エピソード5 尽くしたい男
「おかえりー‼︎」
都原が操縦用アーマーを脱ぎ、ゴーグルを外すとドルチェが抱き付いた。
リッジスが操縦する時は唾でも吐きかけるような表情で出迎えるのに、どういう訳か都原の時だけ首に腕を回し抱きついてくる少女である。
「なによなによ‼︎ 凄いじゃない‼︎ あたしたちってあんな凄いもん作っちゃったわけ⁉︎」
目を輝かせて都原の身体を揺さぶる。
「VSAの性能の底上げ‼︎ これならソーディスで表彰よ‼︎」
悪気なんて微塵も感じないし、都原も特に嫌ではないので抵抗はしないのだが、最近は兎に角、
「く…苦しい…ギブ…ギブッ…」
月日が経つにつれ力が増してる気がする。
「あっ‼︎ ゴッめんね〜…ハハハ…」
腕を解くと顔を少し赤くして、数歩後退しながら明後日の方向を見て謝る。
ホウッと息を吐く都原と赤面中のドルチェをリッジスがニヤニヤしながら眺め、
「プッ…わっかりやす…」
横を向いて吹き出すリッジスに、
「なんか文句ある?」
「ヒッ…すみません…」
都原の位置からはドルチェの表情は見えないが、何となくリッジスが青い顔して縮こまる様子で理解する。
「都原くん、お帰りなさい」
そう言って眼鏡の少年は片手を差し出す。
「ただいま‼︎ ケビン‼︎」
その手をがっしり掴んで都原は、
「INO凄かった‼︎」
「それを一回のシミュレーションで乗りこなす君もね‼︎」
言葉より目で語り合ってるような二人の横から、
「やれやれ、年寄りは蚊帳の外かい?」
くたびれた赤いワイシャツの上に白衣を着た鋭いが、優しそうな目の二十代後半の男、ハリス・ウォードンである。
なんでも学園コロニーでも有名な名門ロアス大学の王都コロニーにある本校出身の優秀な教師だそうだ。
「バックアップの保存はしといたよ」
「ありがとうございます。先生が機材とかこの部屋を確保してくれなきゃ、今こうしてこのジョブやれてないですから」
誠実なケビンにハリスは鼻を鳴らして、得意げな顔をすると、
「大変だったよー、ソーディスの元くノ一に踏まれたり、ラボのドSお姉さんの豚になったり、路地裏の店の変な薬作ってる魔女の靴舐めたり、大変だったんだから‼︎」
胸を張るハリス。
「全部まともな調達の仕方じゃないんだけど…」
リッジスに4の字固めをキメていたドルチェがジト目で呟く。
「一人には今日会ってるしね」
ドルチェに解放されたリッジスが、身体の節々を摩りながらコンソールに腰を掛け言う。
「とりあえず、今日のところはINOの良いデータは取れた。基本となるセイバーかサムライの情報は無いと困るし、製品としては完成は近いかな。ドルチェちゃんとリッジスくんのデータも今度取らせてね」
年相応の笑顔で満足を表現する、最年少の少年であるケビンは操縦士ではなく開発者志望なので、そちらの実績として良いものが作れて嬉しいのだろう。
「あたし達のデータで役に立つかわからないけどね。…変なこと聞くけど、ケビンくん? これってさ? 完成したらどれくらいのお金あたしたちに入るの?」
実家が割と裕福なドルチェのこの質問は純粋な意味でだろう。
「ジョブって儲かり過ぎると生徒が学校辞めてそっち行っちゃうのを防ぐために報酬は若干少なめだけど、INOが無事出来上がればザッと五、六十万じゃないかな?」
「わお…結構多いな」
片手の指を一本ずつ曲げて使い道を考える都原。
「貰ったらみんなで焼肉食べに行こうよ」
「そうね、でも焼肉は安い店でなるべく抑えて、あたしは前から欲しかったロザンナ先生も持ってるソーディスマークの服が欲しいわ」
各々目を輝かすと、
「…INOがここまで出来上がるのに一年か…」
感慨深そうに天井の隅を見る都原。
「今日はよく眠れそうだね」
「リッジスくんはいつもよく寝てそうじゃん。先生、今日は少し早いですが上がりにしません?」
「OK、みんなよく頑張ってるし僕がジュース奢るから好きなの飲んで帰りなさい」
細い目を少し開けてひょうきんに笑う、ハリス。
「「先生ありがとう‼︎」」
生徒一同同時に感謝を表す。
「いいよいいよ‼︎ 教師なんて子供のサポートが仕事なんだから‼︎ お礼にドルチェちゃんの靴下くれればいいさ」
「ねえ‼︎ コイツ絶対教師になっちゃダメなやつじゃん‼︎」
ああ、こういう友達との会話、僕もしばらくしてませんから羨ましい。次のエピソードから変化、というかまあ起というか?そういう感じです。