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エピソード23 残された者

 都原カイトと篤国沙耶がテッツの謎の力で作った底の見えない深い穴に落下し、肩を落として首を振る仲間たちの中で、ドルチェ・ド・レーチェスは絶望を露わにする。

 

「カイトが…っ‼︎ カイト…? カイトっ…⁉︎」  

 

 頬を両手で挟み涙を流す。


「嘘でしょ…? 嘘だ…っ? 嘘だーーーーーっ‼︎」

 

 ドルチェは穴に駆け寄り四つん這いになり、暗く開いたどこまで続いているかわからない深淵の何処かに都原カイトの姿を探すが、吸い込まれるかのような闇の巣は一切の情報を与えてくれない。

 そんなドルチェの肩に瞼を閉じ奥歯を噛み締めながらシェリーはそっと手を置いた。

「沙耶お嬢様が一緒に落下したのなら、望みは…あります」

「…どういう事?」

 ドルチェは泣き崩れた表情でシェリーを見る。

「沙耶お嬢様のPWです。弁慶という名前なのですが、20を越える機能が備わったPWで、沙耶お嬢様はその扱いがとても上手いのです。機能の中には飛行用の物もあります。私はその機能の全てを見たわけでは無いのですが、頭の回転の速いお嬢様なら或いは…」

「そんなのわからないじゃない‼︎ あの子少し顔色悪かったし、あんな突然のことに即座に対応できるかなんてッ‼︎ そうだ‼︎ あたしのPWならこの穴降りれるかも‼︎」

 冷静さを失ったドルチェは穴に飛び込もうとする。

 しかし、そこにサイモンがドルチェの前に割って入った。

「レゾナンスの地盤は自己修復機能がある。それは瞬時に高温に溶かした金属で損傷箇所をを塞ぐというものだ。今飛び込めば君も危険だ。それにこの穴が相当深く落下時間が10秒もあれば、恐らく沙耶様ならなんとかするだろう。確実とは言えないのが申し訳ないが…」

「姐さん、ここはこの人達がこう言っているんだから信じてみようよ」

 PWを解除したリッジスがドルチェの背中を軽く叩いて宥める。

 それにドルチェは涙を手の甲で拭いながら、

「・・・うん・・・・・・そうね・・・カイトだってしぶとい奴だし・・・簡単には死んだりしないわよね‼︎」



「まあ、僕は生きている方に全財産を賭けてもいいけどね」



 そこに口にタバコを咥えた白髪に白衣の青年がゆっくりとした歩調で暗い道から姿を現す。

「ハリス先生‼︎」

 リッジスが救われたような声で教師の名を呼ぶ。

「ハリス…ウォードン…」

 シェリーは呟くように男のフルネームを口にする。

「やあやあ、久しぶりだね‼︎ S.A.V.E.S兼篤国財閥のシェリーちゃんとサイモンくん‼︎ 僕のことは覚えているかな? あとアルバもレゾナンスに来てるよね?」

 ハリスは飄々とした口調で挨拶しながら、ツカツカと歩み寄りドルチェとリッジスの横に立つ。

「ハリス…この子達からあなたの名前が出た時は耳を疑いましたよ…」

「まさかまた会う時が来るとはな…」

 シェリーとサイモンが目つきを鋭くする。

「何言ってんのよ〜? 最後に君たちと別れた時、僕は、まったね〜? って言ったじゃない? ヌハハハハッ‼︎」

 なんの屈託もない笑い声をあげるハリス。

 それにシェリーは少し呆れたようにため息を吐きながら、

「あなたは相変わらずですね。おっしゃる通りアルバ騎士長も来ています。それより挨拶はこのくらいにして、なぜお嬢様と都原くんが生きていることに自信があるんです?」

「そうよ、先生それ教えて?」

 ハリスの自信ありげな顔を見たことによりドルチェの中の先程まで激しく渦巻いていた悲しみの感情は消えていた。

「ん〜〜・・・知りたい?」

「知りたいに決まっています」

 どこか楽しげに焦らすハリス。

「どうしよっかな〜〜〜〜?」

「ハリス、我々は今ふざけている場合では無いんだ」

 普段あまり感情を表に出さないサイモンが少し苛立ちを感じる口調で促すが、ハリスはニンマリと表情を崩しながら、

「じゃあね〜〜〜〜、ドルチェちゃんとシェリーちゃんのどっちか僕の嫁に…」

「「早く言え」」

 両サイドからドルチェとシェリーのゲンコツがハリスの脳天に振り下ろされ、教師の頭は一回地面に着きそうなくらい下がる。

「うんっ‼︎ とてもいいねっ‼︎」

 全くダメージの無い、寧ろ喜びすら感じ取れる表情のハリス。

「「早く言えよ」」

 PWを瞬時に装着したシェリーとドルチェが凄む。

「……………ハイ……」

 

「まっ、簡単に言うとこの穴の下は地下研究所の実験用のプールで深さも結構あるから溺れてなければ生きてるってわけ」

 ハリスは軽やかにそう告げると、口に咥えた新しいタバコに火を付ける。

「なるほど、その情報が確かなら無傷で生きている可能性は飛躍的に上がりますね…」

 シェリーが唇に人差し指の背を当てる。

「とりあえずカイトも沙耶も生きてるのね? でもあの侵入者と一緒に落ちて大丈夫かしら?」

 一先ず安心したことで平静を取り戻したドルチェが首を傾げる。

「僕の勘から言うと手負で拘束されているのであれば、侵入者-テッツだっけ? は体勢を立て直すために一旦逃げるだろうね。地下研究所はだだっ広いし、迷路みたいだからさ、いくら篤国のお嬢様がマップを記憶していても、いきなりそんな場所のど真ん中からスタートじゃ迷っちゃうんじゃない?」

「その状況なら沙耶お嬢様といえど迷うでしょうね」

「正規の入り口から入る予定だったからな」

 相槌を打つシェリーとサイモン。

「今日は地上では新型VSAのお披露目のパレードがあるからそっちに技術者は集中してるだろうから地下にはほとんど人がいないし、基本地下研究所には道案内用の工夫はされていないんだ。なら、道を知ってる僕が必要でしょ? 都原くんを迎えに行かなきゃならないし、これで君たちだけじゃなく僕らも地下研究所に行く理由ができたね。さあ、行こうか‼︎」

 と、饒舌に話すハリスがクルリと身を翻すと思い出したように、

「あともう一人同行者がいるんだけど、ケビンくん出ておいで…」

 ハリスの影からケビンがひょこっと現れる。

「あの…初めまして、ケビン・C・ロアと言います…」

 ケビンは基本人見知りで、都原やハリスのように長い時間を掛けて馴染んだ人間以外とはあまり話すのは得意ではない。

 オドオドと落ち着かない様子の少年にシェリーのシナプスに雷が落ちたような衝撃が走る。

「か…かか…か…っ…」

「「か?」」

 ハリス以外の人間がシェリーを凝視する。

「可愛いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいーーーーーーーーっ‼︎」

 ケビンを見つめたまま石化したように固まるシェリーを見てハリスは、

「人のこと変態とかよく言えるよねー」




なんかほんわかしてしまいましたが、これは真面目な話です(;´д`)

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