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エピソード28 水の空

「つまりは労力の問題なんですよ」

 ドルチェ達が謎のウジワラ軍団の話題に疑問を抱いている頃である。

 篤国沙耶は都原カイトに地球共鳴の説明をしつつ、頭の中で現在地を割り出しながら步を進めていた。

 都原の携帯端末と沙耶の端末を繋げたところ、鮮明な画像は予想通り表示されなかった。ただ広大な地下研究所の現在地と方角だけは知ることができた。

 それさえわかれば沙耶は充分だと言い、都原はその案内に従っている。

 道中、ストローヘッドの襲撃が何度もあったが二人は難なくそれを撃退していた。

 沙耶はともかく、都原カイトはレゾナンスの剣術大会で毎年表彰台に上がるほどの剣の使い手であった。彼の生まれた家も格式のある剣術、辰真流を継承して来た血筋で幼い頃から祖父に技を叩き込まれていた。

 沙耶も都原の腕前に素人ではないのだろうと感じ取っていたが、まだ聞くことが出来ていない。

「例を挙げるなら〜…」

 マルチタスクなところのある沙耶は逆にいくつも考え事を並行させていた方が思考力が上がる特性を持っていた。

「例えば、プラモデル。組み立てるのと壊すのだとどちらが大変だと思います?」

 そう言って両手を合わせ都原に問う。

「そりゃあ、組み立てる方が大変だよな? 壊すのは思い切り叩けば一瞬だし」

「そういうことです。テッツの能力は空間に歪みを作り、あのドリルの芯のように歪みによる力の移動で回転を生み出し高速で飛ばす、他にも使い道はありますがどちらかと言うと壊す方の能力です。では、私の治癒能力はどちらでしょう?」

 流れるように説明と質問を交互にする沙耶に都原は関心しながら、答える。

「組み立てる方の力だな?」

「その通り‼︎ 故にテッツの能力より私の治癒の力の方が労力が掛かる、簡単に言うと使う時間も体力の消費も激しい、ということになるんです」

「わかりやすいな、でもさ、実際どうなんだ? 俺には地球共鳴って力がないからどうゆう感覚で使うのかわからないんだけど、念じればいいのか?」

 都原の質問は最もである。自分の体に備わっていないものの感覚を理解することは不可能だ。能力を持つ者の言葉でしか理解し得ない。

「とても良い質問だと思います。端的に言うと自分の持つ力を疑ってはいけないっという条件があります。私の能力を例に挙げるなら、私の幼少期の話になりますが、飼っていた猫が怪我をしたことがありまして…その頃、テレビで見るアニメに治癒の力を持つキャラクターがいました。それを私は現実でもそういう力が人間にはあるのだと思っていたんです」

 そこで、沙耶は一度話を止め、都原に向けて両掌を開いた。

「?」

「あとはアニメを真似ただけ…」

 と、沙耶は都原の胸板にポンッと両手を当てすぐ離した。

「あー、なるほど‼︎」

「わかりました?」

 と、言って沙耶は少し悪戯な笑みを浮かべ都原の目を上目遣いに見る。

「使えちゃったのか?」

「使えちゃいました…フフフ…」

 その笑顔はごく普通な女の子の笑顔で都原は安心した。

 もしかしたら、この少女は血に塗れた世界の住人かもしれないと心のどこかで思っていたからだ。

 篤国沙耶は都原にとって最も身近な女子のドルチェとなんら変わらぬ、普通に喜怒哀楽のある年相応の女の子だった。

「沙耶?」

 都原はこの少女を加え友人達ともっと共にいたいと思った。短か過ぎる付き合いだがきっと楽しいだろうと想像した。それを伝えようと思った。

「なんです? あっ‼︎ 見てください‼︎」

 白一色だった廊下の先が少し暗くなっていて、沙耶は駆け足でそこに飛び出す。都原も追いかけてその暗闇に入る。

 二人の目の前には…

「凄いです‼︎ これが下から見たレゾナンスなんですねー‼︎」

「人工湖の底から見るとこうなっているのか…」

 レゾナンスの地上にある自然公園の中心にある小さな湖、直径300メートルの湖の底は天蓋と同じ流体ガラスになっていて、その下は地下研究所の一部が空洞になっている。それを囲むようにガラス張りの廊下が円を描いている。下には宇宙を一望出来、上を見ると揺れる水面と魚達が尾を振ってゆっくりと泳いでいるのが見える。水を通して降り注ぐ光はまるでオーロラの様だった。

 ガラスに沿うように取り付けられた手すりに手を置き、その景色に二人はしばし見入ってしまった。

 ふと周りを見ると、この廊下にはタバコの吸い殻入れやベンチが置かれ、ここの研究員がこの水の底を眺めながら英気を養っていたのが想像できる。

「すみません、さっきの話なんでしたっけ?」

 沙耶が幻想的な光を眺めながら問うと、

「いや、なんでもない」

 なんとなく今言うことではないのだろう、この眺めを見て都原はそう思い首を横に振った。

 あと、

「どうしました?」

「やっぱり飴食べたっけ? まだイチゴっぽい味が口に残って…」

「そそそれは塩素の味だと言ったでしょう‼︎ 最近の塩素はフレーバーが効いてるって王都でも人気なななんデッス‼︎」

 赤面した沙耶が顔の前で大きく手を振って話をかき消そうとするが、

「それだとプールの水飲みたがる奴現れるんじゃね? 身体に悪いんじゃ…」

「さささ最近の塩素を舐めちゃいけないのデッススス‼︎ 塩素健康法ってやつが今王都で流行ってるのですよおおう‼︎」

「それならプールに入れなくてもコップでいいんじゃ…」

「にに人間の出汁と合わさるともっと身体にいんデッスヨヨヨよ‼︎」

「マジかよ…」

 すんなり信じた都原に安堵の息を吐くと、沙耶はつい…

「…ちょろくてよかった………」

「おい? 今なんか馬鹿にしなかった?」

「ガッ……してませぬ…」

 と、石像のように固まる沙耶。


 その時だった。


 二人の目の前、地下研究所の空洞を水の空に向かって大きな影が静かに上昇して行く。

 銀色の西洋の甲冑を着たような巨人だった。

「なんだあのVSA…見た事ないぞあんな型式の…」

「あれは…シルバリー‼︎ カウンターのVSAです‼︎ しかもあの色は…隊長機…白銀のロンズバットの機体です‼︎」


 



結構話が進んで書きやすくなって来ました。読者様達に楽しんでいただけるよう努力してはいますが、まだまだだと思っていますm(_ _)m

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