エピソード25 地下への入り口
篤国沙耶と都原カイトの生存を信じた6人は、サイモンの案内で地下研究所への入り口に向かって、夜で尚活気のあるレゾナンスの中心から少し離れた繁華街を歩いている。
「よーしよしよし!ケビンちゃんこっちおいで〜!怖くない!怖くないからっ!ホントおねえちゃん優しいからっ!ほらっ!おいで!おいでっ!恥ずかしがらずにおねえちゃんに甘えていいから!」
手に赤ん坊をあやす為のあのガラガラを持ったシェリーが残像を残す動きでケビンに熱烈なアプローチをする。
「ねぇ? 先生? シェリーさんがあんた並みのヤバさに見えるんだけど…? ケビンくん怯えてサイモンさんの背中にずっと隠れてフシャーッて威嚇してるわよ?」
ドルチェが目の前の光景に若干引きながらハリスに同意を求める。
「えっ!? 僕あんな気持ち悪い感じなの!?」
「キモイキモイ! 主に姐さんを見る目がセクハラ発言しながらなのに落ち着いた感じで、素がもうキモい人だって感じでキモい! まあ、オレならシェリーさんに赤ちゃん扱いをされたら興奮するけど」
そう語るリッジスの鼻息はちょっと荒い。
「リッジスくん、それには僕も同意だ」
「あんた達も大概ね。これでサイモンさんがドMとかだったら最強の変態集団じゃん」
小声で言うドルチェに耳のいいサイモンは背中にケビンを匿いながら、
「私は通常の性癖の持ち主だから安心してくれ」
「あ…ごめん、でも自分で通常の性癖って言う時点で…」
「何か問題が?」
「すみません…こわ…」
「何か?」
「なんでもないです…」
何処となく違和感を感じながらも自分の非を認めるドルチェにサイモンは誰にも聞こえない声で、
「もっと蔑んでもいいのだが…」
「なんて?」耳に手を当ててドルチェが尋ねるが、
「いや、気にするな」
「それにしてもさ? 地下研究所に行くって言ったってこんな人気の多い場所にそんな重要な施設の入り口なんてあるの?」リッジスはもっともな質問をする。
行われている大半の研究が地上では口外されることがほとんど無い地下研究所の入り口と聞けば、厳重な警備をされた重厚な扉をイメージするが…
「それは、思い込みを利用したフェイクなんです。こんな場所にあるわけがないからあるのですよ。当たり前のようにある扉に鍵がかかっていたら開けようとする興味があまり湧かないと思う心理というやつです。ケビンちゃん〜ばあ〜♡」
「シャーッ‼︎」
「ああもう‼︎ シェリーちゃん‼︎ 普段の君からはあまりにもかけ離れてて気色悪いからやめなさい‼︎」
シェリーに対しては割と普通かもしれないハリスにシェリーは…
「ちょっと黙っててもらえます? アブノーマル教師…」
「「ブハッ‼︎」」
急に飛び出した的確な表現にリッジスとドルチェが思わず吹き出す。
「言っとくけど、僕一応S.A.V.E.Sと共同戦線張る場合、君より上の立場なんだけど…」
「今は成り行きで目的地が同じなだけで非公式の共同戦線上では立場は意味を持たないので…ケビンちゃん歩くの疲れたでしょ? おねえちゃんが抱っこしてあげるからっ‼︎」
「フギャーッ‼︎」
もはや猫の霊に取り憑かれたようになっているコミュ症のケビン少年だった。
「着きました。ここが私が持っている鍵で開く地下研究所の入り口だ」
サイモンは繁華街の極普通の歯科医院のビルの前で踵を返して、全員に伝える。サイモンの口振りから察するに地下研究所の入り口は複数あるのだろう。その中の一つがこの歯科医院にあるという事のようだ。
「確かに歯医者にはあまり入りたくないですなぁ」
「思っていたより安直なカモフラージュね」
リッジスとドルチェが少しガッカリした表情で言う。
「今はその反応だが、エレベーターに入ったら驚くかもな」
そう言ってサイモンはサングラスを人差し指でクイッと位置を直す。
「…どういうこと?」
怪訝そうな表情で質問するリッジスにサイモンは、
「着いて来てくれ」
ビルに入ると、そこはどう見ても普通の歯科医院で患者も数名、緊張の面持ちで待合室の椅子に座り治療を待っている。
そこをサイモンに続き5人は患者達の前をツカツカと通り過ぎ、サイモンは窓口の机を指で4回リズミカルに叩き受付嬢に一言、
「麻酔の保管庫の在庫数を院長に聞きたいのだが?」
サイモンの言葉に受付嬢は笑顔で、
「先生は奥にいらっしゃいます。こちらの通路の突き当たりを右に曲がると院長室があるので、どうぞお進みください」
サイモンとハリスにシェリー以外はキョロキョロと辺りを観察しながら言われた通りに進み、院長室と名札が下げられた鍵穴とテンキーの付いた扉の前でサイモンは胸ポケットからディンプルキーを取り出し、鍵穴に差し込み回してから8桁の数字をテンキーで打ち込む。
すると、扉は横にスライドし開く。
扉の中はただの何もない個室になっている。
「みんな入ってくれ」
サイモンに導かれるまま全員個室に入る。
「ねえ? 何この部屋? 何も無いわよ?」
「この部屋がエレベーターだからな。私が壁のボタンを押したら少し歯を食いしばれ」
サイモンが壁にちょこんとあるオレンジ色のボタンに手を近づける。
「ふーん、ここはこういう方式の入り口か…」
ハリスが鼻歌混じりに咥えようとしたタバコを箱に仕舞う。
「「えっ?」」
ドルチェとリッジス、ケビンは一瞬目を見開く。
「ケビンちゃん捕まえた‼︎ 君は軽そうだから今だけはおねえちゃんに捕まってたほうがいいですわよ?」
「?」
隙を見せたケビンの首に後ろから手を回し、首が閉まらない程度にキュッと抱き着くシェリー。
「行くぞ」
サイモンが壁のボタンを押すと同時、部屋が急降下を始めた。
次回から地下研究所が舞台となりますm(_ _)m




