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エピソード17 こういう話

「さて、ここから先はちょくちょく息抜きを入れながら話そう。大事な話ほど真面目にやったら疲れるだろう?」

 丸いテーブルにコーヒーとクッキーを並べ、五人は再度席に着く。

「パーソナルウェポン…略してPW用の都原くんたちの血液に流れるナノマシンのように、地球の生存者…イリスウイルスに適応出来た者にも外部に作用する力がある…というところまで説明したね。しかし、師匠がなぜその様な発想に至ったかというのは疑問だよね?」

「ケビンくんならすんなり理解できるんだろうけど、通信機器の原理も良くわからないあたしたちにはさっぱりだわ…」

 と、ドルチェが皿に乗ったクッキーをヒョイっと手に取り、一口齧る。

「まあ、VSAの操縦専門の君たち三人も通信機器のことなんてソーディスでは使い方を習う程度だろうからね。イリスウイルスの外への作用については正直まだ謎が多い。でも、上手い例えをするとしたら…」

 ハリスは、両手で包むように持ったコップのコーヒーを軽く揺らし、それを見つめてから、こう切り出す。

「都原くん、ちょっと目を閉じてくれる?」

「はい? 目なんか閉じてどうするんですか?」

 都原は一瞬キョトンとしたがハリスの言う通り両目を閉じる。

「なにこれ?」

 リッジスがそう言うのをハリスは無言で片手を振って制すると、都原以外の全員に目配せし、口にチャックのジェスチャーをすると最後に音もなくスッと都原を指差す。

 ドルチェとリッジス、ケビンは若干眉根を寄せた困惑した表情でただ従う。

 全員の視線が都原に集まる。

「「・・・・・・・・・・・・」」

「?」

 急な無言の状況に都原も少し居心地の悪さを感じ、閉じた瞼に力が入る。

「「・・・・・・・・・・・・」」

「なんか…みんな俺のこと見てる?」

 そう言いながら都原は身を捩る。

「見てないよ、みんな、僕の端末に映った映像を見てる」

「「・・・・・・・・」」

 

 10秒後。

「・・・・いや、やっぱり見てるような?」

「・・・・はい、いいよ。みんなはそのまま動かずキープ、都原くんは目を開けて」

 ハリスの合図で都原は目をゆっくり開ける。

 すると、生徒一同に見つめられている事に椅子の背もたれに軽く背中がぶつかる程度に驚く。

「やっぱ、みんな見てんじゃん‼︎」

 そこでハリスは軽く口の端を上げると、

「なぜ、君は目を閉じている時にそれに気付いた?」

「いや、なんかくすぐったいというか、むず痒いというか…こんなの表現できます?」

 その表現にハリスはフフンッと鼻を鳴らし笑うと一度頷き。

「つまりはそう言う事なんだ。表現できない、良くわからない、なのに、わかる、感じる。色々説明すると難しくて長くなるから、今実際に都原くんに体験してもらったわけさ」

「あーあーあー、こういう事なの? 漫画でよくある、お前の気を感じたぞ‼︎ みたいな?」

 リッジスが興奮気味に身を乗り出し、ハリスの額に頭突きしそうなくらい顔を近づける。

 それにハリスは動じもせず、

「わかりやすく言うとそういう感じ。リッジスくんはこういう表現の説明が一番理解しやすいようだね」

「漫画にアニメ大好きっスから‼︎」

 リッジスが思いの丈を伝え着席するのを待つと、ハリスは指を一本立てて、

「ところで、都原くん? プライベートだとドルチェちゃんはどんな服装なの?」

「最近だと、黄色いタンクトップにミリタリー調の迷彩のズボンです」

「うん、ありがとう。そうだね、イリスウイルスがもたらすであろう力の伝播はざっくりさっきの説明で覚えておいてくれるかな?」

「・・・・・・」

 一瞬、怪訝そうに目を細めたドルチェを他所にハリスの説明は続く。

「では、その力を受ける者っというのが、さっきケビンくんが言ってた地球共鳴者と呼ばれる人達。簡単に言うと超能力のようなものが使える人って言えばわかりやすいね。その能力はまるでPWパーソナルウェポンのように、使用者の資質によって様々で、例えば何も無いところに火を出せるとか、人の傷を癒すことが出来る、というまるでコミックに出てくるような能力が挙げられる。ところで、ケビンくん? ドルチェちゃんって、ドラッグストアとかで何をよく買ってるの?」

