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やべぇ奴は大体飛ばされる  作者: 志に異議アリ


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3/15

オレはなんだ?



光の向こうに足を踏み入れた瞬間、

空気が変わった。


湿った川辺の匂いは消えて、代わりに乾いた土の匂いが鼻をつく。

目を開けると、俺は知らない町の真ん中に立っていた。


石畳の路地。

古い木造の家。

猫は腕の中で小さく震えたが、逃げようとはしない。


「……どこだよ、ここ」


誰も答えない。


ただ、俺を取り囲むように、遠くからざわ…っとした視線が重なる。

市場みたいな場所で、野菜を売ってる女が俺を指さした。


「ねえ、あれ――“光落ち”じゃない?」


「昨日もあったろ? また悪い魂だよ」


「早く判定塔に連れていかないと!」


ざわつきはすぐに波になって、俺を押し流す。

誰も近づかない。けど誰も逃げない。

まるで危険物を見るみたいに、一定の距離だけを保って俺を取り囲んでくる。


猫を抱えたまま、一歩後ずさる。


「おい、何だよ“判定”って……」


言い終わる前に、

俺の足元で、石畳が――光った。


真っ黒な俺の影が、じわ…っと浮かび上がる。

影の真ん中に、赤い紋が点滅し始めた。


「……は?」


周囲の人間が一斉に叫んだ。


「赤紋だ!! 逃げろ!!」


「悪人判定! “飛ばされる”ぞ!!」


逃げるのは俺じゃない。

周りの人間だ。


俺は訳もわからず立ち尽くす。

猫だけが、胸の中で静かに耳を伏せている。


赤い紋は明滅しながら、俺の影を食うように広がっていく。

影が薄くなる。

足元が浮くような感覚が足にまとわりつく。


“悪い奴は飛ばされる”


なら俺は――飛ばされる側なのか?


いや、待て。

俺は確かに悪いことは山ほどしてきたけど……

でも、飛ばされるって何だよ。どこにだよ。


影が揺らぎ、俺の足がズル…っと沈みかけた、そのとき。


突然、猫が俺の腕から飛び出し、足元の紋に前足を突っ込んだ。


「おい、やめ――!」


赤紋が、ピタッと消えた。


代わりに、緑色の紋が現れた。

人混みがさらにざわめく。


「緑紋!? 何だあれ!」


「共存値が跳ね上がってる……? ありえない、悪人なのに!」


「猫が判定を上書きしたのか?」


俺は訳が分からないまま、猫を抱き直す。

猫の瞳は、俺ではなくどこか遠くを見ていた。


そのとき――

人混みの奥から、一人の男がゆっくり歩み寄ってきた。


深い灰色のローブ。

胸元には“判定官”の紋章。


鋭い視線で俺を見据え、口を開く。


「少年。お前は……“飛ばされる悪”ではないらしい」


そう言って、男はわずかに目を細めた。


「だが、異物には変わりない。ついてこい。正式に検査する必要がある」


猫が「ニャ」と鳴き、俺の胸に顔をうずめた。


――俺はもう一度、生きるのか。


それとも、次の“判定”で本当に飛ばされるのか。


俺は猫を抱き、ゆっくり息を整えると、

灰色のローブの男のあとを歩き出した。


遠巻きに見守る町の人々は、まだ俺を“危ないもの”みたいに見ていた。


でも、さっきよりは――ほんの少しだけ、その目が柔らかい気がした。




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