エピソード12 純粋な疑問
VSA操縦士養成学校ソーディスの四時限目。
「つまりxを求めるにはこのyは邪魔であるから、yをxを使って表す式を作り、もう片方の式のyとして代入するとxが求められるわけだ」
無精髭に肩まである黒髪に丸メガネの中年数学教師、橋渡航がレーザーポインターでホワイトボードの数式を、何度も指し示しながら早口で熱弁する。
午前最後の授業なので生徒一同の中には、集中力が切れて辛そうだが復習のためにノートだけはしっかり取ろうとしている者や、すでに思考を停止させ目を開けたまま、ただ授業を聞き流している者もチラホラいたりする。
その中では都原カイトとその他二名は精神力は強い方なのかもしれない。
「なあなあ? 橋渡先生の授業ってわかりやすい時とそうじゃない時が激しくねえ?」
都原が隣のドルチェに口元を隠し小声で話しかける。
「わかりやすい時があるだけカイトはマシよ。あたしINOの製作者の仲間なのに数学嫌いだもん」
都原の仕草を鏡に映したように返すドルチェに都原は続ける。
「俺たちの中じゃあ、意外にもこいつが一番数学の適性あるんだよなぁ…」
そう言って、都原は目の前の少年を指差す。
指の先には真摯な眼差しで橋渡教諭を見つめせっせとノートに書き込んでいるリッジスがいた。
「私はxが好きなんだ…値の決まっていない自由な存在、皆んなは素晴らしいと思わないか?」
静まりかえる教室だったが、教師の目がきらりと光る。
「リッジスくん‼︎ いつもとてもよく話を聞いているようだが、君はxをどう思う⁉︎」
ビシッとリッジスを指差しながら、教師は片手で教壇を部屋に響くほどの音を立て叩く。
突然の質問にリッジスは臆せずにへへッと笑うと、
「…深い…ですな…」
「ほう…主張があるようだな、聞かせてくれ」
指先で眼鏡の位置を直しながら教師が促すと、
「似ている…と思いませんか…?」
「ふむ…何にだ?」
「バンザイをしている人間に…ですよ。しかもフルチンの…」
聞く姿勢を微塵も崩さずに橋渡は頷いて続きを聞く。
「オレはコイツにパンツを履かせたい…そう…Δ(デルタ)をね…」
「ねえ、こいつなに言ってんの?
半目になりながら都原に訊いてくるドルチェに、
「まあ、続きを聞こうぜ…」
ニヒルな笑みを浮かべ都原は応える。
「Δといったらマ○ロスΔですよ…そう…あのプ○キュアみたいのですよ…」
そこで一旦神妙に黙り込んでからリッジスは、
「ところでxって谷間に似てま」
「つまり君はこう言いたいのだな? xはもはや芸術の域に達するものを感じるとそうだな先生もそう思うぞ私はxを見ながら食事を摂ることが多いのだがコレがかなり食えるのだもう納豆とか目玉焼きとか要らんのだ漬物も要らん中学生ぐらいの頃からずっとこうだもうxの虜なのだ大学に入った頃から私はxにビーチで日焼けをしようとする美女の背中に腹話術の人形を叩きつけたくなる様な衝動を感じそれを我慢して二十年が経つそもそもがウーディー・ロア博士に出会った頃から加速がかかってなその頃からxを見ながらプ○キュアとア○カツも見るのが好きであれはもはやxなのだそういう黄金比を私はxに感じざるを得んのだ誰もわかってくれなくて塞ぎ込んだ時もあっただが今友を得たリッジスくん君と私はもう生徒と教師ではなく友達だところで君はxに無限の可能性を感じるだろう私もだ何処か♾️の真ん中あたりに似てるからなそういう妄想に耽るのが君も楽しいのだろう?」
一度も呼吸する事なく語った橋渡先生にリッジスは、
「…………………うん…」
「そうかそうかわかるか‼︎ そうそうxと言えばな? 私の祖母の脚がまさにxな…」
橋渡航とリッジス・クウ・エンハムの謎の雰囲気にポカーンとする教室の中、都原とドルチェは、
「まさかマク○スじゃなくプ○キュアの方に反応するとはな…ドルチェごめん、やっぱ何言ってっかわかんね…」
「いいわよあたしもわかんないから…途中でウーディー・ロア…ケビンくんのお爺さんの名前出て来たけど…本当何してた人なの?」
「あとでケビンに聞いてみようぜ」
頷き合う二人の向こうでは嬉々とした表情の教師の話が延々と続いた。
ストーリーが進むの遅くてごめんなさいm(_ _)m
読んでいただいている方達にはもうちょっと僕の遊びに付き合って付き合って欲しいのですよ(・_・;
本当に本当に本当にご愛読ありがとうございます‼︎




