13.鷹の啓示
僕は夢の中で目覚めていた。
もちろん「夢の中で目覚める」とはおかしな表現である。
しかしそれ以外に表現のしようがなかったのだ。
僕は目覚めた瞬間にここが夢の世界である事をはっきりと自覚していた。
窓に掛かったカーテンを開け、窓を開けて空を見上げる。
夜の空には数え切れない数の星がちらちらと瞬く。
僕は夜空をじっと見つめて…その時を待ち続けた。
星屑に満たされた空。
その一画がゆらゆらと揺らぎ始める。
しばらく眺めていると、淡い霧状の渦が少しずつ広がり始める。
-感傷的なワルツ(Sentimental Waltz)- チャイコフスキー
すすり泣くようなチェロの音色がどこからか聞こえてくる。
僕は自覚していた。
僕が見ている夜空の彩りは、僕の瞳とリンクし始めているのだ。
瞳の中で鮮やかな色彩がゆっくりと廻り始め、次第にその回転は速度を増して行く。
僕の瞳から涙が溢れる。
『ようやく目覚めたな。幸一』
その瞬間、僕は宇宙空間にふんわりと浮かんでいた。
『右手を』
僕は右手を真っ直ぐに伸ばし、天高く腕を掲げた。
親指をしっかりと伸ばして僕は受け入れるのだ。
そうして僕の右手に”鷹”が留まった。
彼の鋭い爪が僕の親指に食い込み、温かい血が一筋流れる。
お久しぶりです、と僕は鷹に言う。
『5年だ』 と鷹が言う。
『5年の間、わたしはお前から離れなければならなかった。これも運命だ』
僕は頷く。たぶんそうなんだろうなと、僕には理解できていたような気がするのだ。
『沈黙の5年間、お前は”待ち続ける試練”を受けた訳だ。・・・そして』
そう言うと鷹は金色の羽を大きく広げ、目の前に大きな映像を映し出した。
『そして、マコさんを巻き込んだ』
映し出されたそれは、病室で眠るマコさんの姿だった。
-マコさんを巻き込んだ-
僕はめまいを感じて奥歯を強く噛み締めた。