エピソード39 ハント
アベック星でフーリザにクリーリンを爆散させられて、キレた豪くんがスーパー野菜人になったよ。
都原カイトのクラスメイトの針ノ宮降雨は目の前の惨状に一瞬言葉を失った。
新型VSAのFOXが全く知らない銀色のVSAに圧倒的劣性の状況に陥らされていたからだ。
針ノ宮降雨はFOXのパレードの場所取りに失敗し、やけ食いでもしてやろうと一棟の商業ビルに入り、安いレストランのある最上階まで上がるとエレベーターの横にある階段に目が留まった。学生の侵入を防ぐ為に大体の建物が屋上のドアに鍵を掛けているのだが、このビルは偶然鍵は外されていて上がることが出来たのだ。
その屋上からは立地的にパレードの全容がほぼ見ることが出来る事に彼は気付くと、そろりと一度下の階へ行き缶ジュースを買うと、たった一人でそこでパレードを見る事にしたのだった。
しかし、そのパレードは彼が予想していた娯楽性とはかけ離れていた。
一機の謎のVSAの乱入により四機のうち二機のFOXがあっさりと敗北し、残りの二機すらも窮地に追い込まれている。
それはある意味、面白い構図のように見えたが、これはテロだ。
VSAは本来、決闘というスポーツというものに用いられる機械人形である。しかし、側面としてカウンターとの戦争の道具でもある。いや、どちらかというと防衛と言った方が正しいか・・・。
その防衛に長けた機体がおそらくカウンター製の機体に防御もままならない状態だった。
ソーディスに操縦士を志し入学した針ノ宮だが、視力が悪い所為か、成績は振るわず早々に操縦士に向いていないと思い整備科に転向した彼はVSAの性能の優劣にはそれなりに詳しいのだが・・・。
「どういう攻撃性能なんだ・・・あの機体は・・・機体の各部分に嫌と言うほど武装を仕込んでやがる・・・・・・あんなに沢山の刃物を次々に変えて戦うスタイル、まるで何年か前にバウトから引退したアルバ・デルキランみたいじゃないか・・・」
彼の眼から200メートルほど離れた場所で攻防を繰り返す三機のVSA。
シルバリーは長刀を水平に薙ぎ、一撃でナイフを盾にして防御したFOX二機を後退させている。
「でも、アルバのオリジナルチューンの愛機ヴェガンも相当強かった、アルバの引退と共にあの機体も姿を消したよな? あの機体は篤国財閥の作ったモノの中で最高傑作だった。でもそれを扱えるのはアルバだけだったんだろうな・・・並の技術の選手が扱うには高性能過ぎたんだ・・・あの銀色と似たスタイル同士せめぎ合ったら、アルバ・デルキランとヴェガンが今来てくれたら、あの銀色に勝てる・・・」
逃げたほうがいいと思うのだがブツブツと呟く針ノ宮は、試合より過激な戦闘に夢中でそんなことは考えてもいない。
二機のFOXのパイロットはやられた二機のパイロットより優秀なのかもしれない。
長刀も投げ捨て今度は両脛の側面に刺した小太刀を両手に一振りずつ持ったシルバリーにFOX達は善戦を始めたのだ。
二機というアドバンテージを上手く使い、両脇から挟むように仕掛け、ショットガンとナイフを片手ずつ持つことで手数を増やす。出力で勝るシルバリーの左右の腕を別々に対応させることで力を分散させ対等に戦い始めた。
一機が近接戦闘を始めると、もう一機は120度の方向から射撃を始め同士討ちを回避しながらを左右交互に立ち替わり繰り返す。
しかも、微妙に攻撃のリズムを変えることで少しでも慣れさせないようにしている。
「上手いな・・・足元のリュウ・ランランの軽トラックもいい具合に邪魔をして・・・・・・あっ・・・潰された・・・おお・・・軽トラより早く逃げてくリュウと運転手・・・」
シルバリーはだからといって弱くなったわけではなかった。適応力の速さゆえか、徐々にさっきまでの優勢を取り戻し始めた。その戦法は、FOXには取ることのできない手段だった。
建物の側面を思い切り蹴ることで反転し忍者のような動きで左右の包囲を掻い潜り、あっという間に挟み撃ちから逃れたのだ。アウェイでのみ使える何を壊しても構わないという戦法。そして、道に落ちた瓦礫をFOXに向かい蹴り飛ばす。
それは細身だが堅牢な作りのFOXの装甲にも僅かだが凹みをつける攻撃だった。
そして、コンクリートブロック一個程のその瓦礫の一部は針ノ宮の頰を掠めビルの後方へ飛んで行く。
「・・・・・・・・・逃げたほうがいいかもしれない・・・」
そう彼が思った時に一機のFOXに変化があった。
直立した身体に対して水平に前を向いていた頭部が真上を向き、両手両足の肘と膝が獣の四本足の関節と同様に曲がり、腰から枝分かれした鞭の様な尻尾が飛び出す。
その姿は・・・。
「・・・・・・・・・妖狐?」
やっと引越しの疲れが取れてきましたm(_ _)m




