エピソード9 巫女
テッツがバーでロザンナに絡まれている頃と同刻。
夜のレゾナンスの繁華街の生徒会タワーの麓に近い、少しお高めの商店が並ぶ地帯である。
「サイモン‼︎ シェリー‼︎ 私、同い年くらいの方達がこんなに大勢いるコロニー初めてです‼︎」
大きな買い物袋を両手に持って楽しそうに笑う少女…篤国沙耶はそう言って後ろを歩くふたりを振り返る。
深緑にも見える髪を龍の刺繍の入ったリボンで二つに縛り、白いTシャツの上に黒いベスト、下は短いタイトスカートを履いた少女である。
「レゾナンス、私すごく気に入りました‼︎」
「お嬢様、そんなにはしゃぐと転びますよ?」
静かに注意する黒人の男性。サイモン・スペンサーは屈強な身体を持つ黒人の青年である。漆黒のスーツを纏い、パーマのかかった黒髪を後ろで束ね、サングラスをかけている。
「もう、私、そんなドジではありません。私だってもう17歳、子供じゃないです」
そう言って頬を膨らます沙耶に、
「私達はお嬢様が初等部にいる時からお世話しているので、我が子のように思っていますから・・・」
クスクス笑いながらサイモンと同じく黒いスーツに、腰まである黒髪の右目の横の部分だけリボンで縛った、柔らかい目をした二十代後半の壮麗そうな白人女性、シェリー・マクセラスが3歩後ろを歩く。
「まあ、お母様やお父様には私あまり会ったことありませんから、おふたりが親みたいなものです」
沙耶は立ち止まると笑顔でくるっと回る。
「あなた達がいるから私は私になったんです」
その言葉にシェリーは口元を押さえ、
「サイモン・・・お嬢様が可愛過ぎる・・・」
目を潤ませる。
「本当に・・・」
サイモンも目頭を押さえる。
そんな二人をキョトンと首を傾けて沙耶は、
「何か私、宇宙が涙した、みたいなこと言いました?」
ただただ疑問を口にする。
「無自覚系かよ、畜生・・・」
「サイモン、言葉に品性がないわよ」
悶える護衛二人に、
「突然泣き出すなんて変な人たちですねー。帰ったら船医に診てもらいましょう」
割とキツイことを言う。
「あなた達は優しいですが、聖矢さんの護衛は怖そうな人たちですから、あの子うまくやれてればいいけど・・・」
「聖矢様に着いてる二人はシュバルツ様の訓練を耐えたものなので心配無いかと・・・」
サングラスをかけ直しながらサイモン。
三人は気付けば人気の無い、木が並び立つ公園になっている小さな川沿いの道を歩いていた。夜だというのに川の水は底が見えるほど綺麗な様子。
「あなたたちだってあのアルバさんの一番の門下でしょう? だから、今この場にもいるんですよね?」
川の柵に手をつきながら沙耶。
「アルバ隊・・・元隊長は私たちを信頼はして下さってます。ですが、あの方の後を継げるものなんて今後何十年も現れないでしょう」
シェリーが少し落ち込んだように視線を落として言う。
「ヴェガほどの規格外のVSAを扱えるのはアルバ元隊長だけですよ。生身の実力もアルバ元隊長は同じ人間とは思えません。私は訓練でも勝てたことがない」
サイモンが周りの安全を確認するように、最小限の動きで注意しながら言う。
「紅獅子のアルバさんに殲滅剣のヴェガ・・・ですか・・・王都最強の戦士・・・。私のキャミーは今王都で最終調整中ですよね?」
沙耶は川の向こうに見えるショッピングモールの広場を眺める。
「はい、お嬢様の注文通りのカスタムを施してる最中です」
そう言って腕時計を見ると、シェリーは、
「あと10分ほどで帰路に着かなければいけませんね」
「久々に楽しい休日でしたー。気心知れた護衛だとのんびり出来ますね。ありがとうございます」
そう言って沙耶は深々とサイモンとシェリーに頭を下げる。
「いえいえ、沙耶お嬢様の護衛は最早日常、共に休日を過ごしているようなものです」
サイモンが口だけ笑みを浮かべ応える。
それに沙耶は笑顔で返し、
「さて、今日は地下研究所の入り口も確認できましたし、帰りましょうか・・・あまり遅くなるとジャンさんとサムさんが呼びに来ますよ・・・ってもう来ましたね・・・」
「おーーーーーーい‼︎ お嬢様ーーーーーー‼︎」
船員の薄水色の作業服を着た二人の青年が、川沿いの道の向こうから手を振ってこっちに駆け足で来ようとした・・・その時だった。
ヒュンッという風を切る音が聞こえたのと同時、二人の船員の首に穴が開き、血が吹き上がり膝から倒れ込む。
「ジャンさん⁉︎ サムさん⁉︎」
思わず駆け寄ろうとする沙耶。
「沙耶様‼︎ 伏せてください‼︎」
次の瞬間、ナイフを両手に沙耶を庇う様に立ったサイモンが腕を振ると、甲高い音と共に火花を散らし何かを弾き飛ばす。
同時に襲撃の来た方向にシェリーが銃を構え発砲する。
それが最後、襲撃は止んだ。
「沙耶お嬢様‼︎」
負傷者を抱える沙耶にシェリーが銃を構えたまま周囲への警戒を解かないまま駆け寄る。
「ダメですね・・・この傷と出血量では、私の治癒の力ではどうにも・・・」
船員の首からはおびただしい血が流れ、恐らく即死だっただろうと判断する。
「そうですか・・・」
力無く倒れた二人を目を細め悲しげに呟くシェリー。
そこにサイモンが二人を背中で覆うようにしゃがみながら、
「音からして銃による攻撃ではないようです・・・っつ・・・」
「サイモンさん、腕に怪我を・・・」
謎の攻撃をナイフで弾き落とす際に腕に裂傷を負ったようだ。
血が滴り落ちるサイモンの腕に沙耶は手を当てると、
「また、星の力を借ります・・・」
淡く青い光と共にサイモンの腕からの出血は止まり、裂傷が目に見えて癒えて行く。
「お嬢様、ありがとうございます」
「いえ・・・でも、私はこの二人には何も出来なかった・・・」
二人の亡き骸の頭を優しく撫でる沙耶。
「二人とも・・・これを見て・・・」
シェリーが手に何か持っている。
おそらくサイモンがナイフで弾き落とした物だろう。
「電動ドリルの・・・芯・・・」
三人は知っている。
この二人の命を奪った張本人。
それを証明するこの凶器。
「テッツ・コット・ミロットですね・・・」
こう言う感じだよ、本来‼︎ 河原ブーメランは真面目な人です(`・∀・´)これが今回の事件の起の基盤です。眼精疲労がすごいのでこの辺で、ではでは〜。