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エピソード10 忙しい一日の始まり

 昨日が今日になり六時間が過ぎた。

 

 レゾナンスのソーラーパネルの花びらは開き、八坪のワンルームになっている学生寮の一室にも朝日が差し込み、都原カイトの一日も始まった。

「よく寝たなぁ・・・」

 ベッドに小さなタンス、机、三段になっている本棚の上にはVSAの模型が三つ飾られているだけの整頓されたシンプルな部屋だ。

 欠伸をしながらベッドから降りた都原は、キッチンに行き冷蔵庫を開ける。

「野菜ジュースにサラダチキン・・・あとはトーストでいいか・・・」

 都原は自炊もするが、朝は出来るだけ簡単に済むように野菜ジュースとタンパク源のサラダチキンや、急ぎの用事の時用にゼリーなどを週に一度7日分をまとめて買い置きしている。

 朝食をプレートに乗せて、テーブルに持って行き、食事を済ますと、制服に着替えて、洗面所で歯を磨き顔を洗う。

 鞄に今日必要なものを詰め込み準備が済むと、靴を履き玄関を出る。

「さて、今日も今日とて行きますか…」

 

「カイトおはよっ‼︎」

 女子寮と男子寮の分かれ道で、一足早くドルチェが都原を待っていた。

 分かれ道の中心は男子寮と女子寮を隔てるように公園になっている。

 その脇には街路樹があり、ドルチェはそれに寄りかかって都原を待っていることが多い。

「ああ、おはよう。相変わらず早いな」

「あたし、時間にルーズな嫁・・・ゲフン・・・女性はどうかと思うのよね〜」

 そう言って、都原に向かって突き出すようにリボンタイが乗っかった胸を張る。

「それは良い心がけで・・・リッジスはまだなのか?」

「アイツがあたし達より早く来てたことある?」

「ないな・・・」

「どうせ、あの後夜更かししてゲームでもやってたんじゃない? 時間にルーズな男もあたし嫌だわ〜」

 と、肩の辺りまで手のひらを上げて顔を横に振るドルチェ。

「ルーズなのは姐さんのパンツの縞模様もどうかと思うんだよね〜」

「なっ⁉︎」

 いつの間にかドルチェの後ろにしゃがんで、ただでさえ短い制服のスカートを軽く捲りながらニヤニヤするリッジス。

「オラーーーーーッ‼︎」

 その横っ面に瞬時に蹴りを放つドルチェ。

 ゴキンッ‼︎ と首が90°曲がるも赤べこのように首が戻りモノともしない顔でリッジスは、

「二人ともおはようでござい」

「ああ、遅いぞリッジス」

「〜…っ」

 ドルチェがワナワナと手を蠢かせているが、いつものことなので都原は無視して、二人の先頭に立ち歩き始める。

「早く行こうぜ」

「待ってよカイト‼︎」

「行きましょ行きましょ」

 三人は緩い傾斜が続くジグザグした坂道の先、丘の上のソーディスの校舎へ歩き出した。

 

