表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あの日、泣き虫だった君は隣のクラスで「高嶺の花」と呼ばれている  作者: 風莉


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/11

8.5話


 玄関のドアが閉まった音が、妙に大きく聞こえた。


 冬月凛華は一度だけ立ち止まり、背中越しにそのドアを見た。瀬戸家の表札。白い壁。朝の冷たい空気。まだ七時にもなっていないのに、世界だけがやけに明るい。


 ――入った。


 ――連絡先を交換した。


 ――通知は切らないって、頷かせた。


 必要なことは全部やった。だから本来なら、胸の奥に小さな灯りが点くはずだった。安心という形の灯りが。


 なのに、灯りは点いた瞬間から揺れている。


 凛華は指先でスマホを握り直し、画面を点けた。トーク画面の上に並んだ名前を見て、喉の奥がきゅっと締まる。


 瀬戸悠真。


 文字にするだけで、現実が濃くなる。濃くなるほど、失う可能性も濃くなる。


 背後から足音がして、凛華はすぐに表情を整えた。仮面は滑らかに貼りつく。冷たく、凛として、隙のない顔。


「凛花ちゃん、もう帰るのか?」


 瀬戸健一が玄関先まで見送りに出てきていた。寝巻きの上に上着を羽織っただけの姿が、妙に気まずいほど家庭的だ。凛華は深く頭を下げた。


「はい。突然お邪魔してしまって、すみませんでした」


「いやいや、全然。……悠真、起きてたか?」


 健一は笑う。懐かしそうで、嬉しそうで、少しだけ心配そうな笑い。


 凛華は微笑みを作った。柔らかく見えるように。外面のために。


「はい。大丈夫です」


 その“大丈夫”は、健一に向けた言葉なのに、凛華は一瞬だけ自分に言い聞かせたくなった。


 大丈夫。

 もう失わない。

 だから大丈夫。


「そうか。……また、いつでも来いよ」


 健一の言葉は温かい。温かいのに、凛華はその温度が怖い。城門が開いていると気づくと、閉じる方法まで同時に考えてしまうから。


「ありがとうございます。失礼します」


 凛華はもう一度頭を下げ、門を出た。


 歩き出した瞬間、背中に残る視線が消えた気がした。瀬戸家の玄関灯は消えていない。けれど、そこにいる人の気配は薄くなる。世界の中心から、自分が少しずつ遠ざかる。


 凛華は歩幅を一定に保ちながら、スマホを取り出した。


 送信。


『今、家を出たよ』


 すぐに続ける。


『傷、絶対にいじっちゃダメだよ』


 その次。


『朝ごはん食べた?』


 送信、送信、送信。


 短文を連投すると、胸の奥の揺れが少しだけ収まる。糸を結び直すみたいに、繋がりが確認できる気がする。画面が“送信済み”で埋まっていくと、失う可能性が薄まる気がする。


 ――すぐ既読になる。


 凛華は当然のようにそう思った。あれだけ釘を刺した。頷いた。だから、見る。見るはずだ。


 住宅街の道を曲がっても、スマホは震えない。


 凛華は歩きながら画面を見た。


 未読。


 胸の奥が、一度だけ冷える。


 でも、まだだ。寝起きだった。二度寝するかもしれない。朝食を食べるかもしれない。父親と話しているかもしれない。そういう“普通”の理由はたくさんある。


 凛華は自分に言い聞かせる。


 悠真は、普通の男の子だ。

 普通に、遅れる。

 普通に、すぐ返さない。

 だから――


 それでも指は、数分おきに画面を更新してしまう。更新して、未読で、胸が熱くなって、また更新してしまう。


 冬月家が見えてきた。


 玄関の前で一度深呼吸し、凛華は仮面を貼り直した。家に入れば母がいる。母の前では、揺れを見せない。揺れは弱さだ。弱さは、失う。


 ドアを開ける。


「ただいま」


「おかえりー。早かったじゃない。ふふ、青春?」


 母の声が明るい。台所から水音がする。


 凛華は笑わなかった。


「違う」


 短く否定して、靴を揃える。その動作にだけ、集中する。整える。整っていれば、壊れない。


 部屋に戻る途中、凛華はもう一度スマホを見た。


 未読のまま、増えた短文が並んでいる。


 凛華の胸の奥で、揺れていた灯りが――ゆっくりと、別のものに変わり始める。


 安心ではなく、焦燥に

すいません。話の順番の変え方分からなかったので一旦このままにしてます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