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やべぇ奴は大体飛ばされる  作者: 志に異議アリ


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選択肢



しばらく、少年と並んで座っていた。


境界区域の石は冷たい。 でも、少年は足を引っ込めようともしなかった。


不思議だった。


ここに落ちてきた人間は、 誰だって最初は取り乱す。 泣くか、怒るか、縋るか。


なのに、この子は違う。


驚かない。 騒がない。 不安そうな顔もしない。


……怖くないわけじゃないはずだ。


なのに、感情が外に出てこない。


それが、ずっと引っかかっていた。


「……なあ」


俺は、ゆっくり声を出した。 驚かせないように。


「ここがどこか、分からなくて怖くないか」


少年は、少し考えた。


すぐには答えない。 でも、黙り込むわけでもない。


「……うん」


短い。


「でも、いつも分かんないから」


いつも?


「家でも、学校でも、  急に怒られるから」


淡々とした声だった。


怒られた理由を説明するでもなく、 恨み言もない。


事実を並べているだけ。


「どこにいても、  何が正解か分からない」


ああ――


そうか。


俺は、そこでやっと分かった。


この子は、 考えるのをやめてきたんだ。


不安になる前に、 恐怖を感じる前に、 期待する前に。


どうせ、 何をしても怒られる。


どうせ、 何を選んでも殴られる。


だったら―― 選ばない。


感じない。


考えない。


そうやって、 生き延びてきた。


俺の喉が、きゅっと締まった。


「……じゃあさ」


言葉を選ぶ。


今まで、誰にも聞いたことのない問いを、 この子に投げるのが、 少し怖かった。


「君は、どうしたい」


少年は、ぴたりと動きを止めた。


初めて、 本当に初めて、 困った顔をした。


「……え?」


その顔を見た瞬間、 胸の奥が強く揺れた。


この反応だ。


怒られる心配でも、 拒否される不安でもない。


答えを持っていない顔。


「どうしたいか、だよ」


俺は、続けた。


「ここにいたいか」 「裁定塔に行きたいか」 「帰りたいか」


「……どれでもいい」


嘘じゃない。


本当に、どれでもよかった。


少年は、視線を落とした。


小さな手が、 ぎゅっと握られる。


長い沈黙。


ネコが、俺の膝の上で丸くなる。


少年は、その背中を見つめてから、 ぽつりと口を開いた。


「……わかんない」


その声は、 今までで一番、弱かった。


「決めたら、  怒られる気がする」


――ああ。


そうだよな。


自分の意思を持った瞬間、 罰が来る世界で生きてきたら。


「どうしたい」なんて、 質問そのものが暴力だ。


俺は、気づかずに、 同じことをしそうになっていた。


でも。


次に少年が言った言葉で、 胸が、どうしようもなく熱くなった。


「……でも」


小さな声。


「ネコがいるとこなら、  ちょっと……いい」


ほんの一瞬、 逃げるみたいに俺を見る。


許可を求める目だった。


俺は、何も言えなかった。


ただ、 胸の奥が、強く、強く鳴った。


ああ。


この子は、 何かを欲しがった。


ほんの少し。 ほんの小さく。


それでも、 自分の気持ちを口にした。


それがどれだけの勇気か、 俺には分かる。


分かってしまった。


シンは思った。


――この子に、 「選んでもいい」と教える前に、 奪われるわけにはいかない。


絶対に。

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