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エピソード35 ソードコレクター

 四機の鉄の巨人が地面を揺らしレゾナンスの街を駆けていた。

 三機のFOXは枝分かれした道路に分散し、数の差にまるで動じていない様子のシルバリーが両手に曲刀を持ち、既知の戦場であるかのように走る。


『私はどちらを追えばいいんだ〜〜〜〜っ‼︎ 危険と分かりながらもこの異常事態を皆様のお手元にお贈りする使命を感じているリュウ・ランランでございます‼︎ おい‼︎ 運転手もっとスピード出ないの⁉︎』

 テンガロンハットが風で飛ばされないように抑え、嬉々とした笑みを浮かべたリュウを乗せたトラックが、一機のFOXの足下をネズミのようにチョロチョロと走り回る。

 街にはまだ逃げ遅れた、というより何も知らない住人たちがいるがシルバリーはお構い無しだった。

 恐ろしい脚部の出力で空中に飛び上がったシルバリーが、リュウが付き纏うFOXの頭上から両手の曲刀を振りかぶり落下してくる。

 それをFOXはその躯体には狭い道路を転がって避ける。

 空を切った曲刀はアスファルトを至極簡単に抉る。

 FOXは新気鋭の機体である、搭乗者の動きをラグを極力ゼロに近付けるGPUを持ち、出力も現行のVSA戦で用いられる機体の中でもトップクラスに入るよう調整されているはずなのだが、どうやらこの銀甲冑はそれを大きく凌ぐパワーを持っているようだ。

 FOXのパイロットもそう分析し今の一撃を回避することを選んだのだろう。


『一体この機体はなんなんだ〜〜〜〜っ‼︎ 私も闘技場での実況をメインでやらせてもらうこともありますが、こんな機体性能の差を見るのは初めてだ〜〜‼︎ まるで未来からやって来た機体だ〜〜〜〜っ‼︎』

 リュウの軽トラがシルバリーの横を走り抜け、カメラはその姿をレンズに写す。


 地面を転がったFOXは即立ち上がりシルバリーの背中に蹴りを放つ。

 シルバリーはまだ背中を向けたまま振り向いてもいない、おそらく体躯的に反射スピードはFOXの方が早いのだろう、その蹴りの軌道を見るに一撃を見舞えるはずだ、が…


 フォンッ…


 FOXの蹴りは空を切った。

 それは一瞬の出来事、攻撃が当たるかに見えた一瞬でシルバリーの曲刀を握った腕がノーモーションで背後に周り、それを仰け反って避けたことによりFOXの脚部は若干上に反れ、攻撃は失敗した。

 そして、そこからシルバリーの全身が瞬時に旋回しFOXを前方に捉えると、竜巻のように両手の緩やかな弧を描く刀を振い始めた。

 それを受け止める武器をFOXは二振りのナイフしか持っていない。

 目まぐるしく繰り出される一撃一撃が渾身の力を込められたような剣撃に新型機はナイフを盾にするのと身の軽さで避けるしかなかった。

 FOXもナイフで刀の軌道を外らしたりはしているが、明確にわかる事実、機体の性能もだがシルバリーのパイロットは明らかにFOXのパイロットを遥かに上回っている。

 それがこの命を賭けた攻防を素人でも見て感じ取れるだろう。

 そこまでの差。

 銀甲冑は防戦一方のFOXに見切りをつけたようにナイフを弾き上げ無防備になったところに半身を捻り一瞬の溜めを作りコックピットを狙い曲刀を振るうが、それは途中で軌道を変え、自機の背後に向けられた。


 ガインッ…


 別の道に回ったもう一機のFOXがシルバリーの背後に回り格闘時用に強固に作られた膝で背部を狙い迫っていた。

 その膝蹴りにシルバリーの曲刀がぶつかり砕け散った。

 曲刀の破片は散らばり周囲の建物や街路樹に傷をつける。

 そして、そのFOXの背後からはライフルを構えたFOXによる援護射撃が放たれた。

 だが、その優勢にも見える構図はたった1秒も続かなかった。

 シルバリーは瞬時に跳躍し、きりもみ回転しながら片手に残った曲刀を宙に投げ捨て、背中に両手を回し引き抜いた二本の細く鋭い剣を先程まで相手していたFOXの背後に着地するのと同時に両肩の関節部から切り落とした。シルバリーに向けて放たれたライフルの援護射撃も皮肉な事に味方のコックピットを撃つ形になり、また一機、FOXは力無く倒れた。


『本当になんなんだこの機体は〜〜〜〜っ‼︎』

 ラジコンの車のように双方の周りを走る軽トラックの荷台でシルバリーの妙技に暫く見入っていたリュウ・ランランの叫びだけが周囲に響き渡った。


 残るFOXは二機…

頑張った‼︎ 頑張ったからね‼︎ 忙しいけど頑張った‼︎

多分忙しい‼︎

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