 は? と、ケビンは目を丸くして息を吐くと、

「いえ、そんなことは僕は知らないけど…紙パックの美容に良さそうなジュースを飲みながら歩いてるところはよく見ますね」

「うん、ありがとう。その地球共鳴者と呼ばれる人間は世界にそう多くはいないんだ。その生態についても多くのことは詳しくはわかっていない」

「・・・・・・・・」

「このレゾナンスの運営に最も発言力のある財閥ってドルチェちゃんは分かるかな?」

「・・・・・・そりゃ、筆頭を挙げるなら篤国財閥だけど」

「正解、よくわかったね、偉いよ。ドルチェちゃんは頑張り屋さんだね」

「・・・・・・・・・・」

「篤国財閥は王都でも有数の権力を持っている。ウーディー師匠の研究に一番出資していたのも篤国財閥で、地球共鳴について師匠に情報を提供していたんだけど、ここだけの話、地球共鳴者ってカウンターの人間に多く発現しているらしいんだ。分かるよね? カウンターって我々王都の人間には危険視されているから、銀河系の外に独自の生活圏を作っている輩だ」

「先生、それって不味くないですか?」

 そこで都原が手を上げた。

 ハリスはそれを手のひらを上に向けて促す。

 不安と疑念の混じった表情で都原は話し出す。

「つまり、王都と敵対している勢力に地球共鳴者が多いとなると、もし戦争に発展したらカウンターは絶対その力を使ってくると思うんですが? VSAの基本的なシステムはあちらのリンクドールの技術を模倣したもので、生活圏を別にしているのでカウンターが今どのような技術力を持っているかも不明ですから、例えば向こうが戦争用に特化した兵器を作っていた場合、VSAによる試合で平和的に国との諍いを解決している王都は試合仕様のVSAですし、生身の人間同士の戦闘だけを軍事力という視点で見ると劣勢の可能性も…」

 都原はそこまで話して黙った。

「もし戦争に…と言ったね? それは最早、もし、の表現は要らないんだ」

「「‼︎」」

 その場の全員が目を見開いた。

「それってつまり…?」

「戦争の導火線にはすでに着火された状態にある。その火種が復活の種なんだ。カウンターに最も必要なものをこちら側の人間である師匠が作ってしまった」

「復活の種が何故必要なんですか⁉︎」

 都原がテーブルを強く拳で叩き声を荒げる。

「カウンターにはどうしても地球に戻らなければいけない理由があるらしいんだ。それを王都に知る者は多分いない。世界情勢に異常なほどのアンテナを張っている篤国財閥内部の人間なら凡その目的を予想出来る者はいるかもしれないけどね。そして、恐らく昨日レゾナンスに侵入した人物がカウンターが差し向けた復活の種を狙った地球共鳴者だろう」

「そんなのなんでわかるの…?」

 ドルチェが少し震えた声で問う。

「映像を見た限り特別な装備を持っていないからさ。レゾナンスに不正な侵入をするにはハッキング技術だけじゃなく、少なくとも外見で手ぶらに見える装備では不可能なんだ。だとしたら、何か特別な力を持っている可能性が高い。目的地は地下研究所だろう。これは阻止しなければならない。戦争の導火線の火の速度を遅らせるために、そうなると…」

「最低でもPWパーソナルウェポンが必要ですね…」

 そこで黙っていたケビンが半ば強引に割り込んで来た。

「先生は言いましたよね? 僕たちはもう巻き込まれていると、そしてこの話をした。それは僕たちに何か出来ることがあると思ったからですよね? 今僕たちに出来そうなことはあの侵入者を見つけ出して、地下研究所への侵入を阻止すること、違いますか?」

 ケビンの言葉に、今までどこか壁を一枚挟んだかのようなハリスの話し方が変わった。

「ああ、その通りだ。君たちがソーディス創設以来の至宝と言われているから、僕は話したんだ。きっとアイツもここに来ている…僕の親友に君たちを会わせたいんだ‼︎」


 

 ケビンとハリスの鼓舞するような言葉たちに都原とドルチェにリッジスも…

「やるしかなさそうね…」

「どうせ巻き込まれたのなら、積極的に動いた方が危険じゃないかもなぁ」

「普段臆病なケビンくんがやる気になってるなら、年上のあたしたちが逃げるのもかっこ悪いしね‼︎」

「色々事態が完全には頭に入ってこないが…レゾナンスがとんでもないことになる方が嫌だしな」

「漫画みたいだ…俺たちが憧れの漫画のヒーローみたいだ…最高…‼︎」

 各々が決意の言葉を口にしながら席を立つ。 


「動き出す前に渡したいものがあるんだ。と、その前に質問がある。リッジスくん? ドルチェちゃんのスリーサイズは?」

「上から89、58、86」

「うん、ありがとう。16歳でそのスタイルは違法で犯ざ…」

「オラーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ‼︎」

 ドルチェのラリアットがハリスとリッジスの喉仏に正確にヒットし、二人は床に無言で転がった。







一週間書きたいことを頭の中で反芻うしながら書いたら、急展開になってしまいましたm(_ _)m

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