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異界人の魔法学校転生記  作者: 人でなし
Ⅰ 一年生
9/13

Ⅰ-3 班編成①

「あー、本当に班どうしよう」


 スティリアに入学してから一週間。もうそれぞれで仲良しグループが完成した中、私は相変わらずぼっちだった。理由は単純、クリスタルだから。落ちこぼれと組みたい人が居るはずない。友達すら出来ないのに班を組める訳がない。

 思わず項垂れていると、もふ太がすとっと私の膝の上に降りて来た。遠慮なく頭をもふ太に埋めると、言葉では言い表せない多幸感が生まれる。私が暇さえあればもふ太をもふもふしているからか、もふ太は私がもふもふが好きなことに気付いたみたいで、元気がない時にはこうしてもふ吸いをさせてくれるようになった。もふもふもふもふ。


「ふぅ……ん?」


 暫くもふ吸いをして顔を上げると、テオンハルトくんの姿が見えた。声をかけようとしたが、それより早く誰かに呼び止められる。セイラちゃん達がテオンハルトくんと何かを話していた。


「そうだよね、テオンハルトくんアメジストだもん」


 使い魔召喚の儀式でも凄い使い魔を召喚していた彼は、班に入って欲しい生徒ナンバーワンに違いない。唯一のお話が出来る生徒だが、私にはあまりにも分不相応だ。

 どんどん気分が下がって来てしまった。よし、気分転換にスティリアをちょっと冒険してみよう。






 魔法学校スティリアは、小さな街のようになっている。本校舎は学校というよりは城に近い風貌で、大きな湖の上にぽっかりと浮かんだ島の上に建てられているのだと最近知った。

 男女別の学生寮に食堂や、授業に必要なノートやペンを買える売店もある。噂では教師寮もあるらしいのだが、何処にあるかは分からない。

 本校舎の裏には森が広がっており、実習などはそこで行われるらしい。窓から少しだけ見えるのだが、あまりにも広過ぎてビビった。

 魔法武闘学が行われるグラウンドに、魔法の練習が出来る練習場。魔法創造学の勉強が出来るアトリエは数え切れぬほどたくさんあるらしい。


「ほんっとに広いんだよなぁ。迷子になったら帰れなくなりそう……」


 この時間帯は生徒達は売店やカフェでたむろうようで、あまり人は見当たらない。自分の足音が響くほど静かな校舎は少し怖いが、もふ太が居るので大丈夫だ。まだ明るいし。

 何も考えずにふらふらと歩いているうちに、少しずつ気持ちも落ち着いて来た。まだ三週間ほどあるのだから、希望はある。とりあえず授業を真面目に受けて落ちこぼれだけど努力はしてます、というアピールをしてみよう。

 うんうんと一人で頷いていると、いつの間にか校舎の端っこまで来てしまったようだった。目の前には一面ガラス張りのテラスがあり、日の光がキラキラと降り注いでいる。

 床にはステンドグラスみたいにカラフルな魔法陣が描かれていて、その上に一人、生徒が座り込んでいた。


「……あ」


 光を反射して輝く赤い髪の中に、犬に似た耳がぴょこん、と生えている。赤い尻尾も生えているのだが、何かを悲しむようにしゅん、と垂れ下がっていた。

 私が足を踏み出すと、音に気付いたのか生徒がバッと振り返った。恐れを含んだ橙色の瞳がこちらに向けられる。微かに潤んでいるように見えるのは気のせいだろうか。


「あ、えーっと……こんにちは」


「こんにちは」


 男子生徒は目元を乱暴に擦り、誤魔化すように笑う。追及されたくないのなら、私もそれに合わせるべきだ。ニコリと笑顔を返すと、彼は少し安堵したように小さく息を吐いた。


「私、一年生のカノン・アリアスです。宜しくお願いします」


「俺はジェイ・コリー。宜しく」


 人当たりの良い笑顔を浮かべるジェイくんは、ぱたぱたと尻尾を振っている。実物は見たことがないが、狼のそれに似ているだろうか。


「ジェイくんは獣人族なの?」


「うん、一応」


 一応、という言葉に私が首を傾げると、ジェイくんはニコニコとした笑顔を崩さずに聞いた。


「他の獣人族って見たことある?」


「あ、うん。一年生にも結構居るから」


 獣人族と思わしき生徒達を頭に浮かべてみる。トリやライオン、ウサギなど様々な動物の姿をしていた。前世で見た動物達が服を着て二足歩行をしている感じだ。

 それからジェイくんの姿を見て、違和感を感じる。そういえば、彼は他の獣人族の生徒とは決定的に違うところがある。


「そう。俺、生まれつき人間族に近い姿なんだ。親は両方とも狼だったんだけど、何故か俺だけ。だから呪われてるって言われてた」


 ジェイくんは頭に耳、尻に尻尾が生えているだけで、それ以外は然程私と変わらない姿なのだ。ほぼ動物に近い姿ばかりの中で人間に近い者が現れれば、気味悪がられてしまうのは仕方ないのかもしれない。生き物は異物を排除するのが好き、とエリザベス先生が言っていた。


