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夏奇譚

作者: うーたん

高校生の頃、夏休みの宿題として書いた短編です。私の通っていた高校は、読書感想文の代わりに小説を書いて提出するのでもOKでした。

夏といえば田舎と幽霊ですね!なお話。

 僕は夏が嫌いだ。

 なぜなら、あの人が来るからだ。

 

 今日も蝉が鳴いている。

 僕はそろそろ起きようと身体を起こした。

 

 ……やはりいる。今年も彼女がやってきたのだ。

「れい子さん、今年も来たの?」

 僕が声をかけると、彼女は窓際からこちらに視線を向けた。彼女は今年も白いワンピースを着ている。

「うん!だって、この時期はみんな家族のところに帰っちゃって暇なんだもん」

 彼女は少し頬を膨らませながら言う。この時期とはお盆のことだ。

 そう、れい子さんとは毎年なぜかお盆になると僕のところに現れる幽霊なのだ。物心ついた時にはすでに現れるようになっていたので、もはや怖いという感情もない。


「それにしても翔、一年会わなかっただけでかっこよくなったわねえ。今年から中学生だもんねえ」

 れい子さんが見た目に反して親戚のおばちゃんのような話し方をするので、僕は少し笑いそうになった。

 

「翔ー、そろそろ出発するわよー」

 出かける準備をしていると母から声がかかったため、僕は急いで一階におりた。

 そう、僕は今日から田舎のおじいちゃんの家に行くのだ。おばあちゃんのお墓参りという名目だったが、僕はおじいちゃんと従兄弟たちに会うのが楽しみだった。


「……れい子さんも来る?」

 一人家で待っているのもなんだか可哀想な気がして、僕はれい子さんにそう尋ねる。まあ、毎年のことなので聞かなくても答えはわかっているのだが。

「もちろん!」

 れい子さんはとびきりの笑顔で答えた。


 田舎までは父の運転する車で三時間ほどだ。途中でパーキングエリアに寄ってお昼ご飯を食べ、おじいちゃんの家に着いたのは夕方頃だった。


「お〜、よく来たよく来た」

 到着するなり、おじいちゃんは優しい笑顔で僕たちを迎えてくれた。

 従兄弟家族は先に到着していたようだ。僕は従兄弟とたくさん遊びたかったが、長旅で疲れていたためか晩御飯を食べた後すぐに寝てしまった。


「おい、翔!虫取りに行こう!」

 従兄弟の声で目を覚ました僕は急いで洗顔と歯磨きを済ませ、朝ご飯をかき込むとすぐさま外へと繰り出した。流石にもう虫取りではしゃぐような年齢でもなかったので、弟に付き合ってあげるような気分だ。

 しかし、一年ぶりにしてみるとやはり楽しいものである。普段住んでいるところではなかなか出来ないことができるのも、田舎に帰った時の楽しさの一つだった。

 それと、虫取りに着いてきていたれい子さんにバッタを近づけると叫びながら逃げていくのも面白かった。あとで本気で怒られたけど。


 それからの数日間は、従兄弟と虫取りや探検、川遊びをして自然の中でたくさん遊んだ。

 しかし、一週間もすれば流石に遊びも尽きてくる。

「あーあ、暇だなあ」

 なにしろここは田舎だ。テレビも数局しか映らないし、近くにゲームセンターもない。

 

「そろそろ宿題でもするかあ」

 普段なら宿題を自発的にするなんてことは絶対になかったが、人は暇すぎると宿題をしようと思うんだなと発見した日だった。

「勉強、教えてあげようか?」

 れい子さんがニヤニヤしながら言う。

 なぜか少しイラッとした。

 

「もう一時間も勉強しっぱなしだよ〜、少しは休憩したら?ほら、冷凍庫からアイス取ってきてあげたよ!」

 そう言うとれい子さんは僕の頬に棒アイスを押し当てた。

「冷たっ!でも、れい子さんナイス!」

 普段はしない勉強を一時間も続けて飽き始めていた僕は、れい子さんが差し出したアイスを受け取る。

 

