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エピソード38 始まりの場所

ぴ…ぴろ…ぷ…ぺ…な……ぱ…ぷら…っぺ…くろ…ぱむ…ら…ま…や…ぴ……ぴ…か…つ…ら……しょ…う…が…っこ…う……のこ…う…ちょ…う……みん…な…かつら……って…お…も…う…?

 埃を被った物等が散乱した空間がそこには広がっていた。

 まるで水族館の暗めの展覧スペースほどの光量で照らされたラボラトリーには不気味な雰囲気が立ち込める。

 軽自動車一台分くらいの距離を取り等間隔に並べられた人の背ほどある円柱状のガラスの中は半透明な赤や青、緑や紫の液体で満たされているので何かのカプセルだというのはわかるが粉塵のような物が付着して中がよく見えない。

 ただ、床から300mm程の高さのガラスと維持装置のように管が伸びた機械部分に周りとは色の違う金属プレートがねじ止めされている。


 都原達は今やっと長い放置状態だった冷蔵庫を開いたような密閉空間に立ち入ると、離れない程度に各自中の様子を探る。

「随分天井も高いしまるで野球ドームみたいだ。それにこのいかにも実験用の培養カプセルみたいなものは、中に何が入っているんだ?」

 カプセルに顔を近づけるがこのままでは見えそうにないので都原は手で表面の汚れを拭おうとするが、

「やめた方がいいですわよ」

「へ? なんで?」

 突然のシェリーの静止に都原は伸ばそうとした手を止める。

「ここがどういう場所か考えてみてくれ、あのイリスウイルスを中和する物を作っていた場所だ。このカプセルはその為に使われた素材か何かだろう。使われていた当時はどうだったかわからないが直接触るのは危ない」

 スーツのポケットからゴム手袋を取り出し手を通すサイモン。

「別になんともないわよ?」

 カプセルに両手を開いて抱き着いてドルチェは普通に言う。

「なっ!? 何してるんですかドルチェさん!?」

 青ざめた顔で叫ぶ沙耶とは逆にドルチェは手をこまねきながら、

「ドルチェでいいってぇ〜、これ中身木の実だしひんやりしてて気持ちいいよぉ〜…すりすりぃ〜…」

 サファイアのように青い液体が入ったカプセルに頬擦りするドルチェだが、その中に浮かんでいるバスケットボール大のドリアンの様な白い植物の実が静かに漂いながら大きな目を開けた。

「あ…」 

 まず、その目玉は都原カイトを見、

「あぁ…ぁ…」

 続けて篤国沙耶とリッジスを、

「あ…あぁ…あ…姐さんっ……?」 

 その見たこともない生き物(?)を指差しながらリッジスが震える視線でドルチェに伝えようとするが、

「ン〜〜?」 

 人の字口をしてカプセルに密着したドルチェは頬擦りをやめない。

 大きな一つ目のウニはドルチェの顔に視線を向けるがフヨフヨと液体の中で微かに上下するだけで何もしない。

「まぁ…………いいか…」

「よくないんですけどっ!?」

 なんとな〜く、その白いウニに害意は無さそうなので都原はスルーしようとするが流石に沙耶はツッコむ。

「だって、なんかアレ大人しそうだし、アイツが気付いて悲鳴でも上げたらどうなるかわからないだろ?」

 それを聞いて沙耶は数秒固まると、

「それも…そうですね…」

 見事に流される。

「ほっとこう…」

 リッジスも放置する選択をする。

「あなた達…仲良さそうなのに結構薄情ですのね…」

 呆れたシェリーのサングラスがズレて翡翠色の眼が一瞬だけ露わになるが、それには誰も気付かない。

「長い年月、カプセルを割って出て来ないのだから攻撃性は無いのだろう。こちらのカプセルにも似たような生物がいるぞ」

 サイモンが汚れを拭ったカプセルの中にも植物の根と何かの母乳類の生き物が混ざったものが浮いている。

 ガラス面の下の色の違う金属プレートも手袋をした指で軽く撫でると何か書かれている。

「al…アル…γ(ガンマ)…」

「こちらはアルΩ(オメガ)ですわね」

 その明らかに自然に生まれた生き物ではない物をケビンは平静を保って見ていられない。

 何故なら自分の尊敬する祖父のやる事にしてはこの不恰好な生物からは慈悲を感じなかったからだ。

そして、それがこの無数の培養機の数だけ。

「コイツらの名前…なの? まさか、ここにあるカプセル全部? 先生? これは一体なんなんです? おじいちゃんは植物の研究をしていたんじゃないんですか?  先生?」

 いつもなら疑問を感じる前に説明をくれる人間が視界にいない。

「都原くん…? 先生はどこに…? 都原くん?」

 それを問われた少年の双眸も視線の先がわからないほど遠くを見ていた。

 しかし、方向さえ見ればその理由がわかる。

 培養機が並ぶ遥か先の恐らく周りを見渡す為の壇の上にハリスは立ち、その更に先の管理塔のような建築物の上方のガラス張りの管理室であろう場所を見ていた。  

「そこに居たか、カウンター…」

ハリスは管理室を睨み呟く。


「別の入り口もあるんだな、何しろ入れても横取りするのが目的だからな、待ってたぜ」


 漆黒の黒髪に白いコートの男が一人囁くように言う。

 その声は距離的に聞こえないが都原達には聞こえた気がした。




 

なんかドリアン食べたいなぁ…

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