16.会長とタジマとチキンライス
2005年10月。
僕は久しぶりにナリタ会長の屋敷を訪れていた。
あれほど鳴り響いていた蝉時雨は既に鳴り止み、赤とんぼが林の間を飛び回っている。
「タロさんの料理、久しぶりに楽しみですわい。がははっ。なあタジマ」
作務衣を着て寛いだ会長が嬉しそうにそう言うと、タジマがにっこりと頷いた。
「そうですね。会長、タロさんの料理だけは残さず食べるんです」 タジマが水玉のエプロンをジャージの上に掛けながら僕に微笑む。
(N.A.局長のタジマも、僕や会長の前ではいつも寛いでしまうのだ)
会長の屋敷に来たときの常として、僕とタジマは台所で料理を作っていた。
「ところでタロさん、ニンニクと鷹の爪をオリーブオイルで炒めてるのって、やっぱりパスタですか?」
(料理をする時のタジマは僕のサポートに徹してくれていた)
「あはは。これからチキンライス作るんです。下地の段階でパスタにも応用できてしまうんですよ」
僕がそう言うと、タジマが手帳を取り出して書き込んでいた。
勉強になります、と言うタジマは実に勤勉なのだ。(とても権力者には見えない・・・まあ、見た目はヤクザなのだけれど)
僕はフライパンから一度ニンニクと鷹の爪を取り出し、玉ねぎとピーマンと鶏肉を炒めた。
塩コショウと砂糖で整えて赤ワインを少し。
そうしてホールトマトを入れてつぶし、醤油を少し、バター、ケチャップ、粉チーズでソースが完成する。
ご飯をフライパンに入れ、ソースを加えながら炒める。
-『ちきんらいすのナポリタン風』-
料理を取り分けた皿を居間に並べて、僕達は思い想いのお酒を手に掲げた。
「再開を祝して!」 「乾杯!」 ナリタ会長の声に、僕もタジマも答えた。
「うまいなあ」 お酒もそこそこで、実に美味しそうに会長は味わってくれる。
「無性に喫茶店で食べたくなるんですよねえ」 いつもクールなタジマ局長も、このチープな喫茶店風味には堪らないものがあるようだ。
そして、15分ほどで美味しく食べつくした僕達は、のんびりとお酒を飲み始めた。
いつの間にか陽は暮れ、涼やかな冷風が会長の小さな屋敷を吹き抜けて行った。
もう秋なのだ。