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エピソード52 プラネテスジョーカー 上

チンパオは目覚めの時を待っていた。

そう、賢者サースケ・ユンタマリアの力により時間凍結させられていたのだ!

*作者がめんどいからです。

「テッツの言う通り見た事の無い暗号化の形式だ。INOの演算能力にも該当する解読法が無い…」

 カタカタとノートパソコンのキーボードを叩きながらケビン・C・ロアが早口で呟いている。

 テッツが立ち去った後、このドーム型の研究室を隅々まで見て回ったケビンやドルチェ、リッジス達に沙耶の護衛の二人。今は先ほどの先頭の前にいたであろう管制塔に登って探索を続けている。

 沙耶は下に残り未だ気を失ったままの都原カイトの身体に手を触れ治癒を行なっていた。

「んー...落ち着いて見てもあたしには全くあのトロピカル生物が何となく可愛いとしかわからないわ」

 正直言ってシェリーやサイモンとは違い、VSAの操縦法を知っているだけの一般人であるドルチェ達にとってこの研究施設にあるもの全てが意味不明な物であった。

 しかし、ここまで来てテッツの話以上の確定的な収穫が無いというのも癪に障る。

 無数に配置されたフルーツに目玉が付いたような生物でもあり植物でもあるバイオシードが浮いたカプセル。

 テッツはこれらがRS計画、地球を浄化する大樹の実験体であると言っていたが、植物ならまだしも生物と融合させることが必要とされる理由が何なのか全く理解が追いつかない。

 ただ一人を除いて…

「つまり、この管制塔に入りさえすればおじいちゃんの孫のアカウントである僕の端末からなら情報へのアクセス権が僕の生体認証を使ってログインすれば自動で与えられるというわけか、その権限を僕に持たせる理由は伝えたい事があるからだ...」

 壁を調べていた時にテッツのいた管制塔が気になったので登ってみると中はもぬけの殻でただの見張り台状態だった。しかし、そこで見つけた端子にノートパソコンをケーブルで繋いでケビンはテッツもハッキングした情報を既に手に入れて分析を始めている。

 その背後にシェリーや酸素剤を口に含んだ顔色のまだ悪いサイモンがやって来た。

「テッツの話には嘘は無いとケビンちゃんは思いますか?」

「そうだね、嘘は無い。ただこの解読不能のラストピース...これは多分新聞でよくある……サイモンさん? 何処かに変わった壁は無い?」

「ん? んむ...」

 突然の質問にサイモンは管制塔の窓から周囲を見回す。

「俺も探すよ。いやー…沙耶の力は本当に凄いな」

 管制塔の出入り口には一人の少年。

「カイト‼︎ 傷口は塞がったの⁉︎」

「バラカイは相変わらず頑丈だなぁ」

 傷のあった部分をペタペタと触るドルチェとリッジスに少し遅れて、

「都原くん、もう大丈夫なのか?」

「ワイシャツは傷口だった箇所は破れているけど、外傷は沙耶の治癒能力で癒えたようだ」

「カイトさんはもうテッツとの戦闘前より元気な筈です。私も手伝います」

 螺旋階段を登ってきた篤国沙耶も加わる。

「ねえねえ? 沙耶のその力って凄すぎじゃない? 人体用の接着剤か何かなの?」

「くっつけただけじゃ治癒じゃありませんよ…ただの細胞の回復力の活性であとはイメージで形を整えただけです。傷口から出ていった血だけは素材となる栄養が体内に無いと補えませんので、簡易食を意識が戻ってからすぐに食べさせました」

「難しいことはわかんないけどとりあえずグッジョブよ‼︎ 沙耶‼︎ あとその簡易食あたしにもよこしなさい‼︎」

 沙耶と無理矢理握手し反対の手の親指を立てるドルチェ。

「長期戦も見込んでいたので三日分は持ってますから欲しい人には弁慶の中にあるので今出します」

 沙耶の背中から伸びた腕がドルチェの手にひらに真空パックにされたパウンドケーキを乗せる。

「その手の動かし方ってどうやってるの?」

「左右の手と変わりませんよ?」

「それがわからないんだけど…」

 当然のように言い放つ沙耶をドルチェはじとっと見つめる。

「地上じゃなんか暴れてるみたいだし二人ともそんな悠長に話してらんないぜ? 今は人手は多い方が良いみたいだしな。変わった壁を探せば良いんだな? リッジスも俺の治ったばかりの傷口触ってなくていいんだよ。ほら、みんなで探すぞ」

