サワダは笑う。
微笑みながらそっと写真をなでる。
たったそれだけの事で、僕は彼に好感を持った。
内科医のサワダは言う。
マコさんの病名は世界中の症例にも当てはまらない病なのだと。
しいて言うならば-”眠り病”-
そういう事になるらしい。
蛍光灯がチカチカと瞬いた。
病院の外で雨混じりの雪が窓辺を叩く。
そのようにしてマコさんの病名が決まったのだ。




