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エピソード18 集う欠片 1

 レゾナンスの夕刻は、主に飲食店が活気を得る時間帯でもある。学園コロニーというだけあり、調理師学校なども内包するのであれば実習の場も必要になるというわけだ。これは他のジャンルの職場にも言えることで、習った知識を実際に使う場が設けられているのがレゾナンスの基本的な姿であると言えよう。イメージし易い簡単な例えで言うと、機械の知識であれば研究所から工場、家電量販店などで実践的に知識を身に焼き付ける事が出来る、という具合だ。

 実際はもっと複雑に様々な分野の知識を各学校で学んだ学生が手を取り合い、レゾナンスという一つの国を統治しているのであるが、もっと掘り下げるのはまだ先の話だ。


「さーて、彼方さんはもう気づいてらっしゃるようですが、サイモンにシェリー? 準備はいいですか?」

 背中に五角形の箱…野球のホームベースを黒いペンキで塗ったような物を磁石の様にくっつけた沙耶が双眼鏡を覗きながら、背後に立つ二人の護衛に問う。

「出来ていますわ」

「自分もです。お嬢様の如何様な作戦にも対応できるよう心得ているつもりです」

 答えながらシェリー・マクセラスは握ると硬度を増す砂鉄入りの手袋で包まれた両掌の関節を確かめるように数回曲げ伸ばしさせ、それに肩を並べるように立つサイモンは腰の左右に付けたホルダーに収まった2本のナイフの柄に両手を置く。

 彼らが立つのはレゾナンスの市街地から少し離れた裕に百階はあろう高層ビルの屋上だ。

「私が指揮する初任務に付き合っていただいてありがとうございます。テッツも絶賛こちらを探しているようですね〜、知覚系の能力者さんもコレには邪魔されているようです」

 と、沙耶はスカートのポケットから一枚の金属板を取り出した。ICカードサイズの銀色に輝く板である。

「なんでも地球共鳴の微弱な力場を打ち消してくれるものだそうですが、見事に知覚系能力のジャミングに成功できているようですし、実験段階というフェイズを越えている性能なので量産してもいいかも知れませんね。お父様に伝えておきましょう」

 沙耶は金属板の裏表を一度眺めるとポケットに戻す。

「知覚系能力で探られていたら我々は今頃テッツと交戦中ですからね」

「とはいえ今から奴と交戦して無力化しないといけないのだがな…」

「お二人はこの距離でも裸眼でテッツが見えるんですよね?」

 沙耶が双眼鏡を頭上に持っていくと、背中の五角形の箱から細い機械の腕が伸び双眼鏡を掴むと、スルスルと箱の中に双眼鏡を吸収するように戻っていく。

「はい、私とサイモンはカウンターとの戦闘用にそういう調整を受けて生まれた人間ですので…」

「秀でた身体能力の人間の遺伝子を掛け合わせて作られたのが我々です。噂では様々な生物の能力を掻き集めたような、個体が造られていると聞いたことがあります。何でも幼い女児の姿をしているとか…お嬢様、テッツがポイントに着きます。手筈通りに私とシェリーはBとCポイントに向かいます。お嬢様は奴の誘導、気を付けて…」

 サイモンが少し額にしわを作り沙耶を心配するが、当の沙耶はヒョイッと立ち上がり背伸びをすると、

「一般市民に被害が無いように夜は全く人気の無い工業地帯にポイントを設定しました。ですが、万一一般人を巻き込みそうになったらそちらの保護を優先してください、では行きますよ? ・・・・・・あと、下らないかも知れませんが一つ今言いたいことが…聞いてもらえますか?」

 沙耶はそこで少し俯く。

「「何でしょう?」」

 護衛の二人が静かに言うと、

「私、このコロニーのこと気に入ってしまいました。世界が平和なら私もこんな場所で学生として暮らしてみたいです」

 沙耶は寂しげな笑顔で二人に振り返りながら言うと、

「この戦いが終わったら私共も天龍様にお嬢様の希望を伝えてみますよ」

「天龍様も厳しい方ですが孫娘の沙耶お嬢様のささやかな願いくらい聞いてくれますよ、きっと…」

 シェリーとサイモンが微笑みながら応える。

 二人の返事に沙耶は一瞬弱気な顔をしたが一瞬で元の笑顔に戻ると、

「そう…そうですよね? さあ‼︎ 行きましょうか‼︎」

「ええ、行きましょう」

「お怪我の無いよう願います」

「では〜…っ‼︎」

 沙耶は屋上の端から少し距離を取り、助走をつけてから空中に身を投げ出した。


 100階を越えるビルの側面に沿うように落下しながら沙耶は、

「弁慶‼︎」

 彼女が叫ぶや、背中の五角形の箱から大きな蝙蝠のような羽が飛び出し、数秒滑空すると、羽を数回羽ばたかせ夜空に舞う。

 街の夜景が高速で視界を過ぎ去り、彼女はそれを美しいと思った。

「テッツ…私はあなたに勝てるか正直わかりません。ですが、あなたを止めなければこれから多くの犠牲が必ず出る。それだけは避けたいんです。せめて私と弁慶であなたを捕縛します」

