エピソード45 エデン
イカれた小学生の夏休みの日記を音読させられたチンパオ。
魔法の島はまだまだ色々ありますよ。
次は、おっきなゴルフ場だ。
「ハヌマッチ? ねぇ? ハヌマッチ?」
「なんだい? チンパオ?」
「なんで遭難して流れ着いた無人島にゴルフ場があるの? ねぇ? ねぇ? ねぇ? ねぇ? ねえっ!? ねえっ!? ねぇっ!? ねぇっ?! ねぇ!? ねえっ!!」
しかしハヌマッチはどこか悟っていた。
「うるさいぜ? 今時の無人島だってゴルフ場くらいあるって、ちょっと黙りなさい・・・あのな、人生はゴルフ場なんだ・・・芝生があったり、グリーンがあったり、バンカーもある。チンパオ? これを人生って言わずになんて言うんだい?」
「・・・・・・知らねえよ」
「ほめほめろ〜ぉん...」
軽く十メートルは吹っ飛んだテッツが目を回して倒れる。
「やられたらやり返す! 二、三倍返しだ!」
ガッツポーズするドルチェに都原は、
「やっぱ不意打ち女王の不意打ちは不意に来るな! 流石です! ドルチェさん!」
「ふへへへへっ! 褒めるなら結婚してくれてもいいのよ? というかその方があたし的にも......都合が...ふしゅ.......ぅ...」
照れ笑いから段々尻すぼみに声が小さくなり、身を捩ってモジモジするドルチェ嬢。
「二人とも‼︎」
鋭い目でドルチェと都原の前方を睨む沙耶の声には余裕が無い。
二人が向き直ると、テッツは両腕をダランと下げて立ち上がっていた。
「なにも王都ってのが正義って通念があるらしいから気付かねえだろうがよ。そちらの文化圏の犠牲になっている俺たちカウンターはたまったもんじゃねえんだよ・・・」
「犠牲? なぜ王都がお前たちを犠牲にしているって言うんだ?」
現在のレゾナンスのー王都文化圏の教育ではカウンター(旧エデン)は地球で侵略行為、テロ活動を活発に行ない、ラグナ弾頭、イリスウイルスの開発により地球を生物の住めない環境にしてしまった大罪を犯した国家の残党とされている。その罪により銀河系の片隅に追いやられた者達という共通認識がある。
テッツは懐に忍ばせた十手を両手に取り、こちらにゆっくり歩きながら続ける。
「そもそもエデンってもんを正しく理解していないようだな」
「?」
「エデンってのは地球のあらゆる国で異端とされ迫害された者達の掃き溜めだった。異端というのはとびきり優秀という意味でだ。しかし、エデンは奇形児など他の国では隔離し忌み嫌われる者達がなんら不自由なく普通に幸せに暮らせるようにも配慮された国家だった」
テッツは膝を軽く曲げるだけで一瞬で溜めを作り、都原とドルチェに向かい跳躍し十手を振るう。
それを都原は刀身で受け、ドルチェも籠手で防御する。
都原から見たテッツの顔は、悲しげで切実な表情を浮かべていた。
「不思議なもんだよな、同じ人間なのに妙に頭がいいとか見栄えが悪いってだけでのけものにされる奴が少数だがどこにでもいるんだ。しかもなぜか容認されている奴もいるというのに、生まれた家が、地域が、国が悪いだのなんだのという理由で人間としての尊厳も与えられない人間が地球中集めたら国が一つ出来てしまうくらいな」
テッツは語りながら手を緩めずにリッジスによる射撃をも微かな動作で避けて、都原とドルチェの間を交互に駆け格闘を仕掛ける。
「ラグナ弾頭の開発目的を知っているか? あれは本来は温室効果ガスを成層圏から除去するための爆弾で兵器として作られたものではない」
「でもエデンはあれを使って沢山の人間を殺したじゃないか‼︎」
都原はテッツの格闘攻撃を寸でのところで避けながら言う。
「そうよ‼︎ リンクドールは明らかに兵器じゃない‼︎」
テッツは攻撃の傍ら照射されるシェリーのバスタードフィストの光も首を反らして避けながら、
「先にお前達世界がエデンの子供達を無惨に殺したからだろうが・・・」
「なにそれ‼︎ あたし達はエデンが突然世界に宣戦布告をしたって習ったわよ‼︎」
ドルチェが背中のスラスターを噴き都原に組み掛かるテッツに拳を振るうが、それを男は手のひらで受け止めて横へいなす。
