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No Name's Dynasty  作者: 大道福丸
林江漫遊記
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プロローグ:若獅子の旅立ち

 灑の国王都春陽の外れ、若々しい緑で充満した竹林の中に一人の戦士が佇んでいた。

 黄金の鬣に若竹を思わせる鮮やかな緑の身体を持つ者、その名は狻猊。

 鬼才懐麓道が作った九つの特級骸装機の一つにして、かつては灑の敵国、慇の国で四魔人と謳われた花則の愛機であり、今は猛華大陸だけでなく、世界に名を轟かす拳聖、そして聖王覇獣拳創始者である玄羽……彼の弟子、林江のマシンである。

「ふぅーーッ」

 緑のマスクの下で林江が息を吐き、集中力を整えていると、それは彼の前に現れた。

「……やるか」

 鮮やかな青い模様を刻まれた白い機械鎧、狴犴。狻猊と同じく懐麓道の傑作の一つにして、林江の年上の弟弟子、星譚が纏う強力無比な特級骸装機である。

「ええ……とことんやりましょう……!!」

 緑の若獅子は腰を落とし、構えを取ると、微動だにしない狻猊に枯れ葉をガサガサと鳴らしながら、ゆっくりとにじり寄った。

「慎重だな」

「そりゃあね……それだけの相手ですから」

「ずいぶん認めてくれてるみたいだけどよ……それでもちと過小評価だな」

「!!?」

 文字通り一瞬、瞬く間に白き神獣は若獅子の目の前まで距離を詰めた。

「速い!?」

「それがこいつの自慢だからな!!」

 勢いそのままに撃ち込まれる狴犴の拳!


パンッ!!


「「――ッ!!?」」

 それを狻猊ははたき、軌道を変え、なんとか事無きを得た。

(つぅ~ッ!?なんて威力!こんなパンチ、何度も捌くことは……!!)

「初撃を防いだくらいでホッとしてるんじゃねぇ!!」

 狴犴は腕を引き、両足で大地を踏みしめる。ラッシュの体勢、このまま一気に勝負をつけるつもりのようだ。

「ちっ!ここは一旦!!」

 対する狻猊は掌底を放つ……地面に向かって。

「聖王覇獣拳!逃走我!!」


バフン!!


「……ちっ!!」

 凄まじい速度で放たれた掌底による風圧で地面の枯れ葉や土埃が周囲に巻き上がり、若獅子の姿を隠した。玄羽直伝、拳聖流の煙幕だ。

(師匠が一番始めに教えてくれた技。未熟な自分が危険から逃げられるように。だけど今は……逃げるわけにはいかない!!)

 狻猊は息を潜め、土埃のカーテンに紛れて、狴犴の背後に回り込む。

(卑怯なんて言わないでくださいよ!これこそが同じ師に教えを乞うたあなたに対する最大級のリスペクトだ!!)

 緑の若獅子は無防備な白い背中に向かって、拳を撃ち込んだ!


ブゥン!!


「なっ!?」

 拳は虚空に炸裂し、土埃を吹き飛ばし、竹林を揺らす……それだけ。肝心の狴犴は……。

「甘いぜ、リンゴ」

 狴犴は宙返りで回避をすると、逆さまになって狻猊を頭上から見下ろしていた。

「ちっ!!」

「そして遅い!!」

 狴犴は身体を器用に動かし、また空中で半回転!足を下に向けると……。

「オラアッ!!」


ガンガンガンガンガンガンガンガン!!


 踏みつけ!踏みつけ!踏みつけ!あろうことか狻猊を頭上から踏みつけてきた!

「ぐ、ぐうぅ……!!」

 獅子は両腕でひたすらそれをガード、それしかできなかった。

(本人はその気はないのだろうけど、これはまさしく聖王覇獣拳猛爪連脚!さすがセイさん……師匠が認めただけはある!)

 攻撃を受けながら、リンゴは心の底から嬉しかった。弟弟子には強くあって欲しいものなのだ。それと同時に……。

(これは……兄弟子として、情けないところは見せられない!!)

 先輩としての意地を全身に迸らせる!

(タイミングは……ここだ!!)

 狻猊は狴犴の両足が離れる瞬間を見計らって、身体を捻り、回転した!

「聖王覇獣拳!旋風ゴマ!!」


ブォン!!バチィッ!!


「――ぐっ!?」

 宣言通り、豪風を纏う独楽となった狻猊に触れると、狴犴は凄まじい勢いで弾き飛ばされた! 

「さすがにそう簡単にはいかんか……」

「はい!ちょっと自分のこと過小評価し過ぎです!!」

 狻猊は回転を止めるとすぐさま狴犴に飛びかかり、先ほどのお返しにとラッシュを仕掛けた!しかし……。


ブンブンブンブンブンブンブンブン!!


