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続・タロと今夜も眠らない番組  作者: シュリンケル
第一章 -長い眠り-
17/59

17.N.A.Reports

 「そうだ、忘れておったわい」


ひとしきりお酒を酌み交わした後で、ナリタ会長が僕に差し出したのは一冊のレポートだった。


「まあ、読んでみてください」 会長に促されて、僕はレポートを(めく)った。


「会長、これって・・・」 ページを捲り言葉を失う僕のことを、会長は優しく見つめた。


 『ナリタ・レポート』と題されたその内容は-”眠り病”-に関する膨大な調査結果が纏められたものだった。


「もっと分かりやすく見せましょう」 そう言った会長はタジマに頷く。


タジマが居間の壁に仕込まれたスイッチを操作する。


古めかしい居間の天井部分から、真っ白なスクリーンがするすると音もなく下りてきた。

スイッチの横のパネルがゆっくりと開き、本格的なコンピュータが壁から迫り出してくる。

コンピュータの電源に連動し、スクリーン反対側の壁に設置されたプロジェクターが光る。

そして大きなスクリーンにはコンピュータ画面が投影された。


「驚きましたかな?がははは」 いたずらっぽく笑う会長とタジマ。


「そりゃあ驚きますよ。この平屋に近代設備なんてねえ」 と僕は肩をすくめた。

この人たちにはかなわないな、と僕は改めて思ったのだ。



---


 タジマが操作するコンピュータ画面が古い屋敷の壁一面に大きく映し出される。


 ”TOP-SECRET (N.A.Reports)”


「これね、まだ世界中に内緒なんですわ」

極秘と記されたそのドキュメントを指差して、会長が言う。


タジマがドキュメントファイルを次々とめくる。

そこには、我々にも馴染み深い、長い眠りから覚めない伝説のお姫様のお話も含まれていた。

・・・あの話は、お伽噺じゃなかったのか?


 タジマと会長は多岐に渡り調べつくしたそうだ。


・胎児が眠り続ける-ComaBaby(昏睡胎児)-

・2週間も眠り続けた事例もある-周期性傾眠症(Kleine-Levin症候群)-

・脈絡もなく眠る-narcolepsyナルコレプシー(居眠り病)-

 などなど・・・


「マコさんの”眠り病”は、極めて特異な例のようですね」 ドキュメントファイルを捲りつつ、タジマは言う。

「通常、マコさんのように長期間眠り続けるのは”植物”状態と言われます」 タジマはためらいつつもきっぱりと言った。

「しかしマコさんの場合、トリガーとなるべき事象が見当たらないのです」 そう言うと、タジマはファイルを閉じた。


 「タロさん」 と会長が口を開く。


「実はこの症例に、各国の軍部が興味を示しています」 会長の目が険しくなる。

まさか、と僕は肩をすくめる。


「タロさん、奴らは本気ですぞ。何年も眠らせる病気、これがどれほど利用価値があるかを想像できますかな?」

会長は袖を肩口まで捲くり上げて、刺青を隠しもせず僕に身を乗り出す。


僕はしばらく想像してみる。


「うーん・・・都合よく邪魔なフィクサー(影の権力者)を何年も眠らせる材料になる、とか?」 僕はなるべくさらっと口にしてみる。

その途端・・・部屋の空気が重く固まったのが肌で分かった。

会長とタジマが強張った顔で頷いたからだ。


僕は経験から知っていた。彼等はこんな場面で冗談など言わないのだ。


「まずいなあ」 と僕はため息を吐く。

どうやら僕一人の胸には収まりきらないところまで物語は進んでいるようだ。


 そうして僕は仕方なく、先日見た”夢”の話を会長達に話したのだ。

お伽噺だと笑われるのを覚悟で。


---


 僕の話を聞いた会長とタジマは次のような事を提案した。


「わたしは以前、猫森村でタロさんが鷹や猫ちゃんに導かれる様子を目の当たりにしました」

タジマはかつての取材旅行を回想しながら話し始めた。

「今思えば、あれは貴重な経験でしたね」 とても嬉しそうにタジマが言う。


「わたしも立会いたかったですな」 会長は残念そうに言う。


「そこで提案です」 とても真面目な面持ちでタジマが身を乗り出す。

「あなたの”鷹”が啓示を与えたのなら、それは現実となるでしょう。それをわたしは確信します」


わたしもだ、と会長が大きく頷く。

会長とタジマは言う、マコさんの症例はいずれ世界の脅威に繋がるだろうと。

それを治癒する可能性を世界中が望むだろう事を。

「これからのやり方は・・・タロさん、あんたが決めてください。何でも協力しますわい。だから・・・わしらに”奇跡”を見せてはくれまいか」


 僕はわかっていたのだ。

会長もタジマも、僕の事を、僕の大切なマコさんの事を、常識に囚われることなく助けようとしているのだ。



 「わかりました。ありがとう」 と僕は二人に頭を下げた。

「その時が来たら、ぜひ協力してくださいね」


「もちろん」 会長とタジマが声を揃えた。


 -その時-は、あっという間にやって来る事になる。


挿絵(By みてみん)


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