「事実もねじ曲げて大勢の人間がそう認識してしまったら、それが正しいってことになる。人間がしたことなんて全てを誰かが録画しているわけではないからな」
「1000年以上の歴史が間違っていると言うのか?」
横から光剣と蹴りを放つサイモンを曲芸師のの動きで避け軽やかに宙で錐揉み回転し着地しテッツは続ける。
「大筋は合っていると思うが嘘も相当ある。エデンは宣戦布告などするつもりはなかった。ただ世界がエデンを消そうとしたから戦わざるを得ななかっただけだ。イリスウイルスがなぜ作られたか、それはある奇形児は多いが学者としては優秀な血筋の家があった。その学者は奇形は遺伝子に起因する事から胎児の時点でウイルスによる奇形の解消を試みた。その際作られたのが感染者のイメージのままに肉体を変容できる作用を持つイリスウイルスだ」
「その結果はどうなったんです?」
沙耶は返答が気になりながらも、手に取った鉄の棍棒をテッツに向かい連続で突き込む。
テッツはそれを側転で難なく逃れる。
「成功した。遺伝情報は見事に書き換えられ、その子供達は普通の身体を手に入れすくすくと育った。イリスウイルスの恩恵か知能指数が普通では考えられない数値だったそうだ。そして、世界に殺された」
「それはどう言う事なんだ?」
都原の龍鱗の剣が生む空間に生じる斬撃をテッツはまるで見えているかのように一歩横に動くだけで無効にする。
「その子供の中で一人生き残った奴がいる。そいつは言った。エデンは世界に妬まれている。世界はエデンに許されないことをした。これはイリスウイルスによって人類が次のステージに移行しなければ解決は不可能だと語ったそうだ」
「漠然とした話過ぎるんだよ‼︎ もっとわかるよう説明してくれ‼︎」
都原は剣を構えたままだが、立ち止まりテッツの言葉に傾聴していた。それはテッツの語る言葉が妄言だとは思えなかったからだ。
しかし・・・
「ここまで話してしまったのだから俺も恐らくお前達に真実を知って欲しいのだろう。だが、もうカウンターと王都はお互いの事情を理解しても後戻りできないラインを超えてしまっている。王都コロニーグラムライズの奴らも頭でっかちだし、数えるのも面倒なほどあるコロニーの権力者に統合した理解を得られるとは思えない。末端の俺の口からこれ以上は説明するつもりもない」
この男の神妙な表情と淡々と紡ぐ言葉は嘘とは誰も思えなかった。
「私は篤国の人間です‼︎ 私がお爺様に掛け合ってみます‼︎ 何かできるかもしれません‼︎」
沙耶が胸に片手を当て、テッツに詳細を促そうとするが、
「篤国の人間だからと思い上がるな・・・まだ子供のお前の発言力なんて大した意味を持たない、たった一つの大財閥に理解された程度で動くほど世界はもう狭くないんだよ」
「お爺様ならなんとかしてくれます‼︎ 必ず‼︎」
真っ直ぐな瞳で沙耶は必死にテッツを見る。
「平和的解決ができるんならオレたちに話すだけでも少し変わるかもしれないじゃん‼︎」
リッジスは沙耶の肩に手を置いて顎に力を入れた。
「沙耶を信じてくれ‼︎ まだ今日出会ったばかりだけどとてもしっかりと意志を持った奴だ‼︎」
都原もリッジスと反対の沙耶の肩に手を置く。
「あんたの話が嘘ってんなら、あたしだって完全無視で殴るけどそうじゃないみたいだから聞いてやってんのよ⁉︎」
沙耶の後ろでドルチェは仁王立ちで言い放つ。
「僕はあなたの話に興味あります・・・」
ケビンはそのさらに後方でカプセルに隠れながら弱々しく手を挙げる。
テッツはそれらを頭を掻いて聞くと、
「お前達は飛んだ勘違いをしている。その篤国の爺様に頼ろうとしている時点で解決の芽は摘んでいるんだ。こっちもそっちも救いようのないバカばかりだ。何かを成したいならお前達自身でなんとかしようとしろ・・・」
「「・・・」」
少年達は言葉を失う。
「時間の無駄だったようだ。ここからは殺しに行く・・・」
更新が遅れてすみませんm(_ _)m
三足の草鞋を履いてしまっている現在、そろそろ一足脱ぎたいのですが(;´д`)