 弁慶…彼女のPWパーソナルウェポンである。

 


「レスティーの知覚能力が探知したのはこの辺りのはずだ、が、場所的にあのお姫様、俺とガチにヤルつもりだな?」

 テッツ・コット・ミロットが辺りを見回すと、もう街灯の光くらいしか灯りのない、閑散とした工業地帯であった。

 金属部品や自動車のフレームなどが工場のガラスになっている窓から覗くことができるので、主に金属の加工をしている工場が軒を連ねる昼は活気のある工業地帯なのだろう。

「それにしても、だだっ広すぎだろう? こっちは設計者とかの学舎も兼ねてて…こっちは溶接や部品を作る金型の工場…宇宙政府中に送り出される学生ばかりだから、全員が学ぶためには一つの分野でもこんなに大掛かりな規模になるのか?」

 人気が全く無いのでキョロキョロしていても全く大丈夫、とはいってもこの男はそういうのは全くお構いなしでしてしまう男だった。

「それにしても、地下研究所の入り方ってのはめんどくさいというか、人権を無視してるんじゃねえか? 開けれるやつ探して連れて来てもあれじゃあ開くわけねえな。何せ鍵が脳内にインプラント式で正常な脈拍で安定した精神状態で、しかも本人に開ける気がなければ開けれない、精神操作系はカウンターには居るが、こんな場所に出張ってくるタイプのやつじゃねえからな…まあ、王都の人間のあのお姫様側にしてみれば開けれるやつに開けてもらうのは簡単か…でも、多分あれだろう? 王都の使いにだけ発行されるカードキー、王都の騎士団の使いは今レゾナンスにはアイツだけだ。つまりお姫様はそれを確実に持っている」

 呟きながら、片手に持った端末の示す場所に向かう、地図上なら次の交差点を曲がったところに篤国沙耶が待ち構えているはずだ。その前に…

「レスティー、本当にお前の知覚じゃお姫様はそこに居るんだな?」

 端末に話しかけると幼い少年の声で返事が返ってくる。

『間違いありません、癒しの巫女とその護衛二名の反応はすぐそこからゆっくり移動しながら放たれています』

「信じるぜ? ハズレだったらロンズバットにお前を生身で宇宙に放り出してもらうからな…まあいい…切るぞ…」

 通信を切り端末をコートの収納に仕舞うと、テッツは身を低くし、交差点の塀に身を寄せる。予想では背後を取れるはずだが、テッツは眉根を寄せる。

「……何かおかしい、この距離で人間らしい…というより生物の気配を感じない…」

 ゆっくりと塀から顔を出し相手の様子を見る。

 そこにはツインテールに白いシャツの上に黒いベストに同じく黒く短いタイトスカートの少女と、漆黒のスーツ姿の長髪の女性に屈強そうな黒人男性の姿。

 その姿を見て視覚的には理解できても、テッツの勘は怪しいと言っている。

「試すか…」

 胸ポケットに手を差し込んだままテッツは深い深呼吸をすると、一気に交差点に全身を晒し、胸ポケットから取り出した電動ドリルの芯を右手の指に摘み、篤国沙耶の背中に向ける。

 次の瞬間。

 拳銃の発砲音を更に高くしたような音とともに、ドリルの芯が射出され篤国沙耶の背中を直撃した。

 だが、

「手応えが…無い…?」

 鉄の兵士であるストローヘッドを一撃で破壊したテッツの攻撃が直撃したにも関わらず、目の前の篤国沙耶は微動だにしない…

「あー…これは…あれだ…」

 そう言ってテッツは目の前の三人から視線を外し…

「すんげーよく出来たホログラムってわけだな? なあ‼︎

お姫様‼︎」 

 遙か上空に眼を這わす。

 

 その天高くから風を切り飛来する一つの影。

「弁慶‼︎ ガンドファーを‼︎」

 羽を広げる少女の背から機械腕が伸び、少女の両手には拳銃と逆手に持ったようなナイフとトンファーが一体になった武器が握られる。


「いつから空なんて飛べるようになった‼︎ お姫様っ‼︎」

 宙を舞い向かってくる少女を楽しそうに見上げるテッツ。


 それを打ち倒さんと羽を背中に畳みながら舞い降りる少女。

「あなたは私が、私と弁慶がここで止めて見せます‼︎」


沙耶のパーソナルウェポンが登場です。この辺りは長いので、何回かに分けて書かせていただきます。この続きは車の点検で急がなくてもいいそうですが絶対直さないといけない箇所が見つかりまして、修理があるのでちょっと遅れるかも?

楽しみにしていただいてる方には申し訳ありませんm(_ _)mその分面白く書かせていただきますo(`ω´ )o

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