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やべぇ奴は大体飛ばされる  作者: 志に異議アリ


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4/15

裁定官リオス



灰色のローブの男――裁定官は、ゆっくりと振り返った。


「ついてこい。危険度審査はすぐに終わる」


声は低く、乾いた土の匂いに馴染むような冷たさがあった。

聞き取れるのに、どこか感情が抜け落ちている。


「名前……あるのか?」

俺は猫を抱いたまま、しぶしぶ男の後ろを歩く。


「リオスだ」


男はそう短く言うと、それ以上何も言わなかった。


町の視線はまだ俺に釘づけだ。

“やべぇ奴”を見るみたいに、半歩引いて、半歩好奇心で見てくる。


リオスの背中は、

“この少年を自分の責任で連れていく”

という覚悟のようなものが滲んでいて、

だからみんなが邪魔をしない。


石畳を抜け、少し開けた広場に出た。


真ん中に小さな塔が立っている。

三階建てほどの高さで、

頂点には半透明の石が埋め込まれていた。


淡い光がゆらぎ、塔全体を包むたびに、

空気の温度まで揺れる。


リオスが立ち止まる。


「ここが〈裁定塔〉だ。

異世界から落ちてきた者の危険度を見極める場所だ」


「落ちてきたって……俺は勝手に来ただけだって」


リオスは一瞬だけ目を細めた。


「光世界の者が“自分で来た”と言ったのは、初めてだ」


「光世界、ね……」

思わず笑ってしまった。

「あっちに光なんかあったかよ。家なんて地獄だったぞ」


リオスは、俺の笑いの意味を測れないように、首を傾けず、ただ続けた。


「光世界は、この世界にとって“上層”。

そこから落ちてくる者は、本来……祝福された存在とされる」


「祝福?」

思わずネコを見る。

ネコは無表情で毛づくろいしている。


「でもお前ら、最初オレを“やべぇ奴”扱いしたよな」


「光世界の民がすべて善良ではない。

光は上にあるというだけのことだ。

そこに何があるかまでは、誰にも分からん」


塔の入口が、自動で軋んで開いた。


リオスが手を軽く振ると、

塔の中の空気がふわりと揺らぐ。


「少年、名前は?」


「……名乗るほどのもんじゃねぇよ」


「名乗れ。裁定の記録は必要だ」


少しだけ迷って、

胸の中で丸くなるネコの体温を感じながら言った。


「シン。……それでいい」


「では、シン。

ネコとともに――中へ」


塔の中は暗く、天井が高い。

静寂が重くて、足音さえ吸い込まれる。


リオスが中央の石台を指さす。


「そこに立て。

“飛ばされるほどやべぇ奴かどうか”、

ここで最終判定する」


石台の上で、ネコが「ニャ」と小さく鳴いた。

まるで「気にすんな」とでも言うように。


胸が少しだけ軽くなる。


リオスが手を掲げた。


光が、塔の頂点から降りてきた。


……その瞬間、

俺の影が黒く伸び――

またあの“赤紋”が、足元にじわりと浮かび上がった。


リオスが低く呟く。


「……出たな。赤紋」


周りの空気が震える。


だけど――


ネコが、まるで当然のように、

俺の足の上にポン、と乗った。


赤紋が止まる。


リオスの目が、大きく見開かれた。


「……やはり“緑紋”に……書き換わる……?

こんな事例は、記録にない……」


緑の光が、ゆっくり俺の影を包む。


リオスが息を飲む。


「シン……

お前は……“普通の光落ち”ではない……」


光が消える。


リオスが、恐る恐る一歩近づいてきて言った。


「少年。

 ……お前はいったい、何者だ?」


俺は答えられなかった。


俺自身、まだ知らなかったからだ。


ただ――ネコだけが、

俺の足元に座り、尻尾をゆらりと揺らした。




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