エピソード22 集う欠片 5
周辺には土煙が漂っていた。
光の弾丸と化したドルチェ・ド・レーチェスの渾身の一撃が放たれ、我が身もろとも突っ込んだドルチェとテッツ・コット・ミロットは崩れたコンクリート壁に埋まる。
そして、ガラガラと壁の破片をどかして現れたのは…
「ひゃー、すごいスピード出るのね、自分のPWなのに怖いわ…しかし、これって壁の修理代とかあたしに請求来ないわよね? 今はそれどころじゃない、あんたたち大丈夫⁉︎」
髪や身体に付着したコンクリートの粉塵を、猫のように身体を震わせて落とすドルチェ。
「「・・・」」
声をかけるも二人の若い女性はグッタリと地面に伏して意識がない様子。
「い・・・きてる・・・のよね? これ・・・」
「やったのかドルチェ?」
「待ってよ姐さーん‼︎」
少し遅れた都原とリッジスが追いつく。
「わかんない、手応えはあったから男は意識失うくらいにはぶっ殺したわよ?」
「ぶっ殺したのか…それにしてもこの子、俺と同じ日本人か…? おーい、起きろー」
都原は横たわる深緑にも見える長い黒髪をツインテールにした少女の頬を軽くペシペシと叩く。
「こっちの人もすっごい美人だ‼︎」
リッジスが黒いスーツの女性に都原を真似るように頬を叩く。
「ん…んん…あ…なたたち…?」
ツインテールの少女、篤国沙耶は焦点の定まらない視線を一度虚空に漂わせてから都原カイトの顔を見る。
「良かった、意識はあるみたいだな。安心してくれ、俺たちあんたたちを助けに来たんだ」
「助け…? 私は救援要請なんて出していないのですが…っ…シェリーッ‼︎」
沙耶は思い出したかのように急に身を起こした。
キョロキョロと周囲を見回し、リッジスの前に横たわるシェリー・マクセラスを発見すると駆け寄る。
「シェリー‼︎ 大丈夫ですか⁉︎」
その呼び声に応えるように、シェリーもゆっくりと瞼を開ける。
「お嬢様…私は大丈夫ですわ…」
「シェリー…良かった…、テッツはッ‼︎」
「あの男の事? 一撃ぶん殴って今あそこよ?」
まるで大砲で撃たれたかのように砕け散ったコンクリート壁の残骸をドルチェが指差す。
「ぶん殴ったって…あなたたち何者ですか?」
驚きの混じる顔で沙耶は3人を見る。
「あー、一応俺たちソーディスの学生でさ、あのわかる? VSA操縦士養成学校の…」
「それは知らないわけないでしょう‼︎ 私もレゾナンスではないですがソーディスにしばらく通ったことありますから、そうではなく、私はあなた達がなぜPWを手にして私たちを助けに来たか、を聞いているんです‼︎」
沙耶は興奮気味に都原の龍鱗の剣やドルチェのエレメントフィストを指し示す。
なんとなく答えて良いことと悪いことがわからないので困惑した表情をする都原。
『OKOK、都原くん事情は説明しちゃっていいよ』
耳に着けた小型通信機からハリス・ウォードンの声がする。
「全部ですか?」
『OKOK、その前にお眠してる敵さんの手足は拘束しよう』
と、いうわけで沙耶達に都原は自分達の説明をすることになった。
「て、感じに俺たちはあなた達の事は良く知らないのですが、PWをもらってあなたたちを助けに来たんです」
手足を結束バンドで縛られたテッツを横に都原は経緯を話している。
途中から沙耶の仲間のサイモンが加わり挨拶は済ませた。「なるほど、君達はまだソーディスを卒業していないのか…よくPWを使って無事だったな…」
顎に右手の親指を当てて頷きながら聴いていたサイモンがそう言うと、
「卒業しないで使うとまずいものなの?」
リッジスが首を傾げ質問する。
「知らないで具現化したんですか⁉︎」
若干口を歪ませ驚く沙耶。
「えっ? どういう事?」
