エピソード56 魔子祓いの乖離人
「今あいつが何をして来て自分が何をすべきかわかった…この感覚は…未来が見え…た…?」
プラネテスジョーカーのコックピットで都原カイトは呟く。
『お前今何したし?まるで背中に目があるみたいな動きだったし!』
『もしかして今のがパラレルヴィジョンかな?カイトくん今の回避からの反撃はあなたが操作したの?』
視界の端のラシーとルナが都原に問う。
「ああ、俺が動かしたのは確かだ。だけど自分でもよくわからないんだ。あいつの動きと自分の動きの先が見えたような? INO? 今のは?」
『不完全なパラレルヴィジョンの発動、ですね。こちらがあちらに、接触してからの数秒の情報から導き出した1027の可能性の中から最適解をあなたに提示、したのです。私とオルフェウス・コアの演算スピードの成せる技です。しかし、まだ情報量が足りない。3分ほど戦闘データを取らせて頂ければより精度の高い解答を提供出来ます』
INOは淡々と答えるが、
『並行世界の可能性から最適解を導き出したということね、こんな機能を持つVSAは初めてだねラシーちゃん』
『聞いたことも無い機能だし、それでお前はなんともないのか?』
「特に異常は無いな。INO情報収集を頼む。それと今のまだ少しだけ使わせてくれ」
『かしこまりました』
「ありがとう。お姉さんズ!周囲の状況をよく見ていてくれないか? と、あちらさんも流石に長々と休憩させてはくれないか…」
ミストルティンは滅葬槍を手に不気味にこちらを睨み佇んでいる。
『待て待て待て!俺も居るぜ!?』
プラネテスジョーカーの隣にアルバのディ・ソードが並び立つ。
『艦長!あなたは負傷しています!ミストルティンの相手はいくらあなたでも今のバイタル値とディ・ソードでは辛いです!』
『今にも気を失うくらい傷が開いてんだろ!引っ込んでろピノキオ!ディ・ソードでアレと競り合っても出力で明らかに負けるし!』
『しかし、都原カイト、と言ったか?君のその機体の出力は大凡ディ・ソードよりどのくらい高い?』
「そのディ・ソードはおそらく特別チューン仕様ですよね?平均的ディ・ソードが6000、そのディ・ソードが7000ならプラネテスジョーカーは35000だ」
『な…オリジナルワンのヴェガと同じくらいか! ルナ!プラネテスジョーカーのクリエイターは!?まさかハリスが作ったわけじゃないよな!?』
『プラネテスジョーカーのクリエイターはウーディー・ロア博士です』
『なんだと!なぜそんな機体が存在する!博士が失踪してから何年経つと!』
『あー、それはな艦長?ウチは前から知ってたんだけど、レゾナンスの地下研究所には完全無人のVSA整備システムが備わっているみたいだし、つまりこのピエロはヴェガより昔に作られて小まめに優良整備されてたんだし』
気不味そうに言うラシーにアルバは、
『待て!無人整備システムなんて王都にも無いぞ!学園コロニーなんて教育機関にあっていいものじゃない!このコロニーを戦争の拠点にでもするつもりか!』
アルバの言う事も確かだ。教育機関の複合体であるレゾナンス、学生に知識や技術を授ける場であればVSAの無人整備システムは必ずしも必要とは言えない。
だが、今はそんな議論をしている場合ではない。
「アルバさん、暫く俺の戦いを見ていてくれないか?もし危うかったら助けてくれ。それまであなたは体力を回復していて欲しい。俺にはINOと可愛いお姉さん達が着いてるからきっと行ける!」
初陣だというのに落ち着いている様子の都原にアルバは黙ってディ・ソードの構えを解き一歩下がる。
『おいおい!少年〜!ちゃんとお姉さんって言えてるじゃないか!偉いぞ!』
『ラシーちゃん!そんな事してられない!来るわよ!』
ルナが警告すると、タステランは静かに口を開く。
