例外はオレ
境界に落ちてきた人間は、迷わない。
誰かに教えられるわけでも、
看板があるわけでもないのに、
全員が同じ方向を見ている。
裁定塔だ。
初めて見るはずの建物を、
まるでずっと前から知っていたみたいに、
疑いなく目指す。
理由を聞いても、
たぶん誰も答えられない。
頭で理解する前に、
身体が知っている。
――あそこへ行けば、答えがもらえる。
自分がなぜ生きてきたのか。
なぜこんな場所に落ちたのか。
これからどうなるのか。
人生の意味とか、
役割とか、
そういうものが、
裁定塔の先に用意されていると、
最初から信じさせられている。
だから皆、歩く。
怖くても、
不安でも、
怒っていても。
止められない限り、
振り返らない。
それが希望なのか、
ただの誘導なのか、
考える余裕すら与えられない。
……でも。
俺だけは、違った。
俺は、裁定塔を知らなかった。
落ちてきたとき、
「行け」という感覚も、
「ここが正解だ」という確信も、
何ひとつなかった。
ただ、橋の下の冷たさが消えて、
知らない空気の中に立っていただけだ。
だから、立ち止まった。
そこに、リオスが現れて、
訳も分からないまま、
連れて行かれただけだった。
後になって知った。
裁定塔を自分で目指さなかった人間は、
ほとんどいない。
つまり俺は、
最初から流れの外にいた。
境界区域の端で、
俺はネコを抱いたまま立っている。
今日も、誰かが落ちてくる。
遠くで、
空気が歪む気配がした。
まただ。
俺は、そちらを見た。
今回のやつは、
どんな顔で、
裁定塔を目指すんだろうな。
シンは、
そんなことを思った。




