12.受付のせっちゃん2
その日、あたしは不思議な夢を見た。
夢の中で、あたしは駅前のコーヒーショップに座っている。
あたしの目の前で微笑んでいるのは・・・マコ。
「あなた、誤解してるわ」 マコが寂しそうにささやく。
誤解?なにを? あたしはマコに向ってそうつぶやく。
彼女はゆっくりとした口調でささやく。
「あなたは誤解してる。タロちゃんと別れたのはわたしの方なのよ。ウソだと思うなら、わたしの家に来て」
そこで店内は急に暗くなり・・・夢が覚めたのだ。
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目が覚めても、その夢はあたしの中で奇妙に現実味を帯びていた。
・・・それから3時間後、あたしはマコの家で彼女のお父さんとお茶を飲んでいた。
たまたま休日であった事や、たまたまマコの家の電話番号があたしの携帯電話に残っていた事。
たまたまマコのお父さんも仕事が休みで暇だった事。
そんな偶然が重なったおかげで、あたしは彼女のお父さんに招かれたのだ。
せっかくだから、あたしは教えてもらうことにしたのだ、あたしの知らないマコの事やタロの事を。
「せ、せっちゃんのこと、ま、ま、マコはいつも話してましたよ」 拙い話し方でありながら、マコのお父さんは純朴な人だった。
そうして、ようやくあたしは分かったの。
とんでもない勘違いをしていた事を。
タロさんに包まれて、彼女がどれほど幸せだったのかを。
別れてもなお、彼女を見守り続けるタロさんの一途さを。
もしかしたら彼女は、どうにも仕方の無い理由で彼と別れるに至ったのかも知れない。
(これは女の勘よ)
でもその理由は・・・彼女が再び目覚めるまで永遠に謎のままである。
あたしは節子。
今日からあたしは、タロさんのファンである。