エピソード21 集う欠片 4
時は、篤国沙耶とシェリー・マクセラスが豹変したテッツ・コット・ミロットによるピンチに陥り、それを指は黄金色に輝き、肘から手の甲までを覆う白く楕円形の籠手と、背中に加速時に噴射すると光の翼が生えたかのように見えるスラスターに変化するPWを装備したドルチェ・ド・レーチェスが介入し、難を逃れた時点から少し遡る。
都原達の研究室で都原カイト、ドルチェ・ド・レーチェスとリッジス・クウ・エンハムの三人は彼らのジョブの監督の教師、ハリス・ウォードンから例の物を渡された。
「なあなあ? 先生? こんなちっこい玉子みたいなのがPWってやつなの?」
リッジスが真珠のように虹色に光るビー玉程度の重さの卵を不思議そうにあらゆる角度から観察する。
「詳しく説明してもよくわからないだろうから噛み砕いて説明すると、それは精神感応金属オリハルコン製のデバイス…まあ、ゲームでもあるじゃない? そのキャラクターにしか使えない武器ってやつ…君達の血中のナノマシンは日々君達の情報を収集していて、それを微弱な電波でそのデバイスに送り、今の君たちにピッタリな武器として形を成す」
ハリスは淡々と説明しながら、テーブルに灰皿を置き、椅子に座ると口に咥えたタバコにライターで火をつけた。
「まっ、今君たちが持ってるのは僕がソーディスからくすねた盗品だけどね」
そう言って余裕の表情で吸った煙を吐く。
「「えっ?」」
全員が固まる。
「…ソーディスの扱うものって結構機密とかそういうのにうるさいんじゃあ…?」
ドルチェが指先で卵を摘み冷や汗を滝のように流す。
「機密を漏らして禁固刑もらった人の噂も聞いたことあるぜ?」
都原は表情がカチコチに固まり手のひらに乗せた球体がゆらゆら揺れるくらいに手が震える。
「安心しなって、僕は割とソーディスでは上の方の人だからさ、発言力あるんだ」
「「ウソだあ〜?」」
三人はシンクロしたように否定する。
「その反応結構失礼なんだけど…」
「だって、あたしみたいな可愛い女子生徒にしょっちゅうセクハラしてくるメガネじゃん‼︎」
「ノートパソコンの中、モザイクばっかのエロ教師の筆頭じゃん‼︎」
「あの見境い無いロザンナ先生に振られるほどの結婚絶望的公務員なんじゃないんですか?」
「ねえ…? 君達、そういうこと他の教師に日頃から言ってないよね?」
目を細め口の端をヒクヒクさせながらハリスは訊く。
「「言ってない‼︎ 多分…」」
「なんで多分の言い方が自信無さげなの君たち? まあ、いいさ…何かあったら僕が責任取るからさ、って今はそれどころじゃないんだ。話をする前に君たちのPWを具現化しなきゃね」
それを聞いて、先程からオリハルコンの塊を3人と一緒に観察していたケビンが尋ねる。
「僕はソーディスとは直接の繋がりがないからナノマシンも注射してないのでこのデバイスも使えないですけど、これってどう使うんです?」
ケビンの質問にハリスは流し目をして二度眉毛を上下させると、
「ただ、頭を空っぽにしてそれを手に握って心に浮かぶ名前を唱えればいいのさ。思い浮かぶ名前が君たちのPWの名前ってわけ。さあ、やってごらん…」
促され3人は唾を飲み一度深呼吸してからデバイスを手に握りしめると、
「ディアスパイク…」
「エレメントフィスト…」
「龍鱗の剣…」
各々が心に湧き上がってくる言葉を拙い口調で囁く様に発する。
握った手の指の隙間から光が溢れ、次の瞬間には…
「なんだ…これ?」
リッジスの脚にはつま先が刃物のように尖った脹脛から踵部分までが分厚い、腰の部分に大型拳銃が刺さったまるでVSAの脚部を人間サイズにして取り付けたようなPWが具現化する。
「これがあたしのPW…なの?」
ドルチェの両腕には金色に輝く指に手の甲から肘までを包むような白い籠手、そして両肩と左胸を包みながら繋がった背中には後方に向けて広がったスラスターの様なPWが現れた。
「俺のは…刀…でも柄に龍の鱗みたいな模様が…」
都原自身の身長よりやや短い刀身の鋭い、柄の部分が握る手を守る小さな傘のように龍鱗が展開した日本刀が具現化する。
「これがPW…なんですね…」
ケビンがパチパチと拍手し目を輝かす。
