18.マコ・夢の洞窟
草原を渡る風がサナトリウムに流れ込み、わたしは秋の香りに気付いた。
病室で揺れるカーテンに煽られて、テーブルに置かれた花束が香る。
いつものようにタロちゃんの優しい声がラジオから聞こえる。
-ザ・クリスマス・ソング-(Nat King Cole)
またタロちゃんは掛けてくれた。
わたしのお気に入りを。
あぁ、神様。
わたしは起きているわ。
少なくとも一日の半分くらいは、意識があるのよ。
でも、それは誰にも伝わらない。
そうしてわたしは意識が薄れて行くのだ、ナットキングコールの素朴な歌声に包まれて。
幻の雪に包まれて、意識の淵から零れてゆく。
---
辺りに漂うのは白い霧。
そうしてわたしは、いつものように白い霧の漂うほの暗い洞窟に座っていた。
滑らかな質感の地面は時折仄かに光を発しているようだ。
その光源は、足元に転がる水晶体とリンクしているようである。(呼応して点滅しているようだから)
近寄って目を凝らすと何かの結晶が煌めいているように見える。
わたしはここが”現実の世界ではない”と感じているけれど、同時に”真実の世界である”と感じている。
ここはまるで-
(それを説明するには、ボキャブラリーが不足しているようだわ、とわたしはため息をついた)
『マコー!』
わたしの耳を捉えたのは、懐かしい友達の声。
「せっちゃん!?」
彼女の名を呼んだ瞬間、目の前の壁から彼女はふわっと現れた。
「マコなの?」とせっちゃんが目をしばたたかせて問いかける。
そうよ、とわたしは答えた。
わたしたちは久しぶりの再会に手を取り合って喜んだのだ。
せっちゃんに触れた瞬間、モノクローム色の景色がゆっくりと揺らめいた。
わたしは彼女の感情を身の内に感じたのだ。
それは不思議な感覚だった。
そうしてわたしは知ったのだ。
彼女が何を伝えたいのかを。