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エピソード33 苺味

「おいおいおいおいっ‼︎ 流石に多過ぎんだろっ‼︎」


 レゾナンスの地上でシルバリーがFOXのお披露目パレードに乱入した頃である。

 篤国沙耶が言うにはウーディー・ロア博士の研究室まで後少しらしいのだが、そこに近づくにつれてストローヘッドに加え、クラブという左右に大きなハサミを付けた六足歩行の警備マシンも十数体は軽く都原カイトと篤国沙耶を追いかけて白い迷宮を走り回り出したからたまったもんじゃない。

 全力の約80%の速度で逃走する都原の隣で沙耶は、

「カイトさんって結構足速いんですねー、体力も中々、あっ、そこを右です」

 と、弁慶から装着した電動インラインスケートシューズで滑るように並走しながら、意地悪な笑みを浮かべて口元を隠してプププと笑う。

「お前が若干性格悪いのはどうでもいいけど、さっきのVSAなんかヤバそうだったじゃねぇか? あと妙に口の中がいちご味っぽく甘ったるくて、長距離走で疲れた時独特の口の中がちょっと粘っとするのが気持ち悪い‼︎」

「はい⁉︎ シルバリーは私の船の者がなんとかしてくれるでしょう。それより!いちご味の何が気持ち悪いんですか⁉︎ それは私の口っ・・・・ゴニョゴニョ・・・・」

 ほんのり頬を紅潮させ尻すぼみに叫ぶ沙耶に都原は違和感を覚えるが、

「お前、もしかして好物いちごパフェとかそんなん?」

「そりゃあ、女子ですし? いちごは普通に好きですよ? 今日だって・・・・あっ・・・・」

 そう言って口をつぐむ少女。

「なあ? なんかさっきからいちごって俺が言う度に取り乱すのはなんなんだよ? まさかプールに落ちた時に俺に人工呼吸とかしたって訳じゃないだろ?」

 必死に足を止めずに動き続ける都原が訝しげな顔で聞く。

「べべべ別にっ‼︎ そんな事するわけないじゃないですかっ‼︎

塩素ってのはですネっ‼︎ 化学式や組成式で見ると食用に向いてないんですが実は食用塩素は塩素がとても濃厚でその味はまさに苺‼︎ なんでス‼︎ それをあなたは大量に飲んで溺れただけでスカラ‼︎ 溺れたにしたって私は人工呼吸は仕方なくしても意識を確かめるためにあなたの口の中に舌を入れてディープ人工呼吸なんてシェリーに習わなかったら絶対しないデス‼︎」

 無理矢理絞り出した説明で一気に捲し立てる少女の言葉の内容に都原は、

「・・・・・・なあ? それってお前が俺にディープ人工呼吸したって言ってるようなもん・・・・」

「うるせーーーーーーーーーーーーーーーーッ‼︎」

「オブッ‼︎」

 叫ぶ少女の背中からハリセンを持った機械腕が伸び、都原の後頭部を思いっ切り引っ叩く。

 バランスを崩した都原は地面に片膝を突く。

 同時に沙耶は奥歯を食いしばり、180度旋回し、

「後ろのロボットさんたちもいい加減巻かれてくださいっ‼︎ 弁慶っ‼︎ デカいの撃ちますよっ‼︎」

 そう宣言すると、沙耶のインラインスケートの車輪が棘状に変形しブーツの両サイドから鋲のようなものが地面に食い込み沙耶の下半身はガッチリと床に固定された状態になる。

 さらに弁慶から四本機械腕が壁に広がって刺さり沙耶の上半身も支える。

 続いて弁慶の大きさから明らかに質量が釣り合わない歪んだ八角形の大砲が現れ沙耶の肩に乗せられ、沙耶はその柄を握り、片眼にあてがわれたスコープを覗き、警備ロボットの群れに照準を合わせ、

「私はっ・・ディープ人工呼吸なんてしてなーーーーーーいっ‼︎」

 引き金を引くと、砲口からアークを飛び散らせながら電磁誘導で放たれた音速を超える砲弾が轟音を上げて、帯びた風で床や壁を抉り十数体の警備ロボットを一撃で葬った。

 

 弁慶の持つ武器の中で最も威力だけはある武器、レールガンである。



「待て待て待て…お前この威力反則だろう?」

 最早ガラクタの山と化した無惨な警備ロボットの残骸に若干頬の筋肉を引き攣らせて都原が呟くと、

「これで信じていただけましたか? 私はディープ人工呼吸なんてしていません」

 スルスルとレールガンを背中の弁慶の機械腕に仕舞わせながら何処か都原を睨むような眼光の沙耶に都原は、

「説明になってない気がするけど・・・わかったって冗談じゃん? ディープな人工呼吸なんてする十代のそんな痴女いるわけねえじゃん?」

「もおーーーーーーーーーーーーーーーーッ‼︎」

 なぜか自分の誤解を認めて許しを乞おうとしたのに、頭を抱えて叫ぶ少女。

 ほぼ初対面の少女が見せる情緒不安定とも見えるコロコロ変わる表情に都原はちょっと恐怖を感じる。

「それにしても沙耶の弁慶に比べたら俺のPWは貧弱だな・・・」

 口を尖らせ自分のデバイスを眺める都原に、沙耶は冷静さを取り戻すと・・・

「そんなことありません。あなたの龍鱗の剣は一つの斬撃を八つの空間に発生させられ、柄と鍔の八つの鱗は自動で宙を舞い相手の攻撃から守ってくれる。現時点でも中々の性能ですが、PWとは発現した後からどんどん進化していくものです。今の段階でも何か秘められた力があるのだと思います。自信を持ってください」

 そう言って沙耶はデバイスの乗った都原の手のひらに重ねる様に手をそっと乗せる。

「そっか・・・こんな物使うことのないように過ごしたいけど、強くなれるなら強くなりたい、俺も沙耶くらい強くなってやる」

 その意気込みに沙耶は柔らかい笑顔を向けると、

「願い続ければきっとなれるでしょう。出会って間も無いですが、あなたは正しい力の使い方ができる人だと感じました。頑張ってください」

「ああ‼︎ で、博士の研究室までは後どれくらいなんだ?」

「目の前にあるじゃないですか、だから私はここで警備ロボットを止めたんですが・・・・」

 と、沙耶は白い壁に視線を移す。

「ここが?」

 都原もその視線の先を辿る。

 そこにはよく見ないとわからない縦に細く伸びた溝があった。



「ここが私たちの目的地、ウーディー・ロア博士の研究室・・・王都最大の機密にして最大のプロジェクト、復活の種の研究が行われていた場所です」




遂に都原と沙耶はこの物語の中核を担う事実がわかる場所に辿り着きました。ですが、それを知るにはまだ役者が全員この場所に集っていません。どう集うかに注目していただけると幸いですm(_ _)m


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