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エピソード37 紅獅子の出撃

 メイルストローム号は小回りと高火力を重視して王都の依頼のもと篤国財閥の潤沢な資金を注ぎ込み造られた船である。

 抽象的に描いた鯨のようなフォルムを女性クルー達は可愛いとは言うが、その運用目的は、ウーディー・ロア博士の情報を得るためが第一に有り、カウンターと遭遇時は出来るだけ戦闘は回避、という建前だが簡単に言うと目立たずに宇宙の各所を周り必要であれば戦闘に参加するというものである。長期間の航宙を想定し、船内にはクルーの居心地重視の居住スペースも広めに造られている。

 しかし、特筆すべきはそこではない。 

 そのコンパクトさ故に戦闘時の武装も少ないが強力な重火器を装備し、手数の少なさをカバーするためVSAによる防衛が必須であり、搭乗するVSAの出撃の際に従来の戦闘だけを目的とした戦艦の甲板を利用したカタパルトでの出撃とは違い、出撃シーケンスのスピードを上げる為に格納庫から射出という表現がまさに正しい機体の上にある射出口から直に船外に飛び出す方式になっている。

 その格納庫の射出口に一機のVSAが出撃の為に待機していた。


『レゾナンス内でイレギュラー発生、シルバリーの姿を確認しました。最適戦力、アルバ・デルキランに決定。機体はディ・ソードを使用します』

 

 格納庫に響く凛とした女性オペレーターの声を聞きながら、青と赤のいくつもの直線が交差した模様のパイロットスーツを着たアルバ・デルキランがVSA、ディ・ソードの足元に歩み寄る。

 格納庫は約200メートル四方の空間に八機のVSAを収容出来、その他にはVSA用の各種装備、整備用機械、器具が集められたメイルストローム号全体の約四割を占める部分だ。

 格納庫の中は出撃の為、クルーが忙しなく動き回っている。

 ディ・ソードはフェンサーによく似た和製甲冑のようなデザインのVSAである。

 それはこの機体がフェンサーをより実戦向きな装備に換装したものなのだから当たり前だが、外見的にはフェンサーでは鎧で守られていた頭部、胸部 肩部 腕部、腰部に脛部分がさらに硬質でしなやかな薄い金属板で強化されている。 

 両腰につけたチェンソーブレードに両脇部には拡散レールガン、背中には一本の大太刀を携えている。

 カラーリングはアルバのイメージカラーの赤を基調にハイライトに白が使われている。

「まさか、ヴェガがぶっ壊れてる時にロンズバットのシルバリー相手にコイツで出るのかよ…勝てるかわからないからな?」

「艦長がヴェガ乗ったら大体の敵なんて一瞬じゃ〜ん? それともディ・ソードみたいな量産機じゃ自信がないですか〜? 歳で腕が鈍ってるなんて言い訳、今時通用しませんよ〜?」

 アルバの表情を下から覗き込むようにしゃがんで見上げる黒髪縦ロールの女性オペレーター、ラシー・セルシーが揶揄うような表情をする。

 この女性オペレーターは童顔だが綺麗で色気のある大人の女性の声をしているのだが、女子高生のような喋り方で台無しになっている。

 それを引き攣った表情でアルバは、

「お前、どう見ても俺怪我人だからな? カウンターの大型戦艦にヴェガ一機で突っ込んで百機以上の敵機斬り伏せたと思ったら、それが戦艦まるごと全部AI制御で分厚い気密シャッターで閉じ込められてしかもそのまま自爆だぞ⁉︎ 生きてただけでも奇跡だからな⁉︎」

「あれって艦長一人を狙った罠でしたよね〜、それだけ艦長が怖いんじゃね?」

 二人はリフトに乗り込み傍のボタンを押す。

 リフトはコックピットのある胸部に向けて動き出す。

「そんなことはどうでもいい、で? コイツはもちろん?」

「はい、艦長が嫌いな電子制御とかのオプションは全部オフ〜! フルマニュアル操作になってま〜す‼︎ 題して、変人設定〜‼︎」」

「うるさい‼︎ 全部自分で動かさないと満足いく動きができないから仕方なくなんだよ」

 と、言ってアルバはゆっくりと近づいて来るディ・ソードの頭部を見上げる。

「まぁ、俺の意思とか操作感覚を全くの狂い無く理解してくれる電子補助があったら使ってみてもいいかもな…俺の生きている間はそんなもん作れる奴はいないだろうが…」

 その横に並んでラシーがアルバの視線をなぞるように同じく紅い鉄人の頭を見ると、

「なんかカラーリングがスイカの皮の緑がないみたいじゃね?」

「うるせえんだよ‼︎ 除隊にするぞ‼︎」


『ディ・ソード、アルバ・デルキランの搭乗を確認。艦長? 傷の具合は大丈夫ですか? 辛いでしょうが、現在この艦には白銀のシルバリーに対抗できるパイロットが不在ですので、ヴェガも修理が遅れていて申し訳ありません。コルド小隊長が救護室でウイルス性の疾患の治療が終わっていれば頼んだのですが、あの様子だとまだ戦線に復帰させる訳にもいかず』

 恐らく銀髪メガネの女子オペレーターの声だが、ディ・ソードの操縦用着装の中に身体を入れながらアルバは、

「これ、艦内放送なんだけど…まあいい、ただの重めの火傷と切り傷だ、変に動くと炙った鎌にぶっ刺されるように痛むが、なんとかするさ」

 機体の上のハッチが開き射出口が露わになる。

『あ、すみません。射出口はレゾナンスの内部に繋がる通気口に接続しました。森林地帯に出るので後は私がナビゲーションします』

 アルバは慣れた手つきで出撃の準備を終え、最後にゴーグルを装着すると、

「ルナはいい大人に育ったな、外の縦ロールギャルとは大違いだ」

 と、横を見ればコックピットを離れながら、艦長のおっさんうぜえしー、と言ってる黒髪縦ロールが見える。

『艦長無事を祈っております。必ずご帰還ください』

 格納庫のクルーが旗を動かし発信準備完了を伝える。

「恩師の娘がいい女に育つのを見れるのも役得だね。さっ‼︎ 行くぞ‼︎」

 操縦用着装のグリップを握りアルバは力強く叫ぶ。

 動力を得たディ・ソードのアイカメラが輝き、もたげていた首が上がる。

『射出口全開を確認、ディ・ソード、フェイス・オフ!!』

 

「いってこ〜い! どうなっても私知らないけど艦長の馬の骨は拾ってやるし〜!」

 めちゃくちゃなセリフで送り出す黒髪縦ロールギャルオペレーターの声が、格納庫に響いた。



 

 

遅くなってすみません。ですが、今作の現時点最強のパイロットの出撃回です。

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