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エピソード55 鋼鉄の道化

 プラネテスジョーカーは地上に放たれた。

 どうやらリッジスの言っていた通り、ソーディスの建つ丘が背後300メートルに見える市街地のようだ。

 ガキンガキンと金属の衝突する音が聞こえる方角を見る。

 そこで都原は目にした惨状に言葉を失う。

 街の一帯が大津波に遭ったように瓦礫の積もった平地と化している。

 その中心でぶつかり合う2機のVSA、アルバ・デルキラン操るディ・ソードとタステラン・ガモウのミストルティンだ。

 ディ・ソードは太刀を手にミストルティンの黒い槍の連撃を受けながらもこれ以上被害が広まらないよう円を描くように立ち回ってはいるが優位に立っている様には見えない。

 嬲られるようにミストルティンの槍を絶えず防御しているディ・ソードの姿は狩られる獲物と狩人の構図に見えてしまう。

「おい!お姉さんズ!?あのディ・ソードがあのアルバ・デルキランなのか!?」

『そうだし!あの負けてるのが艦長だし!』

『怪我をしているのよ…グラムライズを出航する前にね』

 都原カイトは視界の左右の上角に映るラシーとルナを交互に見ると、約500メートル先で続く戦闘に目を戻す。

「そうなのか…あの黒いVSAは?あんなのは教本でも見たこと無いぞ」

『カウンター製のミストルティンというやつみたいだし!カウンターのVSAはいくつも見て来たがあれは初めて見るし!』

『恐らくはカウンターサイドのオリジナルワンの機体でしょうね。怪我をしているとはいえ艦長を押しているのはパイロットの腕だけでは無くあの機体と…』

『あの槍の能力だな』

「あの黒い槍は普通の槍の武装ではないのか?」

『見てればわかるし!すぐ使うから!』

 あのアルバ・デルキランが劣勢の相手であれば都原は介入する前に相手の情報を得なければならない。

観察しているとミストルティンが連撃の合間に槍を投げるとディ・ソードが槍に引き寄せられ、次の瞬間にはミストルティンが一瞬で槍のある位置に移動して追撃を繰り出している。

「引力に瞬間移動?なんだあの機能は?」

『それがよくわからんのだし、どう見ても地球共鳴の力が機体に発現しているんだし』

『そんな技術王都にはまだ無いよね』

「ならどうすんだよ!?」

『情報収集なら私にお任せ下さい』

 突然の第三者の声に3人は驚くが、都原はその声に聞き覚えがあった。

「INOか?」

『はい』

「でも、お前そんな人間みたいに話せたか?」

『オルフェウス・コアの中にいれば意思疎通性能にメモリを割いても余裕が、あることに気付きました。それは兎も角、あのミストルティンを放っておくと、ディ・ソードのパイロットは約300秒後に絶命、するでしょう。アルバ・デルキランの死、は王都サイドがカウンターに対抗し得る力を大幅に削る事になります。今、我々がやるべき事、は21秒以内に助太刀する事、です。もう一度言います。情報収集なら任せて下さい。戦いながらあなたに最適なヴィジョンを供給します』

 電子音声のようだがこの話し方は人間の域だ。

「INOが言うなら直ぐにやるしかない!この機体の主兵装は…」

 都原はプラネテスジョーカーの腕を動かし腰部を探る。

 そこには鞘に収まった長く細い剣があった。

 それを掴むと、都原の視界に武装名が表示される。

「断象刀…?」

 読み上げながら、鞘からゆっくり引き抜く。

 金属で出来ているようだが、薄らと青白い光を帯びている。

『行けるのかし?』

『行ってもらわないと困るわ。都原くん? サポートは私達が責任を持ってします。あなたの力であの人を、このコロニーを救って!』

「わかった!どうなるか知らないがやってみる!」

 都原は断象刀を両手に構え体勢を一度低くすると、走り出す。

 プラネテスジョーカーの出力は安全装置が付けられたソーディスの機体のセーフティーを解放した状態の約6倍。

 体験もした事の無い速度で駆けることが出来る。

 鋼鉄の道化は太刀と槍で鬩ぎ合うディ・ソードとミストルティンに急接近すると、断象刀を薙ぎ、ミストルティンの黒い槍を無理矢理弾き飛ばした。


 黒い槍は放物線を描きアスファルトに突き刺さる。

『あの機体は…!おお!おお!まるでクラウン!なんと歪な美を放つ機体ではないか!』

 ミストルティンを操るタステランは手から離れた槍に目もくれず介入者に賛辞を送った。

 それと対峙していた者、アルバはディ・ソードの構えを解かずに突然現れた奇妙な機体に通信を繋ぐ。

「助太刀感謝する。誰だか知らないが所属を聞きたい」

『アルバ艦長!その機体は味方です!ご無事ですか!?』

 アルバの視界の上部にルナの顔が映る。

「なんだルナか。助かった…で?その機体のパイロットはどちら様だ?」

『そんな悠長な事やってられる状況じゃないんじゃないか?』

 プラネテスジョーカーは長刀を構えながら、ミストルティンを警戒する。

「その声…子供か!沙耶お嬢様が言っていた少年か…ルナ!助太刀は助かるがサイモンは負傷でもしたのか?」

『艦長、その子はウーディー博士がその機体のパイロットに選んだ少年です。名前は都原カイト』

「どういう事だ!俺が戦っている間に地下で何があった!」

『そんな話を今はしてる場合じゃない!』

 都原は槍を取りに行く素振りも見せずに手を叩いているミストルティンに駆け出す。

 プラネテスジョーカーは間合に入ると断象刀をミストルティンに向かい振り抜く。

 が、そこには最初から何も無かったかのように空を斬る。

 都原は背後に気配を感じる。

『確かに美しいが…』

 プラネテスジョーカーを振り向かせた時にはもう遅い、ミストルティンは滅葬槍を振り被っている。

『僕のミストルティンほどではない…』

 槍を振り下ろされる。

 意表を突かれて被弾を覚悟した都原だが、

『最適解を実行します』

 INOの声と共にコックピットの内部が蠢くような音を立て始めプラネテスジョーカーは…都原カイトは振り向く挙動から懐に潜り込むと断象刀の縁頭を槍を握るミストルティンの手首に当て上に弾くと躯体を横に捻りながら跳躍し回し蹴りを放つ。

 不意を突くつもりが逆にやり返される形になったミストルティンの頭部が蹴りを喰らう。

 多々良を踏みはするがなんとか倒れずに済んだ。

 しかし、

『なんなのだ!?その動きは!?』

 自分の優勢は揺るがないと確信していたタステランは動揺する。

『なんだ…今…自分がコイツをどう動かせばいいかわかった…?』

 胎動するように電子音を奏でるコックピットで都原は自身の行動に違和感を覚えた。

 





はい、いよいよ主役機がバトルに参戦しました。読んでいただいてる皆様!出し惜しみしてるんじゃなくて、順番を大事にしてるだけなの!見捨てないでー!(T ^ T)

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