『僕は君達を甘く見ていたようだ。僕とミストルティンに傷を付けるなんてやるじゃないか。そのクラウンも中々の機体だ。だが…』
ミストルティンが力無く腕をだらりと垂らし膝を曲げたかと思うと、
『ミストルティンは君より速い…』
漆黒の竜騎士の頭部がプラネテスジョーカーの眼前に一瞬で距離を詰めている。
「なっ!」
都原が防御しようとするがそれよりも速くタステランの振る滅葬槍の腹がプラネテスジョーカーの胴体を打つ。
子供の手で払われたソフトビニール製の人形のように横に弾き飛ばされる。
その横を黒い槍がさらに速く飛び、追い抜くと、今度は反対の方向への衝撃が都原を襲う。
先程見た投擲した槍の位置に瞬間移動する能力だ。
「ぐっああ…!」
プラネテスジョーカーは無防備に仰向けに倒れる。
VSAのコックピットはパイロットへの衝撃を和らげる構造になっているが、都原はまるで腹部を直に鈍器で殴られたように痛みを感じる。
『もう見てわかっているとは思うがなぁ…ミストルティンはただ速いだけではない。この僕の槍がある場所へ空間転移出来るのさ…それに…』
タステランは槍を地面に突き刺すとバックステップする。
滅葬槍から黒い光が球状に展開されると、
『一度にいくつかの物を吸い寄せられる…』
プラネテスジョーカーは槍の方へ落ちるように引き寄せられる。
「うあぁ!なんだこれ!」
川の流れに抗えないように槍に向かって流される。
『該当事象あり最適解を提示します』
「!」
都原の脳にINOの割り出した可能性が送り込まれる。
次の瞬間プラネテスジョーカーは引力に抗い反転すると断象刀を振る。
すると今の今まで機体を引き付けていた力が消滅する。
『なっに…』
狼狽えるタステラン。
都原は宙返りをして着地すると、薄く青い光を放つ断象刀を眺める。
「どういうことだ?引力を…切った?」
『すげぇな!なんだしその刀!』
『その青白い光、粒子でも熱を帯びているわけでもなさそう。力場を断ち切れる加工でもしてあるのかな?』
『断象刀、名前が示す通り事象を断つ刀、です』
INOが簡単に言う。
「今のが切れたなら、やってみるか!」
都原はニヤリと笑う。
タステランは静かに槍を地面から引き抜くと、
『僕の槍が通じない?その機体、本当に規格外だな、しかし…』
ミストルティンは全脚力を使い槍を構えこちらに飛び掛かってくる。
『オリジナルワンにそう容易く相対出来んだろう…』
突き入れられる滅葬槍を断象刀で受け止め鬩ぎ合う。
オリジナルワンとは量産目的の機体ではなく、一機のみ高いコストをかけて作られた高出力高性能な機体の事である。
『多分ジョーカーもオリジナルワンだし!やったれガキンチョ!』
「イマイチ!お姉さんが言うと…違う!気がしちゃうなっ!」
刃を交え押し合う二機のVSAお互い出力は拮抗している様子。
力を抜いた方が押し切られる状況。
『ミストルティンと同等のパワーか!ならここからは技量勝負だな!』
タステランはそう言うといきなりミストルティンの腕の力を抜き滅葬槍を引くと瞬時に身を翻しプラネテスジョーカーの後方へ槍を投げる。
そこをすかさず都原は滅葬槍とミストルティンの間の空を断象刀で振り払った。
『何を空振りしているのだ!僕の地球共鳴の力で背後を取ってやる!』
と、タステランは嘲笑うように言い放つが、
カラーン!と槍はプラネテスジョーカーの背後を飛び去り数メートル先に虚しく落下した。
『な!なぜだ!なぜリバースアトラクションが発動しない!』
「お前さっきの見てて思わなかったか?この刀は力の繋がりを断つ刀だ!」
己の地球共鳴が働かず戸惑うタステランをプラネテスジョーカーの蹴りが貫く。
「お姉さん?コイツ確かタステランって言うんだよな?おい!タステラン!お前は俺が倒す!俺は都原乖人だ!」
まだまだプラネテスジョーカーはこんなもんじゃありません。チート能力持ちの機体ですから(´∀`)