困惑するリッジスを含めた3人に沙耶が説明を始める。
「まずいっていうか、ちゃんとナノマシンが身体と脳に馴染んでいない状態で具現化させると、脳や神経系に障害が出ることがあるんですよ。最悪、馬鹿か植物人間状態になります。だから卒業までの3年間で馴染むのを待つのが普通なんですよ」
沙耶が指を振って円を描きながら応えた。
「何にも聞いてないんですけど…」
「馬鹿か植物人間…」
「なんのチェックも無しにデバイス渡されたよな…」
まるでロシアンルーレットを生き抜いた直後のような、複雑な表情の3人。
「あなた達にデバイスを渡したのは誰なんです?」
沙耶が極当然な質問をする。
「ハリス・ウォードンっていうなんの教科担当してるかわからない教師…」
「ハリス・ウォードン‼︎」
回復して話を聞いていたシェリーが突然大声を上げた。
「ハリスって、あの白髪で白衣着てメガネの⁉︎」
「そういう人結構いません?」
都原はシェリーを眉を下げて見る。
「変態の‼︎」
「「あー、そいつです」」
3人は打ち合わせでもしたかのように同時に反応する。
「あの魔術師がレゾナンスで教師をしてたんですね」
シェリーが地面を見ながら呟く。
「行方をくらましてた艦長と同じくらいの英雄がこんなとこにいるとは思いませんもんね」
沙耶も顔には出してはいないが驚いてはいるようだった。
「魔術師?」
「あ、知らなくて良いです。結構機密事項なんで…」
両手を振って話を逸らすシェリー。
「「?」」
一般人…でもなくなった3人が子猫が初めて水道から流れる水を見たような顔をする。
それを咳払いをしてシェリーは話題を変える。
「兎に角‼︎ あなた達は復活の種って言葉を知っているってことですね?」
「そうなりますね、もう一人いるんだけど…」
「なんて方です?」
「ケビン…ケビン・C・ロアっていう14歳の俺たちのジョブの仲間です」
「「ケビン・C・ロア⁉︎」」
これには沙耶もシェリーもサイモンも声をあげて驚嘆を表す。
「それが本当なら驚きだな」
サイモンが瞬時に冷静になり言う。
「ウーディー・ロア博士のお孫さんのご学友なら、こうなるのも運命ってやつでしょうか? 出来ればそのケビンくんも我々に同行してくれると心強いのですが…」
沙耶が何処か気の毒そうに3人に視線を送るが…その時だった。
いくつもの風切音。
高速回転した電動ドリルの芯。
それは輪を作るように立って話をしている6人に向けて放たれたものだった。
それに瞬時に反応した都原カイトが龍鱗の剣を一度振った。
すると金属が金属を打つ音が六回し、ドリルの芯は撃ち落とされる。
「へえ、剣の斬撃を増やして好きな空間に発生させられるPWってことか…」
いつの間にか意識を取り戻したテッツが拘束は解けてはいないが横たわったまま攻撃してきたのだ。
「貴様、その状態でこの人数を相手にするのは愚行だと思うが…?」
サイモンが左右の腰のホルダーからナイフを抜き構える。
それにテッツは不敵な笑みを浮かべると、
「オレは勝てねえ勝負するバカじゃねえ…そうだよなぁ…最初からこうすりゃよかった…地下への鍵なんて最初からいらなかったんだよ…」
テッツの周りに表現のしようのない不吉な気配を感じる。
それに気押される6人だったが…
「「ちっ‼︎」」
その悪意の波動の中に飛び込もうとする都原カイトと篤国沙耶。
「アーカムとの接続…」
そうテッツが呟くと、テッツを中心とした周囲3メートルほどの地面が消失し、大きく開いたどこまで続くかわからない穴に、都原と沙耶を道連れにテッツも落下し姿が消えた。
あー‼︎暑ーいΨ(`皿´;)Ψ こまめに水分補給しながら書くブーメランをみなさま許してくださいm(_ _)m




