エピソード26 タッグ
「完璧に迷いましたね…」
「地図とかは無いのか?」
そう訊かれた沙耶はスカートのポケットに手を入れて、一枚のカード型端末を取り出す。
「あるにはあるのですが、先ほどプールに落ちた時にバッテリーをやってしまいまして、耐水性がないので映っても正常に表示されるか分かりません…」
タッチパネルになっている端末の画面は黒くなったまま指で触れても何の反応も無い。
「そうか…」
都原は何か現在地を知る手立てはないか黙って考え込む。
ドルチェやサイモン達が地下研究所の入り口の歯科医院に辿り着いたのとほぼ同刻である。全身を湿気を全く含まない風により乾かすエアシャワーで乾かした都原カイトと篤国沙耶は、迷路のように入り組んだ地下研究所の中をすでに1時間近く彷徨っていた。
白い壁に白い照明のせいか、目が少しシパシパと眩しさに眩む。
「なあ? 沙耶達は結局、地下研究所のどこに行く予定だったんだ?」
「それはもちろん、ウーディー・ロア博士の研究室ですよ」
「だよな…」
そこで都原は人差し指を立て沙耶に質問する。
「その研究室で行われていた研究の規模はどのくらいのものかわかるか?」
「復活の種の研究は私たち王都コロニーグラムライズのS.A.V.E.S本部に届いた情報によると、ここレゾナンスの地下…ジオですね、で行われた研究の中では史上最大規模と言われています。ウーディー・ロア博士を中心に各国の有能な科学者が参加していて様々な機材を運び込んで行われたそうです。その研究が形を成したのかそうでないのかは明らかになっていません」
そこで都原は一瞬目を輝かせた。
「なら、相当広い部屋の可能性が高いかもしれないよな? それとその端末見た事ない種類なんだけど、充電に使う端子の型は分かるか?」
何か閃いた様子の都原に沙耶は一度目をパチクリさせると、
「恐らく、今最もスタンダードな携帯端末の物と同じだと思います」
それを聞いて都原は自分のズボンのポケットを漁ると、少し角張った丈夫そうな端末を取り出す。
「これなんだけど、ソーディス支給の携帯端末で有事の時に電柱とかに繋いで有線の電話にもなるんだけどさ」
「はい、知っています」
「実は俺とかリッジスの端末ってケビンが弄って他の端末に繋ぐと電気を給電することも出来るんだよ」
そこで沙耶も気付いた。
「二つを繋げれば使えるかも…ですね?」
「正解‼︎ 正常に表示されなくても大まかな現在地と1番広い部屋への方向はわかるかもしれない」
「「まあ、でも…」」
二人は手にPWのデバイスを持ち各々のPWを呼ぶ。
「弁慶‼︎」
「龍鱗の剣‼︎」
彼らの前方の天井が開き、三体の機械人形が姿を現す。
道を塞ぐように二体が横に並び、後ろに一体が隊列を成し駆け寄ってくる。
都原と沙耶も並走し機械人形へ向かって行く。
前列の二体の頭部から、触れれば肉を焼き切る光線が放たれるが、それを都原は体勢を低くし、沙耶は軽々と跳躍し避け、後方の一体が追撃の光線を放つが、都原の龍鱗の剣の柄の鱗が八枚外れて宙を舞い二人の前に展開し光線を受け止めかき消す。
機械人形と二人は一瞬で間合いに入り、人形が突き出す鋭い手刀を二人は身を捩って掻い潜り、
「弁慶‼︎ 金槌‼︎」
「八刃一刀‼︎」
後列の一体に向けて沙耶の背中から現れた機械腕が持つハンマーが沙耶が空中で身を翻すことで勢いを増して振るわれ、前列の二体に対して都原が低く構えた体勢から起き上がるのと同時に切り上げた龍鱗の剣から放たれた八つの空間を切り裂く真空の刃が、同時に三体の機械人形を捉え粉砕した。
「警備ロボ…俺たちも侵入者ってことか…」
「鍵を持っていないとそう判断されますからね…それより…私、こんなに息の合う方初めてです!」
と、沙耶が手を差し出すと、
「いいタッグかもな!」
二人の手が強く打つかり聞き心地のいい音を立てた。
沙耶と都原のPWは相性が良いように考えました。今回はその相性の良さの片鱗が見れるように書いたつもりですm(_ _)m