「上手く出来たようだね…使い方はナノマシンが多分もう脳に伝えてるからレクチャーは省くよ? 一度具現化してしまえばあとはナノマシンが君たちの新たな可能性を感知するまではデバイスさえあれば一瞬で具現化と仕舞うことができるから、一旦戻そうか…頭の中でスリープと唱えてごらん?」
パシュンッという浮き輪から強く空気が抜けるような音と共に、都原たちの手の中にデバイスは再度卵の形をとる。
「本当だ…一瞬で元の格好に戻ったわ…」
ドルチェが自分の制服姿を壁の姿見に映して安堵したようにくるりと回る。
「本来ならソーディスを卒業するまではPWは所持してはいけないことになっている。何せ子供に銃火器を懐に忍ばせて学業に励め、なんて君たちのご両親に言ったら不道徳だとか倫理的におかしいってお叱りを受けるし、実際危なっかしくて学校側も与えるわけない。だが今は君たちの協力が必要なんだ…復活の種という言葉を知る君たちのね」
吸い終わったタバコを灰皿に押し付けて火を消すとハリスはテーブルに頬杖をつく。
「で? このPWで俺たちは何をしたらいいんです? 使い方はわかっていても俺たちはまだうまく使える自信がないですが?」
都原がもっともな意見を言う。
「な〜に、君たちならすぐに使いこなすさ。君たちのPWの使い方と特性は見た目で大体のところはすぐ理解できたからやる事の説明に入ろう。ケビンくんにも頼みたいことがある」
都原たち3人は夜の工業地帯を息が切れない程度の速度で、ハリスの支持した場所へと走っていた。
「ねえ? バラカイ? あの人マジで信じていいのかな〜?」
リッジスのこの反応も無理はない、世界の命運だとかなんだとか言われても、まだ都原自身も現実味がないのだから仕方ない。
でも、あのエロ教師は冗談と本当のことにはちゃんとした線引きができている人間だと知っている。
「あたしは信じるわ‼︎」
彼は冗談は冗談とはっきりわかる言い方をする。
それほどまでに普段の冗談は余りにも下らないのだ。
それにPWなんて理由もなしに子供に与えたら自分の首が飛ぶ物を責任を取ると言い自分たちの手に取らせた。
冗談だとしたら正常な精神状態ではない。
「俺たちにしか出来ないのなら…」
なによりハリス・ウォードンはあの伝説の学級、ネクストの元生徒である。
そして、その教鞭を振るったウーディー・ロアを救いたいと彼は言った。
「嘘でも狂言でもやってやらあ‼︎」
『良いかい? 僕がこのコロニーに張り巡らせたネットワークには数え切れないくらいの情報がある。そして、僕の予想も踏まえると、君たちが出会うべき人物を君たちの手で救う必要がある。僕にとっても必要な人物だ。この気を逃すと僕らはウーディー・ロア博士へと繋がる希望の糸を永遠に見失う。それは王都がカウンターに大きな遅れをとることになってしまう。それに伴って多くの生命が消えるだろう。まだ君たちは知らなければいけないことがたくさんある。けれど、それを今全て知るにはまだ早いんだ。だから、今回は僕が君たちの舵を取るよ。まず工業地帯へ向かおう。そうすればきっと音でわかる。部外者に被害が出ないように人気の無い工業地帯をあの子は選んだんだろうけど、相当ドンパチやってたら意味ないね。そのタイミングでPWは具現化だ』
入り組んでいるとはいえ迷うほどではない工業地帯を3人は音のする方へと駆ける。
「まるで預言者だな…本当にうるさいくらいの戦いの音がする…」
都原たちは同時にPWを具現化。
『音のする方に向かったら若い女性が二人、昨日レゾナンスに侵入した男に攻撃されているだろう』
向かう先に地面に膝をつき悶える黒いスーツの女性とツインテールの少女、そしてひとりの男の周りに音を立てる無数の棒状の金属が浮いている。
『都原くんとリッジスくんは龍鱗の剣とディアスパイクの腰に付いたガンナーで男の周囲に浮かぶ金属棒を薙ぎ払って。ドルチェちゃんは背中のスラスターで最高速度まで加速して、拳で男の腹を殴ったままコンクリートの壁に叩きつける』
「何が何だかわからないけど‼︎」
「やってやるもんね‼︎」
都原とリッジスが刀と拳銃を構えて放ち。
「うらあああああああああああーーーーーーーーーーーーっ‼︎」
最大出力で飛ぶドルチェの拳が男の腹部にめり込み、そのまま勢いを殺さずに男を壁に叩きつけた。
お待たせしました。バトルものって書くの難しいですね。もっと勉強して読んでいただいている皆様にもっとエキサイティングな体験をしていただけるように精進しますm(_ _)m




