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エピソード30 ディアスパイク

「ねえねえ? 先生? この白い壁ってさ、ずっと続いてるけど地下研究所って窓ってないの?」

「あっ‼︎ 俺もそれ気になってた」

 ドルチェ達は博士の研究室を目指して、白一色の地下研究所を進む。

「ん? ちゃんとあるよ、そこにも」

 そう言ってハリス・ウォードンはドルチェの側の壁を指差す。

「無いんだけど…」

「あるある、よく見てごらん」

 言われるままにドルチェとリッジスはハリスの示した壁に目を凝らす。

「なんかちょっと他のところよりツルツルしてる…?」

「触り心地も周りよりなんとなく滑らかだ…」

「色付きのマジックミラーになってるんだよ。しかも質感は周りの壁とあまり変わらないようにね」

 ハリスは吸い終わったタバコを携帯灰皿に入れてポケットに仕舞う。

「なんでそうする必要があるの?」

「防犯と研究の内容を隠すためですよね?」

 シェリーに抱えられたケビンが答える。

「ケビンちゃん‼︎ 目が覚めたの?」

「ケビンくん大丈夫なの?」

「おはよう、ケビ助」

 ドルチェとリッジスはともかく嬉しそうにケビンに頬擦りするシェリーに抵抗せずにケビンは続ける。どうやら抗っても意味のないことを悟ったようだ。

「正解、ここの研究は企業秘密とか正式に発表されるまで外部の人間に知られたくない研究が多いんだ。だからこういう細工が必要なのさ…もう一個理由があるけどね?」

 ハリスはどこかふざけた感じに生徒たちにウインクする。

「他に理由なんてあるの?」

 ドルチェとリッジスが一緒に首を捻る。

 シェリーに抱き抱えられたままケビンはゆっくりと、

「…迷路にするため、ですね?」

「ピンポ〜ン‼︎ ここに侵入しようとする人間は多いんだ。企業秘密を守るためには迷わせて邪魔してやりたい、中が見えたら目印になるかもしれないでしょ? だから入ることも出ることも難しい迷路にするってわけ‼︎ そして、ここで働く者は迷路に迷うような奴はいない」

「ぶ〜、どうせあたしはバカですよ…」 

 不貞腐れるドルチェだが、 

「僕はそうは思わないけど…リッジスくん? 後ろのストローヘッド片してくれる?」

「へっ?」

 サイモンを先頭に最後尾を歩いていたリッジスが振り向くと、数瞬気づくのが遅かったら攻撃されていた間合いにストローヘッドが迫っていた。

「いきなりは反則だって‼︎ ディアスパイク‼︎」

 腰から爪先までを包む金属の鎧を纏い、リッジスはタンッタンッとその場で跳ねる。

 ドルチェやハリス達は少し対峙する機械人形とリッジスから距離を取り構える。

「もしもがあったらあたしが仇取ってやるから、やっちゃいなさい‼︎」

「やられる前に助けて欲しいんだけど…なっ‼︎」

 聞く耳持たずのストローヘッドの手刀をしゃがんで避けると、リッジスは同時に足に溜めた力でバク転しながら機械人形の頭部を蹴り上げる。

 だが、あまり効いた様子もなくリッジスに追撃の蹴りを放ってくる。

 ストローヘッドの特性1、打撃への耐性が非常に強い。

 リッジスはその蹴りを膝で受け止める。

 生身の人間なら脚がもげるほどの威力の蹴りだがディアスパイクの防御力なら耐えられる。

 ストローヘッドの特性2、打撃攻撃の威力が非常に高い。

 攻撃を受けた勢いを利用してリッジスは横回転し右後ろ回し蹴りをストローヘッドの腹に打ち込む。

 同時にディアスパイクの足裏に着いた固定具がストローヘッドの腹部をガッチリと掴む。

 ストローヘッドは抵抗するようにリッジスの足を掴み引き剥がそうとするが、びくともしない。

 ディアスパイクは、ただ下半身に纏う鎧ではない、腰についた銃も威力は高いがおまけに過ぎない、人工筋肉と駆動系により脚力を飛躍的に上げる。

「ブッ刺されっ‼︎」

 リッジスの踵から金属の杭が弾丸のようにストローヘッドの腹部を貫いた。ディアスパイクの最大の特徴は踵の後ろに着いたアンカーを相手に一トンを超える威力で叩き込む、それが主な使い方のPWである。

 ストローヘッドの特性3、耐久力を超える打撃には最も容易く破壊される。

 腹部を失った機械人形はただ地面に伏すだけだった。


「先生? 俺たちちゃんとした地下研究所の入り方したはずだよね? なんでコイツが襲ってくるの?」

 確かに鍵を使って地下研究所に入場した彼らに警備ロボが襲い掛かるのはおかしい。

「まあ、予想は付く」

 サイモンがそう言って後方を見る。

「ああ、そういう事だね〜、なんかあいつレゾナンスに単独で侵入したんだっけ? 外からの補助があっても実行するアレがちゃんと知識なきゃ無理だとは思ってた」

 ハリスはタバコの箱を取り出すがもう中身は無い様子。

「あの男の場合、あいつ本人が相当なハッキング能力を持っているんですわよ…」

「都原くんと沙耶さんがもし生きているならあの男も生きている可能性は高いですよね?」

 シェリーとぬいぐるみ状態のケビンが深刻な顔をする。

「思っていたより楽な展開じゃなさそうだね、こりゃ…」

 ハリスはタバコの代わりにポケットから禁煙用のパイプを取り出し口に咥える。

「うーん? つまりどういうこと?」

「やな予感がする…」

 話に置いて行かれた高校生2人が他の4人の表情に顔を青くする。

 その2人にハリスは頭に手を置き申し訳なさそうに…



「地下研究所のシステムをテッツ・コット・ミロットに握られた」


 それと同時、地下研究所の天井が大きく揺れ出した。


これからはザッピングが激しくなります。彼らの活躍が見れる事が増えるのでお付き合い頂けたら嬉しいですm(_ _)m

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