エピソード29 パレード
レゾナンスにはVSA操縦士養成学校ソーディスがある。
他にもVSA専門の工業大学などがいくつか存在する。
つまりレゾナンスで開発されるVSAも存在するのである。
しかし、文化祭の延長上の過程で作られた程度のものと侮るなかれ、レゾナンスは教育機関としては宇宙最高の水準である。よって王都コロニーグラムライズにあるVSA製作会社KIOの第一線で活躍している者を多数送り出しているのである。
ゆえに工業大学の生徒にも現在、金の卵が在席しているのである。
レゾナンスにもVSAを作る技術がある。
そしてそれは一大企業と遜色無いレベルで、なのである。
その未来ある金の卵の1人がケビン・C・ロアだったりする。
彼が発案と設計に携わった機体が今夜、レゾナンスの学生達の目に入る時が来た。
レゾナンス製の新型VSAが街を歩くのである。
市街地から少し離れた格納庫から始まり、街中の主要道路を通りまた格納庫に戻る。
所謂お披露目パレードである。
行われる時期は製作期間が不定なので時期は決まっていないが、これが結構盛り上がるイベントとして通例になっている。
今回、パレードで発表されるのは今までの人型という固定観念を覆すアニマという変形機構により、四足獣のような機動性に優れた姿にも変形可能なギミックを持つ『FOX』という機体である。
この機体が約20キロの距離を練り歩く。
よりにもよってこんな日を…
それは都原カイト達が地下研究所に足を踏み入れた時刻より少し前から始まりを迎え、しばらく時間が経った頃。
レゾナンスのソーラーパネルの花弁は閉じ夜となり、いつもなら昼より若干外出する学生が減る時間なのだが、今日は新型VSAのお披露目パレードとあって交通規制のされた主要道路には人がごった返している。格納庫の中が見えるのは機密上良くないので、街中の主要道路から観覧は出来るよう規制がされている。
ホットドッグやたこ焼きの屋台の店主が声を張り客を呼ぶ姿もある。
パレードの出発地点に近い場所を選んだロザンナ・ホーキンスはイカ焼き片手に少し荒んでいた。
「ああ〜、酒が欲しいわ…」
そろそろ定期テストを作らなければいけないこと、そして昨日酔って逃した男性がかなり好みだったからだ。
同僚の教師には『あんた、また男の前で酒飲んだでしょ?』と、割と真剣に言われたりするのだが、ロザンナとしては首を傾げるしかない。
「私、お酒強いんだけど…酔った時の記憶はないけど、次の日の朝にはスッキリしてるし、財布の中のお金はかなり減ってるから大分飲んではいるのよね」
果たして、大量に飲んで酔っ払いになり翌日スッキリしていることが酒への耐性があると言っていいのかは不明だが…
「まあ、いいわ。今日はソーディスの教師なら見ないわけにはいかない新型機のパレード、カメラに撮って明日の授業に使わせてもらうわよ」
そう言ってイカ焼きを齧りパレードの始まりを待つ。
あの声が聞こえたら始まりなのだ。
『さあーーーーーーーーっ‼︎ 始まりました‼︎ 今夜のパッレエ〜〜〜イドッ‼︎ MCは私、リュウ・ランランが行わせていただきます‼︎』
派手なテンガロンハットを被ったラメ入りスーツに鼻メガネの男性が、ドデカいスピーカを積載したオープンカーの後部座席に乗ってマイク片手に調子良く司会を始める。
それと共に、車の後から駆動音を上げてゆっくり現れたのが…
『みなさん待望のレゾナンス製の新機体FOX‼︎ 良く見てください‼︎ 狐のお面を被っているような頭部ですね〜〜〜っ‼︎』
思わずロザンナは道路に設けられた柵から少し身を乗り出す。
「あれが新機体FOX…」
静音性に優れているのだろうか、あまり大きな音を立てずに4機のFOXがリュウ・ランランの乗った車の後に一列に並んで道を歩く。
ロザンナは胸ポケットから取り出したカメラでその姿を撮影する。
観覧者の興奮した歓声がこだまする。
名前の通り狐のような耳と尖ったマスクの頭部に、人工筋肉の上に装甲を貼り付けたかのような四肢、腰の辺りにスラスターが付いている、身長16メートルほどの巨人。カラーリングは白一色に塗られている。
今回はお披露目のために武装はナイフと長刀一本で、シルエットがよく見えるように軽いものになっているようだ。
『歩いているだけでわかる人工筋肉の躍動感〜〜〜〜んッ‼︎ 計算上現行のVSAの中ではトップクラスでっす‼︎』
「確かに、あの人工筋肉の量なら出力は従来のものより25パーセントは上がりそうね。あと、あの腕と足の関節、複雑な作りになっているけど、あれが今回の目玉のアニマ…変形機構のカラクリになっているのかしら…」
目の前を通過するFOXをパシャリパシャリとカメラで撮影するロザンナだったが、
『すでに発表されているアニマについてはパレードの終盤にお見せする予定なので、見たい方は移動移動ーーーーうっ‼︎』
リュウ・ランランの言葉にロザンナは、
「何よ‼︎ すぐ見せてくれるのかと思ってたわ‼︎ 終盤ってすぐ移動しなきゃこの混雑じゃ間に合うかわからないじゃない‼︎」
通り過ぎたFOXの背中の写真を一枚撮ると、ロザンナは移動しようと身を翻した。その時だった、遠い丘陵地帯の上に一瞬目が留まる。双眼鏡並みの視力のロザンナの視界には銀色の西洋の甲冑のような風貌のVSAが見えた。
「あれは…どこかで見たことあるような…」
今回はバリバリのアクション無し、お笑いも無しの話と話の間に入るエピソードです。これから先は地下研究所での都原達のPW戦と地上でのVSAの戦闘が並行するように書きますのでご容赦くださいm(_ _)m




