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異界人の魔法学校転生記  作者: 人でなし
Ⅰ 一年生
8/13

Ⅰ-2 精霊召喚の儀式

「皆さんこんにちは! 精霊学担当のメルーノ先生だよ!」


 今日は初めての精霊学の授業。担当のメルーノ先生は童顔で、どことなくアリン先生と似たものを感じる。背中から真っ白な羽が生えているので、彼は天界族だろう。


「今日は皆お待ちかね! 精霊召喚の儀式を行いたいと思います! はい拍手ー!」


 とりあえずパチパチするが、私には何が何だか分からない。けれど周りの生徒は華やいだ声を上げているので、楽しいことなのかもしれない。

 メルーノ先生が手を叩くと、ボン! という音と煙と共に、魔法陣が現れた。禍々しい青色に光るそれは、正しく魔法使いが使いそうなものだ。


「精霊とは、この世界に満ちる魔力が具現化したもの! それを使役することで、我々はもっと魔法を上手く使うことが出来るのです」


 すると、メルーノ先生の懐から小さなリスが現れ、チョロチョロと頭のてっぺんまで登る。くしくしと毛繕いをする様子はただのリスだが、くしゅんとくしゃみをすると火の粉が舞った。


「この子は火属性の精霊。種族によって使いやすい魔属性は変わるんだけど、もう魔法基礎学でやったかな? じゃあ、コーリナーンさん! 各種族の得意な属性を答えてください!」


 指名されたのは、エルフ族のセイラちゃんだ。自信満々に髪を靡かせると、よく通る声で話し始める。


「はい! 人間族は火、魚人族は水、獣人族は風か土、エルフ族は雷、天界族は光、魔界族は闇が得意です」


「その通り! まぁ極稀に例外も居るけど、基本的には彼女が言ってくれた通りだよ。精霊を使役すると、その子の属性の魔法を使いやすくなるんだ。それだけじゃなく、何か情報を集めてもらったり一緒に戦ったりすることも出来る」


 精霊は基本的に姿を見せることがない。そのため精霊召喚の儀式は膨大な魔力と複雑な魔法操作が必要なようで、魔法学校などに行かない限り儀式を行うことは不可能に近いらしい。だから精霊召喚の儀式が出来る、というだけで魔法学校に通う理由に十分なり得るそうだ。

 私は人間族で火が得意だから、消火のために水属性の精霊を使役したい。でも、私のところに来てくれるならもうどんな子でも良いや。


「精霊召喚の儀式は、とっても簡単! この魔法陣に血を垂らすだけです!」


 え、ちょっと待って。今血って言った? 嘘でしょ? と先生を見ると、近くのテーブルに大量のナイフが置かれている。思わずひいっと息を呑んだ。痛いのは嫌なんだけど!


「じゃあ一人ずつ名前を呼ぶから、呼ばれたら前に出て来て儀式を行ってね。えーっと、一番手は……」


 待って待って待って待って、まさかあれで手切るの? 嘘でしょねぇ。前世で擦り傷とか痣とかは散々作ってたけど、自分から傷付けに行った経験はないんだってば!

 最初の生徒はナイフを受け取り、何の躊躇いもなく指を切った。なんでそこまで躊躇ないの!? とびっくりしているうちに血がぽた、と魔法陣に落ちる。すると魔法陣が光り、ボン! と煙を出した。


「お、雷属性の電気ネズミだね」


 パチパチと電気を纏っているネズミが、魔法陣の上できょとんとしている。可愛がってあげてね、とメルーノ先生が生徒に言うと、ネズミがきゅう、と声を上げた。

 その後も次々と生徒が精霊を召喚していく中、私は自分の手を抱き締めてぷるぷると震えていた。必要ならやるしかないが、ナイフで指を切るイメージがどうにも湧かない。映画でもスプラッタは嫌だった。

 すると、急に生徒達が歓声を上げた。見ると、魔法陣の上に虹色の瞳のドラゴンが居る。それを召喚したのはテオンハルトくんだった。


「あれって全属性だよね?」

「しかもドラゴンって、世界でも使役してる人が少ないんでしょ?」

「テオンハルトくんのお父さんの使い魔もドラゴンだったらしいし、やっぱり血筋には抗えないなぁ」


 ざわめく周りの生徒とは対照的に、テオンハルトくんは相変わらず無表情だ。それでもドラゴンがすり、と顔を寄せると、ほんの少しだけ顔が緩んでいた。

 それから暫くして、もう一度生徒達が沸いたのは、セイラちゃんの召喚の時だった。「やりましたわ!」と嬉しそうに笑っている。

 召喚されたのは、虹色の角を持つユニコーンだった。時々身体を震わせる仕草すら優雅で、物凄くセイラちゃんとお似合いだ。


「セイラ様、素晴らしいです!」

「全属性のユニコーンを召喚するなんて……」

「流石エルフ族の姫ですわ!」


 もう取り巻きちゃん達は大号泣。そのうちの一人の使い魔ももらい泣きしていた。水属性なのかな?

