エピソード50 滅葬槍ミストルティンと7大傑士タステラン・ガモウ
突如チンパオとハヌマッチの前に現れた賢者サースケ・ユンタマリアは言う。
「その匂い…鰹節だな?」
「鼻がいいね」
即答するチンパオ。
しかし、チンパオは鰹節なんて持っていない。
「この、浜にいた人魚で作った人魚節、結構いけるから一個あげる」
「お前怖いんだけど‼︎」
「…昨日食べた味噌汁の出汁ってそれからとったの…?」
唇を震わせて怯えるハヌマッチとチンパオは不老不死です。
新型VSAのFOXのお披露目パレードの事など誰もが忘れた、学園コロニー・レゾナンスの市街地で火花を血潮のように上げ倒れたシルバリーと、アルバ操るディ・ソードの間のアスファルトに一本のVSAが装備するサイズの黒い騎馬槍が突き立っていた。
「こ…の…黒い槍は…まさか……」
傷が開いた痛みがシルバリーを倒した事と再びアルバに苦悶の表情を生み、さらに目の前にある漆黒の槍の放つ禍々しい気配に、錯覚だが体温を急激に奪われる感覚を覚える。
そこに雑音混じりの通信が入る。
『アルバ…聞こえるかい? 僕は…このまま隠れていた方が戦略的に良さそうだね。その槍はアレだろ?』
VSAだけじゃなく生身での白兵戦でも宇宙に名を轟かせたアルバ・デルキランでさえ翻弄すると言われる奇術師ハリス・ウォードンの声である。
おそらく知らぬ間に建物に身を潜めたのだろう。
「ああ…聞こえている。この槍があるってことは、久々の再会にゆっくり浸っている場合じゃないな…これは…」
ディ・ソードの頭部を動かし周囲を警戒するが見えるのは先ほどまでの戦闘で損壊した建物ばかりで、目を凝らしてもこの槍を投擲した者が見当たらない。
『そうだね、きっとどこかからこちらを見ているね。それがそこにあるのを僕達が知覚出来ているのなら、発動条件を満たしていないのだろう、だが一瞬も気を抜けないよ』
この二人をここまで警戒させるこの槍は一体なんなのだろう?
『やあやあやあ、お前達ともあろう奴らがビクビクと、これはテレビ番組か何かの企画ではないのかな? でもなければ暫く俺たち7大傑士と手を合わせない間に随分と腑抜けたものだな。王都の紅獅子に魔術士ぃ…』
侮蔑の意思がそのまま声になったかのような嘲るような口調がどこからともなく響く。
「コール、ラシーに繋げ」
アルバのゴーグル型ディスプレイの端にブラウザが開き、メイルストローム号にいるラシー・セルシーの顔が映る。
「この感じ悪い声の発生源の方角はわかるか?」
『艦長、結構いきなりだしっ‼︎ 少し待つしっ‼︎』
『方向はアルバから四時の方向だから、そっちを検索してみてね』
通信にハリスの声が割り込む。
『あんたさっきのメガネのおっさんだし? どうしてこの艦の回線に入れるし?』
「細かいことは気にするな、こいつはなんでも出来ちまうんだ」
当たり前のように知らない人に事情の伝わらない説明をするアルバ、
『おっさん、ルナが言ってたハリス・ウォードンに間違い無いみたいだし』
『おっさんとは酷いな…まっ、悠長にしてないで早くアルバに相手の位置を教えないとみんな死んじゃうよ?』
『焦らすなしっ‼︎ システムの演算終了。オケ、艦長あっちだしっ』
アルバのゴーグルに矢印が映り視線が誘導される。
その先には、宙に無音で浮く黒いVSAが静かに空を漂っている。
その姿は額にも開口部のある三つ目の兜を被った、まるでファンタジー小説の黒い竜騎士のような鋭い流線形をした鎧である。
『やっと見つけてくれたかな? 気配を消していたとはいえ気づいてもらえないのは少し寂しいなぁ…』
「噂に聞く、滅葬槍ミストルティンか…」
ディ・ソードを動かし構えを取る。
『おおっ‼︎ 知ってくれていたのかい‼︎ そう‼︎ この機体の名前はミストルティン‼︎ とても良い響きの名前だろう? そして僕は7大傑士タステラン・ガモウさ‼︎』
宙を漂いながら歓喜の声を上げる。
「この槍の力はビデオで何度も見ている。そしてその力で死んでいく仲間の姿もな…」
奥歯を噛み締め顔を顰めるアルバ。
『この槍で貫かれて死ぬことはとても崇高なことなんだ。普通の槍で貫かれたって何にも楽しくなんて無いだろう? でも、この槍は違う…だってこれは…僕の槍だ…」
耳の穴に舌を入れられ弄られるような不快な喋り方をする。
『艦長? こいつ何言ってるんだし?』
「黙ってなさい。世の中にはよくわからない人もいるんだ」
『多分、この人はその中でも上の方の人だよ、ラシーちゃん』
『そんなのコイツの話し方聞けばわかるし』
ラシーが間延びした返事をする。
『なにかとても良くないことを言ったでしょ?』
「言ってない」
ミストルティンをまっすぐ見たまま白を切るアルバ。
『嘘は良くない…すごく良くない…そういう感じだと……』
『アルバ‼︎ 来るよ‼︎』
ハリスが注意を促すと同時、ディ・ソードの頭の数ミリ前にミストルティンの三つ目の頭部が。
『殺しちゃうよ…?』
ミストルティンの手にはいつの間にか握られた、先程までアスファルトに突き立っていた黒い槍。
それを横に薙ぎディ・ソードの頭を撃つ。
さらにそのまま槍を投げ、槍がディ・ソードの背後を通り過ぎると槍はドス黒い球体に形を変え、ディ・ソードはまるでその方向に重力が発生したように引き寄せられ、次にミストルティンは一瞬誰もの視界から消え、瞬きをした時には再び鋭く尖った形に戻った槍を手に取りその移動先にいる。
『滅するってさぁ〜…?』
黒い騎士は槍を振り上げると槍に引き寄せられたディ・ソードに叩きつけるように振り下ろす。
ディ・ソードは地面に打ちつけられバウンドする。
『た〜のしいよね?』
やっとだと言うのにちょっとだけしか進まなかったリバイバルシードで申し訳ありません‼︎ ただ、長く書こうと思うとめちゃくちゃ長く書いてしまう癖があるので、小分けでお送りしますm(_ _)m