「そういえばさ、ニュース見た?」

 ドルチェが毎朝通学中にルーティンワークのように飲んでいるリンゴジュース片手に話題を切り出す。

「オレはいつもモリキュアのフィギュアをローアングルで見るので忙しくて見てないよ〜?」

「あんた毎朝そんなことしてるの…? カイトは?」

「このコロニー平和過ぎて、朝見たり見なかったりで、今日は見てない日だ。なにか事件でもあったのか?」

 そう言って都原は横目でドルチェを見る。

「うん、生徒会タワーの近くの川沿いの道で、港に来てた船の船員が二人、亡くなったらしいのよね」

 ドルチェは丘の中腹から見える繁華街の向こうに見える川を指差した。

「えっ? なにそれどういう事?」

 リッジスがギョッとした顔でドルチェに訊く。

「ハッキリしたことはわからないんだけど・・・大口径の銃で首を狙撃されたみたい」

「大口径の銃なら音もデカイんじゃないか? しかも狙撃なら銃自体も大きいと思うんだけど・・・」

 都原は腕を広げて銃の大きさを考える。

 ドルチェは目を斜め上に向けて一口リンゴジュースをストローで吸うと、

「まあ、普通はそんな大きなもの専用のケースに入れて持ち歩くだけで、警備の人に質問されたりするわよね」

「組み立てるタイプのやつなのかな?」

 リッジスが二つに分かれた釣り竿を接続させるようなジェスチャーをする。

「それがねー、怪しい荷物持った人とか、大口径の銃の音なんて見た人も聞いた人もいないし、カメラにも何も残ってなかったらしいのよね、ただ・・・」

「ただ?」

 揃って首を傾げる男子二人にドルチェは一言、

「昨日このコロニーに不正侵入した奴がいたでしょ?」

「あのイケメン風な奴か?」

「そうそう、昨日あたし達が繁華街の巨大ディスプレイで見た奴ね、見た目的に関係ありそうな気がするんだけど…」

「アイツ荷物っぽいもの持ってなかったと思うが…」

 都原が虚空を見て昨日の映像を思い出す。

「そうなのよね…なにか勘が騒ぐ気がするんだけど、この治安第一で犯罪に潔癖症とも言えるこのコロニー内で入手するのなんて不可能に近いわ」

 ドルチェが飲み終わったリンゴジュースの紙パックを握り潰すと、

「まあ、事件とあの侵入者に関連なんて無いかもしれないわ、忘れて‼︎」

 そう言って右掌をヒラヒラと振る。

 気付けば坂道は終わり、三人の前には西洋の宮殿の門を想起させるソーディスの校舎への入り口の門が佇んでいる。

「とうちゃーく‼︎」

 と、リッジスが豪奢な造りのソーディスの門を一番にジャンプして通過する。

「バラカイ、姐さん、今日もお勉強頑張りましょーう‼︎」

 間延びした言い方のリッジスに都原とドルチェは、

「お前が一番やらなそう」

「あんたが一番やらなそう」


 

「・・・という訳で、ここの問いはこの人物の思いがけない出来事に受けた感情を表現する言葉を文中から探すと青天の霹靂が正解だ」

 国語の授業も担当しているロザンナ・ホーキンスは今日も教鞭を振るっていた。

「ここでお前らが青天の霹靂の意味を理解しているか、短い文章で実際に使って確かめたい、出来たものから手を挙げて発表してもらおうか・・・」

 皆がめんどくさそうな抗議の声を上げる中、

「はい‼︎」

 ドルチェが挙手して立ち上がる。

「おお、早いなレーチェス、発表してみろ」

「少し長いかもですが良いですか?」

「構わん、今日のお前は一味違いそうだ」

「では」

 そこで一回ドルチェはコホンと喉の調子を確かめると、


「私は周りの家族や友人に束縛されて生きてきた。誰にでも好印象を持ってもらいたくて、優等生を演じてきた。でもそれを疑問に思ったことはなかった。恋人なんて大人になったら出来れば良いし、それが私の運命なのだと、受け入れてしまっていた。でも、ある日。自分で言うのもなんだけど美少女の私は街で不良に絡まれてしまった。ゲヘヘヘッ‼︎ お嬢ちゃんかわいいなぁ、ちょっと俺たちとお茶しようぜ? 何をされるのか怖くて怯える私。その時だった。おーい‼︎ こんなところにいたのかよ‼︎ 一人でどっか行っちまうから心配したぜ、悪いな、あんた達、こいつ俺の連れなんだわ‼︎ 今にも泣いてしまいそうな私の前に彼が現れ、私の手を引いて不良達から救ってくれた。君が困ってたからさー、ほっとけなくてつい助けちまった。じゃなー‼︎ そう言って立ち去る彼に私の胸はときめいた。恋を大人になってからなんて我慢できない。寒い雨の休日の退屈な私の部屋。曇った窓ガラスに私はそっと指で、今の気持ちを 書き記す。せ・い・て・ん・の・へ・き・・・」


