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エピソード3 ジョブ 下

 電脳世界に都原カイトは放たれた。

 電脳世界は都原達が通うレゾナンスを模写した街である。

 背の低い建物が密集する繁華街に高層ビルが建ち並ぶオフィス街、河川敷に橋、複雑に入り組んだ高速道路にソーディスのある丘陵地帯、遠くに天を貫く生徒会タワーまで再現されている。

 現在、ソーディスの丘陵地帯の麓の市街地に都原が操るフェンサーは佇んでいる。

 都原はフェンサーの指を曲げたり伸ばしたりした後、強く握って、感覚を確かめる。ついでに数回その場で跳躍する。

「よし‼︎」

 このジョブで何度も扱っている機体だ、都原の身体によく馴染む。

 視界も感覚も自分の身体のようだ。

 フェンサーは、現実にも存在するVSAである。

 フェンサーは高さ約7メートルある背丈の機体であり、その姿は例えると戦国時代の武士をイメージする容姿である。腕部と肩、胴、腰、脚部を和式甲冑を模した鎧で包み、頭部は額当てのような装甲が着いていて、その下に少し窪んで人間の目の様に二つのカメラが備わっている。A装備の柄のやや長い細身の実体剣を装備している。

 VSAといってもその種類は多彩だ。大剣を使用し近接戦闘で最も攻撃力のあるセイバー。槍による中距離戦が得意なランサー。遠距離戦にのみ特化した大型火器を使用するバスター。拳銃やショットガンを使用する中距離から遠距離攻撃を得意とするガンナー。守りに最も秀で攻撃手段が最も乏しいため他のクラスとの共闘が前提のタンク。得物を持たずに強固に作られた腕部と脚部による打撃戦と、その運動性の高さゆえ、投げ技を使えるグラップラー。細かに分け出したらきりが無いほど種類のあるベーシックモデルの中で、サムライはランサーとセイバーの両方の特徴を持つモデルである。

 

「さて、早速。INO、索敵を頼む」

『OK…半径300メートルを探します』

 都原の視界の右上に透けたソナー画面が表示される。

『アンサー、距離134メートル、十四時の方向からこちらへ接近しています』

 ソナーを見ると、確かにその反応が光点で表示されている。

「あっちか…」

 都原の視界には幅の広い二車線の交差した道路がある。

 ソナーの反応を見る限り、その交差点から敵は来るだろう。

 剣をやや斜めにし構え、敵が現れるのを待つ。

『タイミングの計算もできますよ』

 さすが補助AI気が効く。

「頼む」

『OK、カウントダウン…3…2…1…』

 交差点の端に影が見えると、都原は先手を打つ。

 フェンサーの駆動系が一瞬収縮すると、一気に解放され弾丸のようなスピードで駆け出す。

 同時に交差点に現れた、上段に刀を構えた灰色のカラーリングの同型機に下段から実体剣を斜めに振り上げ、切り掛かる。

 金属の擦れ合う音。

 相手の横薙ぎの斬撃を上方に跳ね上げると、都原はさらに一歩踏み込み、そのまま相手の胴を狙い横に一回転して払う。

 敵フェンサーはそれを後方に跳躍し避ける。

 どうやら慣れた相手とは一味違うようだ。

 都原は一度片手ずつゆっくり柄をを握り直すと、

「仕留めるつもりだったんだけどなぁ…」

 ハードモードだけあって異様なオーラを敵機から感じる。

 同じ中段の構えで睨み合う両機。

 先に動いたのは相手だった。

 一瞬、重心が横にずれたと思うと、それで溜めを作り一気に間合いを詰めてくる。

 都原はそれを突きの動作と認識すると、左半身を一歩後退させるだけで避け、同時に身体を捻るように跳躍し、敵フェンサーの左腕部に一撃を加えようとする。

 が、敵フェンサーはそれを急制動で身を翻すように動きながら、刀を振り上げ対抗する。こちらの剣を跳ね除け、そのまま、また中段の構え。

 都原も後方に跳躍し、間合いを取る。


『都原くん、聞こえる?』


 ケビンの声が脳に直接響く。


「聞こえる聞こえる」

 敵フェンサーの挙動に注意しながら都原は応える。

 あちらは現実の方でコンソールのマイクで話しかけているのだろう。

 ケビンもまたこちらの集中を妨げないように落ち着いた口調で話す。

『ハードモードは中々厄介でしょ?』

「そうだな、普通なら二撃目で仕留めてた。ノーマルはあんな細やかな動きはしなかった」

 対戦相手に注意しつつ、都原は周囲の状況を最小限の眼の動きで確認しながら返す。

『まあ、ソーディスのシミュレーターのCPUを僕とハリス先生が少しいじったからねー。忠告すると、ソイツはもっと変な動きするよ』

 横にジリジリとすり足で動きながら都原は、

「変なって、どんなだ?」

『生物的というか、まずCPUもしなさそうな動きだね』

「全然わかんねえ…」

 それを聞いて、敵フェンサーが少し気持ち悪い存在に見えてきた。 

『CPUもキミの腕前はわかっただろうから…そろそろ、して来るんじゃないかな?』

「んーむ…」

『ヒント、INOが必要な状況にわざとしてる』

「なんか、考えても意味なさそうだからやってみる」

『それでいいと思うよ』

 

 それはケビンが言うのと同時、敵フェンサーは大きく後方に飛び、一瞬頭を下げてしゃがむような体制をとると、道路脇の建物に鋭角に突進するように走り出す。

「⁉︎」

構えを崩さないように気をつけつつも、敵フェンサーのおかしな動きに都原は動揺する。

 敵フェンサーは勢いを殺さず体勢を少し斜めにし建物の壁面を蹴り、数歩壁走りし、こちらに体重をかけた一撃を放ってきた。

 それを都原は刀身で受け止める。

「ちいい…っ…‼︎」

 ぶつかり合う刀から火花が散り、機体が軋み、若干地面に沈みそうな感覚を覚える。

 そこから、重い連撃をこちらの機体の全ての関節部を狙う様に切り込んでは一歩進みを繰り返し、体勢の整わないこちらをまるで楽しんでいるかのように、弄ぶ。

 それら全てを剣を右に左に必死に振って受ける都原。

 そして、敵フェンサーが一段と力の籠った袈裟斬りを繰り出すと、それを受けたこちらの刀身を滑る様に、刃が通り過ぎ。

 間髪入れずに振り抜いた刀を手首を返し、一度刀が通った軌跡をなぞるように振り上げる。

 燕返しだ。

 体勢を崩した都原の頭部の少し下、首を切り落としに襲いくるその一撃に都原は、

(ダメだ…当たる‼︎)

 VSAという縛りのない生身の彼なら、おそらく避けられるのだろう。しかし、これは現実に最も近い水準の仮想世界のVSA戦…機体は反応してくれないだろう。

 敵フェンサーの振るう刀身が首に触れるかと思われる刹那、都原は…

「あっきらめてたまるかーーーーーーっ‼︎」

『OK』

 都原とINOとの声が重なったと同時、機体が重さを無くし、残像でも残すかのように上半身だけ微かに仰け反ると、

敵フェンサーの刃は空を切り、都原の操るフェンサーは独楽のように右脚を軸に一度回ると、遠心力を受けた刀身を敵の胴を大きく斜めに切り上げるように切断した。


INO発動でございます。シンクロとはまた違うシステムの表現を考えてみました。もう既存のアイデアかも知れませんが、頑張った٩( 'ω' )و

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