最終話
病室の外。
医師と看護師が、記録用タブレットを見ながら立ち話をしている。
「……家族、来ないんですか」
「ああ。脳死判定の同意が出ないって」 「でも延命はしたくないらしい」
看護師が、ため息をつく。
「じゃあ、どうするんですか」
「どうもこうも。生きてる扱いだから治療は続ける」
「でも費用は払いたくない、見舞いも来ない」
言葉が、雑音みたいに落ちる。
「……正直さ」
医師は小さく声を落とした。
「この状態なら、もう“死んでる”のと同じなんだけどね」
看護師は何も言わなかった。
言えなかったのかもしれない。
モニターの音だけが、規則正しく鳴っている。
───
シンは、暗闇の中に立っていた。
あの少年との別れを惜しむ間もなく
この暗闇に瞬きを1つした瞬間、
いきなり飛ばされていた……
境界でもない。
塔でもない。
ただ、何もない空間。
そこに、二つの選択肢が浮かぶ。
文字だけだ。
装飾も、色もない。
────────────
▶ 死ぬ
▶ 留まる
────────────
説明は、それだけ。
期限もない。
警告もない。
誰の声も聞こえない。
ネコはいない。
リオスもいない。
少年もいない。
――初めて、完全に一人だった。
シンは思った。
生きろ、と言われたことはない。
死ね、と言われたこともない。
それでも。
問いだけは、ずっとあった。
「お前は、どうしたい?」
その問いを、
初めて自分自身に向ける。
シンは、まだ選ばない。
だが、逃げもしなかった。
画面は、静かに待ち続けている。