 メルーノ先生におめでとう、と言われセイラちゃんは誇らしげだ。恐らく全属性ということは、どの属性の魔法でも使いやすくなる、ということだろう。それはかなり有利だ。


「じゃあ次……カノン・アリアスさん!」


 遂に私の名前が呼ばれてしまった。「クリスタルの精霊なんてたかが知れてるだろ」「そもそも召喚出来るのか?」と嘲笑われてる気がするが、反応する余裕もない。

 半泣き状態でナイフを握り、指に当てる。冷たい刃物の感触を感じながらすー、はー、と深呼吸をし、意を決してナイフをスライドさせた。ジン、と痛みが襲い、ちょっと目が潤む。めちゃくちゃ怖かった。

 じわりと血が滲んで来たので指先を魔法陣へ向けると、ぽたりと赤い雫が落ちた。

 その途端、ボン! と煙が上がる。もくもくとした煙がやがて消え、そこに残っていたのは──!


「……え?」


 魔法陣の上にわたあめが乗っている。嘘じゃない。本当に白くてもこもこの丸い何かが、ちょこんと魔法陣に乗っかっている。何これ、ポメラニアン?

 私の目がおかしいのかと周りを見ると、他の生徒も自分の目を擦っていた。良かった、皆も同じこと思ってるっぽい。いや良くないわ。


「あのー……」


 とりあえず手を伸ばし、もふもふに触れてみる。すると、もふもふが一人でに動き、こちらを向いた。


「……え?」


 長方形に近い形になったもふもふの真ん中辺りに、つぶらな瞳が二つ。それと短いおててが二つ。それだけ。後はただのもふもふだ。

 私が固まっていると、もふもふがふわりと宙に浮かんだ。ぽすん、と私の頭に着々し、動かなくなる。ねぇ待って、本当に何? これ精霊なの?

 助けを求めるように先生の方を見ると、先生の顔が強張っていて目を瞠る。でもそれは一瞬のことで、瞬きするともう先生は普通の顔に戻っていた。


「先生、この子って……」

「うーん、これは……ごめん、よく分かんないや!」

「えぇ!?」


 メルーノ先生は笑顔で言い放ったが、精霊学の先生でも分からない精霊なんて居るのだろうか。でも、精霊は基本目に見えないらしいから、研究もあまり進められないのかもしれない。


「今までこの子を召喚した生徒は居なかったからなぁ。属性も分からないし……でも、アリアスさんの元に来たんだから、きっと素晴らしい精霊だと思うよ」


 後で研究させてね! とメルーノ先生がもふもふに触ろうとすると、手でぺしっと払いのけられていた。物凄く可愛い。物凄く可愛いけど、この子は何なんだ。

 私は落ちこぼれだから、精霊を使役して扱える魔法の属性を増やせれば班を組む相手も増えるのでは、と思っていたが……属性が分からないとなると、特に今まで何も変わらない。

 せめて水属性の精霊なら、と思ったが、このもふもふから水というイメージは湧かない。強いて言うならば風だろう。


「うぬぅ……まぁでも、せっかく私のところに来てくれたんだもんね」


 頭の上からもふもふを降ろし、抱き抱える。何も考えていなそうな二つの瞳に向け、笑いかけた。


「よろしくね、えーっと……もふ太」


 腕の中にもふもふがある幸せを感じつつ、生徒達の中へ戻って行く。すると、コツンと私の顔に何かが当たった。床に木の実らしきものが落ちている。

 飛んできた方向を見てみると、男子生徒数人と猿の精霊が馬鹿にしたような笑みを浮かべてこちらを見ていた。彼らはいつも私をクリスタルと言って嗤ってくる奴らだ。


「そんな役に立たなそうな精霊召喚するとか、流石クリスタルだな」

「先生はあぁ言ってたけど、役立たず召喚したお前に同情してるんだろ」


 思わずムッとする。私は何言われても良いけど、もふ太のことを言われるのは許せない。でも反論したら面倒くさいことになりそうなので、ふんっとそっぽを向いてやる。

 「行こう、もふ太」と声をかけたのだが、ぎゅっと腕を掴まれる。まるで行くな、と言うかのように。すると、じわじわともふ太の瞳が黄色に光り出したように見えた。

 私がもふ太、と声を出すより早く、外で地面を割りそうな雷鳴が鳴り響いた。


「キャアッ!」


「急に何だ!?」


 皆が怯えるように窓の外を見るが、空は何事もなかったかのように晴れ晴れとしている。何だったんだ、と思っていると、先ほどの男子生徒の悲鳴が聞こえて来た。


「うわ、いててて! おい、俺の精霊なのになんで俺に攻撃するんだよ!」


 雷に驚いたのか、パニックになった精霊にバリバリと引っかかれている。痛そうだが、ちょっとだけざまあみろと思ってしまった。


「そういえば、もふ太の目の色が変わっていたような……あれ?」


 先ほどは黄色だったと思うのだが、今は元の黒色だ。何なら今にも眠りそうにこくりこくりとしている。もしかしたらもふ太が雷を起こしたのかも、って思ったけどそんな訳ないか。

 そうこうしているうちに、全員の精霊召喚の儀式が終わったらしい。


「これから精霊学の時は自分の精霊を一緒に連れて来るようにしてね! それじゃあ解散!」


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