「「「はーい」」」

 そう言って全員でサイモンとは違う方向が見えるの窓から探し始める。

「変わった壁って具体的にはどんな壁?」

 リッジスはもっともな疑問をケビンに向かってこぼす。

「うん、プロジェクターを映写出来るくらい平らで周りより綺麗な壁がある筈なんだ」

「何を映すんだ?」

「この暗号は暗号っていうより脳トレパズルって言った方が近いかもしれない。実際にもう解けてはいるけどこのパソコン上で解いても何の変化も無かった。テッツが解けなかったっていうのが一番のヒント、僕の推測が正しければこの答えは今この場所で使う必要がある。アイツは難しく考え過ぎたんだ。そしてこの研究施設、どこかに似てるなと思ったらおじいちゃんの映画鑑賞してた部屋に形が似てるんだ。壁にプロジェクターで映して映画を一緒によく見てたからよく覚えてる」

「つまり、その答えってやつをその壁に映せば何かあるって訳だな?」

「やってみる価値はあると思う」

「OK!信じるぜ!」

 ケビンを一切疑うような顔をせずに補助もなしにスタスタと歩く都原からは疲れすら感じない。

 篤国沙耶の持つ地球共鳴の力である治癒にはここまで生気を与える効力があるのかと、怪訝な視線で都原と沙耶を交互に見ながらケビンは唾を飲んだ。

「こういうのは視力4.0の俺にまっかせなさーい!」

 リッジスが見渡すとカプセルが乱雑に並べられた施設の中に極端に開けた箇所があった。

 そしてその壁は平らで異様に白い。

「あったっぽーい! シロ! あそこじゃね⁈」


 おそらくこの壁はここの利用者である研究者達も実際に使っていたのだろう。

 防汚加工されているようで何年も放置されていたにも関わらず埃すら付着していなかった。

「おあつらえ向きにプロジェクターまで近くにあるとは隠す気が甘いのか固いのかよくわかんないな」

 都原達はプロジェクターの乗った机の傍横一列に並らび体育座りで支度するケビンを待つ。

「あはは…おじいちゃんはかくれんぼはあまりにもわかりやす過ぎるとこに隠れて虚を突くタイプなんだ。実際にテッツは気付かなかったでしょ?」

 プロジェクターにノートパソコンを繋ぎながらケビンは紛らわすように笑う。

「暗号を解いた上にこの施設のからくりにも目処が立つケビンちゃんを連れて来て正解でしたわね、お嬢様」

 シェリーは沙耶の隣で笑い掛ける。

「この状況を作ったのはカイトさん達の先生な気もしますが、考え過ぎですかね?」

「いや、ハリスはこういう自分の狙った位置に人を動かすのが昔から得意だった。一概に偶然のせいにするよりはアイツの思惑に上手く乗せられたという方が可能性としては高い」

 サイモンの冷静な分析は確かに天文学的な確率論よりは正当性を感じる。

「いや、アイツはただの頭のいい変態教師よ。バナナが好物の」

「頭いいっていうか小狡いんだよね」

「そう、そんな感じ」

 ドルチェとリッジスに都原は薄ら笑いを浮かべながら同意する。

「ハリス先生への沙耶さん達とドルチェちゃん達の認識に大分差があるね…よし! 繋ぎ終わった! みんな映すよ!」

 ケビンがプロジェクターのスイッチを入れると、壁には英数字に記号が無数に並んだパソコンの画面が表示される。

「これが暗号? 全くわからないわね」

「まあ見てて、この暗号が脳トレパズルに近いって言ったでしょ? そして数文字に一つ句読点が付されている。これは文字を句読点で区切り、ある一定の割合で縦横に振り分けるとこう見える」

 ケビンがパソコンを操作して映写された文字の並び順が目紛しく変わると、とあるものが浮かんできた。

「これは…地球の世界地図? しかも中心はあのエデンの?」

「これが第一の答え、テッツは解読出来なかったところが二つあったって言ったでしょ? 次はこの世界地図に使われた文字以外を全てドットに変換して更に並び替える。すると…」

 映像はまたグルグルと変わり今度はある英単語が浮かび上がる。

「p…la…net…es…プラネテス?」

 都原が読み上げるのと同時に鐘の音が研究室に響き渡る。

「どうやら正解だったみたいだね」

 そして、ケビンの隣には…

『よう、久しぶりじゃなケビン』

 薄く透けた白衣を着た老爺がそこに居た。

「お…じいちゃん!?」


 さらに、施設内にメイルストローム号からの通信が割り込む。

『沙耶沙耶! 艦長が大変だし! 早く地上戻って来いしー!』

『ラシーちゃん! 作戦中はお嬢様を付けなさい!』

『緊急事態に何言ってんだ!ボインジャイアント!』



挿絵(By みてみん)

友人の友人がドルチェのイラストを描いて下さいました。とてもイメージに近いので掲載しました。思ったより長くなってコンセプトのさっくり読めるメカアクションじゃなくなるので上下に分けますm(_ _)m

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