エピソード47 ジャイボイ
魔法の島でもジークアクスを見れる感動に、歓喜の全身痙攣を起こすチンパオ。
「チュマチュマチュマア、マチュマッチュウ♡」
「気持ち悪いぜチンパオッ、あの映画館はドリアードの幻覚だぜ?」
「うるせーんだよハヌマッチ‼︎ドリアードさんは俺にジークアクスを見せようとしてくれてるいい植物だ‼︎」
アルバ・デルキランがシルバリーを討つ少し前まで時間は遡る。
「拡散レールガンってさ、マニュアルでの調整めちゃくちゃめんどくね? 飛び散るタイプの花火で精密射撃出来るようにするようなもんだし?」
ラシー・セルシーはディスプレイに映るシルバリーとぶつかり合うディ・ソードの姿を見て、アワワッと顔の前で両手の指をワキワキと動かす。
「取り敢えず通信で伝えときましょ」
と、イナクス・シェイクリスプはラシーが使うオペレーティングシステムの通信ボタンを押す。
「アルバさん、交戦中ですが大事な報告が、聞こえてるならアクティブの返信をお願いします・・・・・・・・・・・・あれ? 繋がらないんだけど・・・」
その傍でルナ・コートリアムがディスプレイを見ながら口元を抑える。
「高度なジャミングを受けているようです。感知機能を逃れたシーフ艦が近海にいるのかもしれません」
「ルナなら割り出せるっぽい?」
「私を誰だと思っているの?」
「爆裂メロンジャイボイ・・・?」
口に人差し指を当て首を傾げながらラシーが答える。
「ジャイボイの意味はわからないけど、フレッシュなメロンのように若いっていうのは嬉しい、ありがとう」
ほっこりした顔のルナにラシーは、
「いや、胸にメロンのような服が爆裂しそうなでっかいの下げたジャイアントボインの略・・・」
「まぁ…側から見ても確かにジャイボイだ…」
イナクスが横目でルナの分厚い胸部を見ながら腕を顎の先に当て、ゴクリと喉を鳴らす。
「・・・ふざけてる場合じゃないんだけど、コホン・・・私は人呼んで電脳の住人よ‼︎」
「うわぁ・・・自分で言っちゃったよジャイボイ・・・嫌味なのはそのたわわだけにしとけだし・・・」
苦虫を噛み潰したような表情で言うラシーを座った眼で見てふーん…と一旦会話を切るとルナは、
「ジャイボイじゃないからっ‼︎ 見てて今すぐジャミングなんて消してやるんだからっ‼︎」
「やれしっ!ジャイボイ!」
「ジャイボイ言うな!」
前のめりの姿勢でコンソールに手を伸ばすルナだが・・・
「やめといた方がいいんじゃないかな〜?」
突然の見知らぬ声の制止にルナとラシー、イナクスは艦橋の出入り口に揃って顔を向ける。
そこには白衣に白髪の眼鏡を掛けた男がドアに寄りかかり腕を組んでいる。
「誰だしっ?」
「救護室の方ですか? 失礼ですが艦橋には持ち場の者しか入れてはいけないんですよ。話があるなら通信手段を取って下さい」
丁寧に退室を願うイナクスだったが、
「いや〜、思ったよりアルバは部下の教育が上手いようだ。生憎、僕は救護要員ではないよ」
「では、何なんです? 失礼ですが私はあなたをこの艦で見た覚えがないのですが? どうやって入って来たのですか?」
ルナが眉を顰めて男に尋ねる。
「僕はS.A.V.E.Sではちょっとした有名人でね。名前を出せば大体入れるんだ。それにしてもアルバにしてはちょっとしっかり育て過ぎかもね〜」
その言葉にルナはムッとすると、
「あなたは艦長とはどんなご関係で? 呼び捨てなんて不敬ですよ?」
男は敵意がないのを表すために両手をゆっくり上げて、タハハと笑う。
「なになに、アルバとは友達なだけさ。悪いね。つい慣れた呼び方で呼んでしまうのさ」
どこか胡散臭い雰囲気を醸しているが表情は善人のそれなので、三人は警戒を解く。
どうやら入ることを許された様子なので男は三人の横までゆっくり歩いて来ると、
「今はこのジャミングには知らないフリをしよう。盗み聞きさせてもらったけど、アルバのディ・ソードの拡散レールガンの出力が左右違うって話だけど、それくらいあいつは自分で何とかするよ。今も電子制御には頼らないでしょ? あいつ」
おそらくこのメイルストローム号の部外者のはずだが、ここにいるのがしっくりくるこの男にルナは頷く。
「ま、そのスタイルがあいつの強さの所以の一つなんだよね〜。ルナちゃんとラシーちゃん? だっけ? 君たちの胸の曲線もある意味凶器だけど」
アルバとは根本的に違うのに似た威厳のようなものを感じる男にルナは聞く。
「……あの、今ジャミングを探知しない方がいい理由というのはなぜ・・・?」
「君たちの今の課題はなんだい?」
「それはもち艦長を勝たせるためにサポートすることだしっ・・・」
「あのシルバリーに、ってこと?」
男はニコリとして尋ねる。
「違うんです?」
イナクスが自信なさげに問いで返す。
「うーん、50点ってとこかな。確かに今はあのシルバリーを片付けなければいけない。けど、ジャミングをしているステルス機能のある彼方の母艦がある。高性能な機体だからとはいえ一機で彼方の目的が達成出来るなんて、普通の作戦じゃ薄っぺら過ぎて、まず無い。パーセンテージで言うとあのシルバリーは第一陣である可能性が99%ってところだ。第二陣をどう来るかは、おそらく疲弊したアルバにさらに上位の戦力をぶつける、というのがシンプルだけど彼方さんがやりそうなことだ。だとしたら、アルバさえ倒せばなんとかなるって思ってる彼方の虚を突き、第二陣に勝つためにこの艦は敢えてジャミングも解決出来ないフリをして、甘く見させて侮らせつつ、虎視眈々と布石を置くんだよ。ルナちゃんのその胸がジャイアントに成長したのと同じようにじっくりとね」
「息をするようにさり気無くセクハラしますね。私達はなにを・・・したらいいんです?」
「教えろしっ‼︎」
白衣の男はフフンと笑うと、
「港の人間をまず避難させて、機密シャッターを開けて砲門を港の外に向けておくと良い、あとは僕の指示待ちでお願い」
「それになんの意味が・・・?」
「情報は伝達されていない方が成功率が上がる時がある。じゃあ、僕はアルバのお手伝いに行ってくるよ。ルナちゃんが大人になった姿見れてよかった。あと、今まで君達がサボっててもアルバは尋常じゃなく強いからなんとかなっただろうけど、これからは君達の手助けが必要になるから、もうちょっとしっかりサポートしてやりな? まったね〜‼︎」
男はそそくさと艦橋を出て行こうとする。
「VSA戦に生身の人間が何をするつもりですか⁉︎」
史上初めて命綱無しで高層ビルを登ろうとする人の意気込みを聞いたようなルナの反応に男は、
「ナイスなジャイボイと黒髪縦ロールジャストフィットバストとどんぐり頭男、君たち結構良い感じだから、また会うかもね。バ〜イ‼︎」
最後にパチリとウインクして男は走って出ていってしまう。
「ジャイボイって流行ってるのっ⁉︎」
「結局あのセクハラ眼鏡誰だったんだしっ?」
「俺は知〜らない」
ルナはそこで深呼吸すると、
「……艦長の友達…まさか、ハリス・ウォードン・・・?」
ジークアクス見たからしばらく頑張れます。