「そういえば、なんで翔は私のことれい子さんって呼ぶの?」

 そう聞かれて考えてみると、僕はれい子さんに名前を聞いたことはなかった。

「ん〜なんとなく?だって、幽霊でしょ。」

 我ながら安直なネーミングだが、多分幼い頃の僕が名づけたのだろう。気づいたらそう呼んでいたので、深く考えたことはなかった。

 すると、何がツボに入ったのか知らないが、れい子さんは手を叩きながら笑っていた。

「確かに!翔、天才かも!」

 そこまで褒められるほどのネーミングセンスではないけどなと思いつつ、褒められるのに悪い気はしなかった。

 

「毎年翔といると楽しいわあ。だから、私、夏って好きなんだよねえ」

「……僕は夏、嫌いだな。」

「なんで?……私のこと、怖い?」

 れい子さんは不安そうな顔をしていた。いつも笑顔のれい子さんのこのような表情を見たのは初めてだったので、言ってはいけないようなことを言ってしまった気がした。 

 だけど、止まらない。

「違う。だって、明日にはれい子さん帰っちゃうんでしょ?」

 明日はおばあちゃんのお墓参りの日だ。れい子さんは毎年この日に帰ってしまう。僕は毎年れい子さんと別れるのが辛かった。

「何言ってんの、必ずまた来年来るよ!そうだ、今日は寝るまでずっとおしゃべり大会しよう!」

 れい子さんの明るい笑顔につられて自然と僕も笑顔になる。結局、その日は日付が変わるまでずっとおしゃべりをしていた。こんなに遅くまで起きていたのは初めてだった。

 

 翌朝、いつもより眠い目をこすりながらおばあちゃんのお墓がある霊園へと歩く。おじいちゃんが墓石に水をかけ、掃除する。慣れた手つきだ。


 それが終わるとおじいちゃんと両親は墓石に向かって色々と話しかけていた。僕とれい子さんはただその様子を見つめていた。

 れい子さんはいつも、お墓参りの帰りにいなくなる。僕はふと思いつく。もしかしたら、れい子さんのお墓はこの霊園の中にあるのかもしれない。それならお参りしてあげたい。

 しかし、れい子さんの名前を知らない僕にはどうすることもできなかった。

 

 少し日が暮れてきた頃、おじいちゃんが「そろそろ帰ろうか」と言って立ち上がったのを合図に、僕たちは帰ることにした。


 ふとれい子さんの方を見ると泣きそうな顔をしている。

 いつもは気づくといなくなっているので、別れの瞬間を見るのは初めてだった。

「翔、元気でね。また来年も来るから、それまでいい子で過ごすんだよ。いっぱいご飯を食べていっぱい寝て、いっぱい遊ぶんだよ」

 いつもはしない、別れの挨拶。

 昨日、僕があんなことを言ったからかもしれない。

 

 帰り道ではおばあちゃんの話で持ちきりだった。

「おばあちゃんは若い頃とても綺麗でなあ。まあ幾つになってもおじいちゃんからしたら綺麗だったんだがな。おばあちゃんはモテモテだったから、おじいちゃんにはライバルがいっぱいいて苦労したもんだよ」

 がははと笑いながら言うおじいちゃんに、両親も笑っていた。

「そういえば、翔はおばあちゃんの若い頃の写真って見たことあるか?遺影の写真も亡くなる直前のものだから、見たことないんじゃないか?」

 言われてみれば、見たことがないような気がする。

「なら、帰ったらいろんな写真を見せてやる!」

 おばあちゃんの話をしている時のおじいちゃんはとても楽しそうだ。

 

「おばあちゃんの昔の写真、久々に見たけど、やっぱりすごく美人だね〜」

 お母さんがしみじみとした様子で言う。その横でお父さんも頷いていた。二人を近くで見ていたおじいちゃんは、なんだか少し誇らしげだった。

「翔も見てみい。」

 おじいちゃんに呼ばれて僕も三人の元へと駆け寄り、アルバムを覗き込む。

 

 そこに写っていたのは、笑顔のれい子さんだった。

最後までお読みいただきありがとうございました!

感想やアドバイスをいただけると嬉しいです。

途中でオチが読めた方は多かったと思いますが、それでも最後まで読んでくださったアナタはお優しい方です!

他にも短編を投稿していますので、よければそちらもご覧ください☺️

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