エピソード3 ジョブ 中
都原カイトは自分の呼吸が少し荒くなっていることに気づいた。彼はコンソールに囲まれ、クレーンに吊るされた防護服のような物…操縦用アーマーに身を包んで宙に浮いている。
「クラスはサムライで設定、機体はいつものフェンサーA装備」
リッジスがコンソールの画面を見ながら、VSAのクラスと機体を選択する。
「操縦用アーマーはカイトの体型に合わせるわよ」
続いて、ドルチェもコンソールの画面に映る数値を調整していく。
「バイタルリンク、ゴーグル異常なし,、次にセーフティパフュームの選択、都原くん? 今日の気分は?」ケビンが尋ねると、
「今日はレモングラスだな」
「OK、レモングラスに設定」
鼻も覆っているゴーグルの中が微かなレモングラスの匂いで充満する。
「続いてエネミーの選択」
ドルチェが言うと、
「同じくサムライにフェンサーでいこう」
レモングラスの匂いで少し落ち着いた、都原が答えた。
VSA…起源を辿れば、それは皮肉にもかつて世界を震撼させたエデンのリンクドールを、宇宙政府のある工作員がパイロットごとエデンから奪取し、分析し、技術を盗み進化させた末に開発された人型決闘兵器である。
人間の身体のように動かすことのできる外部骨格、とも言うことが出来る物である。
しかし、一つ弱点がある。
あくまでも乗り物であり、生身の人間の身体より反射的に動く際のスピードの遅さがネックなのだ。
都原達はその反射的動きを、パイロットの行動パターンを予測することにより、補足する為のもう一人のパイロットとも呼べる補助AIを作り出し、その役を担わせよう…というジョブをしているのであった。
そして、現在、都原がVSAの操縦用アーマーをそのまま機体から引っこ抜いてきた物を着ているのは、テストとして彼の行動パターンを電脳世界での戦闘で記録し、測定するためである。電脳世界もよく実戦を再現できており、本物の戦闘と違わぬデータが取れるだろう。
ただ、今回は…
「都原くん? 今日はちょっと難易度を上げたCPUと、実際にINOの補助を付けて戦うデータが欲しいんだけど構わないかい?」
ハリス・ウォードン、都原達のジョブの監督を買って出た、ソーディスの教師である。歳の頃は二十代後半で、生まれつきのパーマのかかった白髪をセンターパートにした、丸眼鏡に白衣の青年だ。
「大丈夫です、ノーマルは飽きました」
「ははは…ノーマルを電脳世界で動けるようにするのも結構骨が折れたんだけどね。OK、都原くん、AI、INOはもう君の補助ができる段階まで成長しているから、ノーマルとそんな変わらない難易度になると思う」
ケビンが慣れた手つきでコンソールのキーボードを叩き、ヘッドセットに一言。
「INO? 君の力が見たい、都原くんに力を貸してあげて」
『畏まりました。都原様よろしくお願いします』
都原達が作り上げたAI『INO』は女性の声を模した電子音声で挨拶をする。
「こちらこそ、あと様はいらないから修正」
『畏まりました。修正、マスターとお呼びします」
「OK」
「では、始めようか」
ハリスが言うと、
「カイト‼︎ 絶対勝ってね‼︎」
「バラカイは出来る子だからできる‼︎」
「INOが付いてるから安心して戦って来てね‼︎」
3人に応援された都原は、
「適当にやってみる‼︎ リンク開始‼︎」
都原の装着したゴーグルが彼を電脳世界へ誘った。
次回エピソード3 ジョブ 下、では都原が電脳世界で戦います。読んでいただけたら嬉しいですm(_ _)m