「アーーーーーーーーーーッ‼︎ やめろーーーーーーーーーーーっ‼︎」

 奇声をあげて遮るロザンナにドルチェは、

「良いとこだったのに・・・」

 キョトンとした表情のドルチェに、

「お前の頭の中はお花畑かっ⁉︎ 甘々のスイーツかっ⁉︎」

 教壇に教鞭をバシバシと打ち付けながら、顔芸の様に目を開いて叫ぶロザンナ。

「良いとこだったのに・・・」

「なんで二度言うんだよ‼︎ 次ーーーーッ‼︎ 誰か‼︎」

 そこで手を挙げたのが、

「はい」

「おおっ、都原か・・・まともなの頼む・・・」

 と、深くため息を吐いてロザンナ。

 立ち上がった都原に教室の視線が集まる。

「俺のもちょっと長いですよ?」

「お前はコイツよりまともな方だから任せる」

 都原は頷き。


「さー今日は宙皇杯‼︎ 競走馬はゲートに入りー、スタート‼︎ おーっと‼︎ まず先頭に立ったのはマチカドラゾク‼︎ 今年一番の注目株ですよ、田淵さん‼︎ そうですねーしかも騎手は期待の新星、坂本ですよ‼︎ コレはこのままトップを維持してゴールかー⁉︎ いや‼︎ マチカドラゾクの後ろから来ているぞー‼︎ ゴールまで200メートル‼︎ 来るか‼︎来るか⁉︎ 来たー‼︎サラブレットのセイテンノヘキレキだーーーーーーーーー‼︎」

 

「おーーーーーーーーーっい‼︎ お前までどうした⁉︎」

「良いとこだったのに・・・」

 しょんぼりする都原カイト。

「良いとこなのはレーチェスのよりはわかるが、お前がこういうジジ臭い趣味の変な感じの文作るとは思わなかったぞ‼︎ 

次ーーーーッ‼︎」

「はい‼︎」

 目を輝かせてリッジスが自信あり気に手を挙げ起立する。

 それを疑いの目でロザンナは見ながら、

「・・・・・・期待してないけど、やってみろ」

 リッジスは咳払いすると、


「世界は荒廃していた。荒れ狂うアウトロー達の席巻する街で、オレとロドリゲスは戦うことを決意した。だって、オレ達は最強のコンビだからだ。何があったって負けないさ。次々と強敵を倒していくオレ達だが、流石にアウトローの親玉、伊集院鳳凰には苦戦した。でも俺たちには切り札がある。それを今使う時だ‼︎ 行くぜ‼︎ ロドリゲス‼︎ あいよ‼︎ リッジス‼︎ 喰らえ‼︎必殺のー‼︎ 青天の霹靂ーーーーーーっ‼︎」


「まあ・・・・・・お前はこんな感じだと思ってたから驚かんぞ?」

「不発かよ・・・」

 口を尖らせ不満そうに拗ねるリッジス。

「・・・お前ら…皆勤賞だけど、こんなだと単位やらんぞ?

マジで。お前ら知ってるか? ソーディスもVSA操縦士養成学校だが、カテゴリーだと専門高等学校に入るんだからな?」

 げっそりした顔でロザンナは続ける。

「卒業してもVSAの操縦に不適合と判断されたら、普通科高校卒の扱いになるんだぞ? 普通科卒扱いだが、実際のとこ大学進学前提の他の高校の普通科の奴より不利だからな? ちゃんと真面目にやらんと大変だからな? 良い相手と結婚して幸せな人生送りたいならこれからは真面目にやるんだぞ?」

 最後は優しい顔で語るロザンナにクラス中がほっこりする中、ドルチェとリッジスが都原にコソコソと何かを耳打ちすると、


「そんなだからいつも振られるんですよ?」

「お前ら、死刑」  

 






大喜利みたいなのを書いてしまったヾ(・ω・`;)ノ

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― 新着の感想 ―
[一言] ロザンナさん…真面目なところ一瞬見せたと思ったら煽られてて大変だなぁwと思いつつ雰囲気が変わりそうな所で文章途中でも改行してもあまり違和感なく読めて「なるほど…こういう時に改行使うやり方もあ…
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