【第1話】:辞令は突然に ~俺ってやっぱ仕事できるわ~
はぁ~。俺ってやっぱ仕事出来るわ!
今朝も発注ミスゼロ。
椅子をくるりと回転させ、自分に酔っていた。
この道10年は伊達じゃないな。細かい気配りの出来る男。
俺は寺優仁32歳、夢幻株式会社の総務部で働いている。
そうだ。今日納品された事務用品の中から、ボールペンの替え芯を掴み、経理部に向かった。
「こよりちゃん、頼まれてたボールペンの替え芯、赤と黒!」
「わぁ、昨日注文したのに、もう?仕事早いね!仁君、ほんと頼りになるなあ。」
(彼女の笑顔に、心の中で小さくガッツポーズした。)
この子はこよりちゃん。バリバリの経理でちょっと天然?、そして、この可愛さ、反則だよね。
総務部に戻りながら、一人、ニヤついていた。
……まさか、こよりちゃんと俺が付き合ってるなんてさ。まぁ、二人だけの秘密。
本当は自慢したいところけど、社内恋愛って色々あるから、しばらくは皆には内緒にしようと思っている。
デスクに戻ったら、部長から呼び出された。
「寺優、人事部に行ってくれ!」
え、人事部?……なんだ?
……まさか?いきなり昇進?
あるな……。これはある。
大卒で10年目だし、いよいよ、出世コースか?
期待交じりで、人事部の扉を開けると、同期の桜井がいた。
こいつ同期なのに、もう課長なんだよな。まぁ、俺も、今日課長になるんだろうけどさ。
「おう、寺優、元気か?お前、来月の1日付で、販売促進課に異動が決まったから。」
「え?販売促進課??異動?……正式に?」
「ああ、もう正式に辞令が出てるよ。」
え?え?販売促進課って……他の会社でいう、営業事務だよな……俺、総務部の課長になるんじゃなかったのか??
……あ!
「俺、販売促進課の課長とか?」
桜井は、目を丸くして、
「あはは。お前、昇進試験受けてないだろ?可笑しなこと言うなよ。」
あ、そうだった……。
俺、昇進試験受けてないことすら忘れてた……。
辞令って、こんなに突然来るものなんだな……、この会社に入社して10年、ずっと総務しかやって来なかったし、異動の少ない会社だから、ずっとこのままだと思ってた。
突然の出来事に、どう受け止めていいのか分からずに、家路についた。
俺、総務部好きだったんだけどな……。俺、結構マメだしさ。
皆に必要とされてる感があったし、まぁ、でも、販売促進課か……。
俺、そこでも必要とされてるってことだよな。
缶チューハイ片手に、家のベランダから星を眺めていた。
To be continued…
※この作品は note 掲載作品の再投稿です(加筆修正版)。




