エピソード31 シルバリー
レゾナンス製の新型VSA『FOX』のお披露目パレードが始まり、道端の観客は大盛り上がりな状況であった。
「チーム戦で行われるVSAの試合ですが、現在人型のVSAしか存在しません。果たしてこの機体が後のVSA戦にどのような影響を与えるのか、私は想像できません‼︎ なぜならこのVSA『FOX』はアニマという四足獣の姿に変形できる機構を搭載した、今までの固定観念を覆す前衛的な機体なのです‼︎ なんとレゾナンスらしい挑戦的精神に溢れた機体でしょうか‼︎」
MCのリュウ・ランランを乗せたトラックがFOXの横を並走する。
熱狂的な歓声を上げる道端の若者たち。
レゾナンスの学生は志の高い気風がある。それはレゾナンスが積極的に学び、世に貢献する精神を持った若者を育てる事に全力を尽くしてきた結果なのである。ゆえにレゾナンスの学生は非常にクリエイティブであり、新しい物を作り出す事を常に念頭に置くよう教育されているのだ。
その彼等が顕著にレゾナンスの技術力を目で見ることができるVSAという物に興味がないわけがない。
ましてや今回のFOXは明らかにこれまでのVSAには無かった特徴を持っているから尚更だ。
今のこの盛り上がりにはそういう背景がある。
しかし…
一列に並び大通りを行進していた四機のFOXの前に、さも当然の様に一機の西洋の甲冑のような銀色のVSAが脚部と背部のバーニアを噴きながらゆっくりと降り立った。
「お〜〜っと? 謎の機体が現れたぞ〜〜っ⁉︎ 見たことのない機体ですがこれも新機体なのでしょうか〜〜っ⁉︎」
カウンターの機体シルバリーである。白銀の西洋風の甲冑に所々に突起部分がある騎士という表現が似合う機体である。
その機体が頭部カメラを輝かせFOXを睨むように捉えると、腰に二本下げたうちの一本の直刀の柄を掴み構える。
四機のFOXもナイフを両手に持ち隊列を二列に変え構える。
「なんと〜〜〜っ‼︎ 実際の模擬戦を見せてくれるようだ〜〜〜っ‼︎ 私も予定を聞いていないサプライズ‼︎ これはFOXのスペックが見られるかもしれないぞ〜〜っ⁉︎」
リュウが実況モードになると道路脇にごった返す観覧者もテンションが上がり喜びの声を上げる。
パレードの演出の花火が上がり五機のVSAのシルエットが道に落ちると・・・
シルバリーは直刀を下段に構え前列の二機のFOXに向かってゆらりとした独特な歩調で間合いを詰め、切り上げる。
それを前列の一機のFOXが両手のナイフを交差させ受け止めるが、ギリギリと火花を上げてぶつかる刃はシルバリーの剛腕の力が勝りFOXのナイフを持った腕は上方に跳ね上がる。そこに一歩踏み込んだシルバリーの直刀がFOXの胴体目掛けて放たれるが、隣のFOXが間に入りナイフで受け止め、腕と脚部のシリンダーから蒸気を噴いたシルバリーの恐るべき出力に二機のFOXは後ろに押し下げられる。
「んん〜〜っ⁉︎ FOXが押されているぞ〜〜っ⁉︎ これはどちらの機体のお披露目なんだ〜〜っ⁉︎」
歩道で見ている人々も困惑の表情をするが、演出だと思ったのか再び声援を上げ出す。それどころかシルバリーの応援を始める観覧者も居た。
前列ののFOX二機は一度後方に下がり後列の二機が腰の刀を抜く。
今度はFOXの方から仕掛けた。
一機は走り出しシルバリーに中段に構えて横に薙ぐように切り掛かり、それをシルバリーが直刀で受け止めた瞬間に横に移動、その間にもう一機のFOXは道に隣接するビルよりも高く跳躍し自重がプラスされた一撃をシルバリーに放つ。
流石にFOXまるまる一機分の重量と重力加速のついた一撃をシルバリーは圧倒は出来ないが、それでもしっかりと受け止めた。機体の関節から蒸気が上がる。
この様子を見て追撃を予想し攻撃したFOX二機は後退し、FOX達は構えを解かずにシルバリーの様子を見る。
民衆は盛り上がり歩道から身を乗り出し見入る者たちも居た。
するとシルバリーは前方にバーニアを噴き後退する。
そして直刀を持ち直すと、振りかぶり槍投げのように思い切り前方に投擲した。
直刀は放物線を描かずに真っ直ぐと投げ出され・・・
前列の一機のFOXの構えた腕ごとコックピットを貫いた。
そこで歓声が止まる。
直立したまま力無く破損した腕をぶらんと下げたFOXの射抜かれたコックピットから静かに赤い液体が道路に滴り落ちる。
「こ、こっ、こっ、これは本当の戦闘だーーーーーーーーーっ‼︎」
リュウ・ランランの叫びと共に民衆は蜘蛛の子を散らすように一目散に凱旋路から我先に離れようと走り出した。
手の空いたシルバリーは両膝の突起に手をかけ引き抜く、鞘になった膝から曲刀が抜き放たれた。
シルバリー・・・ソードコレクターと呼ばれた男、白銀のロンズバットことロンズバット・ファイの愛機である。
この章はVSAという本来チーム戦による試合、スポーツ的な感覚で使われる物が実は戦争の兵器として使うことができる話としていきなり提示するための章なんです。いつか、本来のスポーツとしての使い方も書きますので読んでいただけたら幸いですm(_ _)m