「皆基本的には自分と同じ種族と仲良くなるんだけど、俺は獣人族に嫌われてるしまるっきり人間族って訳でもないから浮いちゃってさ」


 顔立ちも綺麗でノリも良さそうな彼が、ここで一人で居る理由が分かった。セイラちゃん達もエルフ族同士で固まっていたし、他種族と仲良くなるのは珍しいのかもしれない。


「だから、休み時間とかはよくここに来てるんだ。見てよこの景色!」


 手招きされ窓に近付くと、外の景色が一望出来るようになっていた。スティリアを囲む大きな湖の向こうには、お城と街がある。あそこが王都とかなのだろうか。

 一面ガラス張りになっているおかげで、空も高く解放感が凄い。いくらでも眺めていられそうだ。


「ここに居れば、嫌なことも辛い記憶も忘れられる。これだけで俺、スティリアに来て良かったって思えるんだ」


 ジェイくんはにひっと楽しげに笑う。私は何を言えば良いか分からずに狼狽え、口を開けたり閉めたりする。視線を下に向けると、垂れ下がった尻尾が目に入った。それを見て、私は顔を上げて彼の瞳をまっすぐ見つめる。

 何と言うか、彼をこのまま独りにしてはいけない気がしたのだ。


「ジェイくん、私と班組まない?」


「……え」

 

 頭にもふ太を乗せながら言っているからちょっと木が抜けるかもしれないけど、私は至って真剣だ。というより、生半可な気持ちでこんなこと言えない。

 ジェイくんは目を瞠って、それから少し俯く。


「いや、その、気持ちは嬉しいんだけど……俺、獣人族に嫌われてるから、多分迷惑かけるよ? カノンさんも物好きな奴って言われるだろうし」


「私クリスタルだから、元々色んなこと言われてるもん。寧ろジェイくんの方に迷惑がかかると思う」


 とんがり帽子を被るのは授業の時だけなので今はないが、あの透き通った星を付けていると嘲笑の的にされるのだ。今更何言われても気にしない。あれ? そう考えると私、嗤われるけど班組もうぜ! って言ってるヤバい奴じゃん。


「まだ他の班員は全然集まってないんだけど……でも、期間内に絶対探してみせるから! ほら、私と組めば問題児コンビでなんか相殺されるかもしれないし!」


 何言ってるんだろう私。人とちゃんと話すのが久しぶりだから汗がだらだら止まらない。ジェイくんは少し笑い、それから顔を引き締めてこちらを見る。


「……何で俺なんかと組みたいの?」


「うーん……勘?」


 彼を独りぼっちにさせてはおけない、と考えたのも一つだが、何より私の勘は当たるのだ。あんまり深く考えられない、とも言うが。

 ぽかんとしたジェイくんに私は笑いかける。


「アリン先生が言ってたの。『イメージすることは何でも叶えられる』って」


 魔法は火を灯したい、水で流したいといった願いを叶えるもの。つまり、その魔法を使うイメージが重要なのだとか。どんなに無謀でも、イメージがしっかり出来ていれば叶えられる、ということらしい。


「ジェイくんが一緒だったら、めちゃくちゃ楽しい学校生活になるってイメージ出来るの。だから班を組みたいんだ」


 そしてその後はっと気付き「こんなこと言ってあれなんだけど、私クリスタルだからめちゃくちゃ足引っ張ると思う」としっかり言っておく。あくまで私が組みたいだけで、まだ彼の意思はちゃんと聞けていない。私が落ちこぼれだということはしっかり言っておかないと詐欺になってしまう。

 ジェイくんはぱちぱちと瞬きをし、大きく息を吐いた。断られるかな、と思ったが、彼の顔は穏やかだった。


「……ジェイで良いよ」


「え?」


「俺もカノンって呼ぶからさ。班員だから気安い方が良いっしょ?」


 それはつまり、そういうことか。私がぱあっと顔を輝かせると、ジェイは太陽のように笑った。


「これから宜しくな、カノン」


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