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やべぇ奴は大体飛ばされる  作者: 志に異議アリ


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11/15

少年



境界区域には、慣れというものがある。


人が落ちてくる前兆も、

空気の歪み方も、

だいたい分かるようになってきた。


それでも――

毎回、少しだけ身構えてしまう。


また、

何かを背負ったままの人間が来る。


そう思うからだ。


その時も、同じだった。


空気が、静かに裂ける。


音はない。

光も派手じゃない。


ただ、ぽつんと、

小さな影が地面に現れた。


……子供だった。


いや、

正確には「少年」か。


俺より少し背が低くて、

細くて、

年齢は……十歳前後だろうか。


少年は、立っていた。


泣いてもいない。

叫んでもいない。


転移した直後だっていうのに、

地面に座り込むこともなく、

ただ、ぼんやりと周囲を見ていた。


裁定塔の方向も、見ていない。


それが、まずおかしかった。


落ちてきた人間は、

みんな最初に塔を見る。


期待でも、怒りでも、恐怖でもいい。

何かしらの感情を、

あそこに向ける。


でも少年は違った。


目が、低い。


空じゃなく、

塔でもなく、

自分の足元を見ている。


俺は、距離を保ったまま立っていた。


役目は「最初に会え」だ。

近づけとは言われていない。


ネコが、俺の腕の中で小さく身じろぎした。


少年は、それに気づいた。


ゆっくり、顔を上げる。


目が合った。


……驚きはなかった。


警戒も、

期待も、

怒りも。


どれも、なかった。


まるで、

「人がいること」に、

最初から慣れているみたいな目だった。


「……ここ、どこ?」


声は小さかった。

でも、はっきりしていた。


俺は、すぐに答えなかった。


これまでの経験が、

勝手にブレーキをかける。


下手なことを言えば、

壊れるかもしれない。


少年は、

俺の沈黙を気にしなかった。


視線を逸らして、

周囲を見回す。


「……お兄さん」


その呼び方に、

少しだけ胸が引っかかった。


「ここ、怒られない?」


……ああ。


そういう世界から来たのか。


「怒られない、と思う」


俺は、そう答えた。


嘘ではない。

でも、保証でもない。


少年は、少し考えてから、

小さくうなずいた。


それだけだった。


裁定塔の方向を、

一度も見ないまま。


「……帰らなきゃ、だめ?」


ぽつりと、そう言った。


帰る場所がある言い方じゃなかった。


帰らなきゃ「いけない」場所がある。

そんな声だった。


俺は、何も言えなかった。


期待を持ってきた人も、

何も期待しない人も、

怒りをぶつけてきた人も。


みんな、

自分の感情を外に出していた。


でもこの少年は、

何も持っていないみたいだった。


いや――

持たないようにしている。


そう感じた。


ネコが、俺の腕の中で、

小さく尻尾を揺らした。


少年は、それを見て、

ほんの一瞬だけ、

口元をゆるめた。


笑った、とは言えない。


ただ、

「かわいい」と思った時の顔だった。


その顔を見た瞬間、

胸の奥が、

嫌な音を立てた。


……まずい。


これは、

今までの連中とは違う。


俺は、

初めてそう思った。


シンは、

この子を放っておいたら、

取り返しがつかない気がした。

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