 その純白の装甲に触れることもできず。全ての拳も蹴りもあっさりと躱されてしまう。

「ん?これだと、オレのお前への評価は妥当ということになるが?」

(くっ!何も言い返せない!まさかこれだけ撃って掠りもしないとは……!ディフェンス技術においてはすでに師匠と同等……下手したら……)

「呆けてる場合か」


ガンガン!!


「――ッ!?」

 逆に連打の間に差し込まれた白き神獣のジャブは見事に狻猊の鬣に飾り立てられた頭部を捉えた。若獅子の顔がノックされると、チカチカと目の前に星が光った。

「くそ!?」

「ハンドスピード勝負じゃ、この狻猊に勝ち目はないぞ!」


ブンブン!ガンガン!ブン!ガンガン!!


 華麗なディフェンスからのジャブによる確実な攻撃……弟弟子の立派な姿は、リンゴが惚れ惚れするほどだった。

(短期決戦特化で、スピードとパワーを重視した結果、装甲にしわ寄せがきてるはずなのに!攻撃を当てさえできれば……なのに!!狴犴とセイさん……長所を伸ばし、短所を補う最高の組み合わせだ!だけどあっちの欠点の方は……)

 狻猊は攻撃を中断、ガードを固め……。

「しょうもな」


ガァン!!


「――ッ!!?」

 そんな目論見など通じないと、狴犴は豪腕で狻猊のガードを跳ね上げた!

「狴犴のスタミナ切れなんて、つまらない一手で勝って満足か?」

「ですね……!武道家ならば、正面から打ち破ってこそ!!」

「そうだ!それでこそだ!兄弟子よ!!」

「行くぞ!狴犴!これが今の自分が撃てる最強の一撃!」

 獅子は両拳を引き、力を溜める。

「のんきな!準備ができるまで、敵が指を咥えて待っていてくれると思うか!!」

 対照的に狴犴は間髪入れずに拳を引くと、即撃ち出した!

「骸装通し!!」

「聖王覇獣拳!魔獣狩り!!」

 両者の必殺技がぶつかり……。


パチパチパチパチ……


「!!」

 ぶつかり合おうとしたその時、拍手の音が竹林に響き渡り、狻猊はビクリと動きを急停止した。

「……来ていたんですか、シュガさん」

「あぁ、いいものを見せてもらった」

 拍手の主は銀の毛並みが美しい仙獣人にして、灑の銀色の剣と呼ばれるこの国の最強戦力シュガその人であった。

「どこから?」

「最初からだな」

「声をかけてくれればいいのに」

「いやいや、お楽しみを邪魔したくはなかった。ただちょっと……」

「ちょっと?」

「ちょっと強く設定し過ぎじゃないか?あれから三年ほど経っているとはいえ、あれだとほぼセイというより、狴犴を装着した玄羽様だ」

「たった二人の兄弟弟子、それぐらい強くあって欲しいという願望が無意識に現れてしまったのかもしれませんね」

 狻猊を待機状態である札の形に戻し、林江はその素顔を晒す。

 先の大戦から月日が経ち、その顔からすっかりと幼さが消え……てはおらず、まだ若干残っていたが、あの時よりは間違いなく、精悍な相貌になっており、少年から青年と形容すべき立派な偉丈夫に成長していた。

 そして、彼が戦闘態勢を解除すると、対戦相手の狴犴は見る影もなく消えてしまう。いや、最初からそんな者いなかったのだ。

「傍目から見て、誰と戦っているのかわかるほどのイメージトレーニング……何度見ても、毎回舌を巻くよ」

「放任主義で技は見て盗めと、まともに稽古をつけてくれなかった師匠が唯一みっちり自分に教え込んだ修行法ですから」


「イメトレは大事だぞ。戦いにおいて、もう一回なんてできない場合がほとんどだが、イメージなら何回でもどんな相手とも殺し合える。想像力もつくし、武術以外の面でも役に立つ。そして何より……金がかからん」


「フッ……」

 子供のように笑う師匠のシワだらけの顔を思い出し、リンゴはちょっとだけセンチメンタルになった。

「なんだったら、イメトレに関してだけは、すでに師匠クラスだと自負してます……まぁ、敵のレベル設定を間違えた直後に言っても、説得力はないかもしれませんが」

「俺個人の意見で言わせてもらえば、過小評価するよりかはマシだと思うぞ」

「自分も同じ意見なんですが、多分この訓練は敵の力量を正確に測れるかどうかも鍛えるものだと思うんで……」

「それは確かに大事だ。敵を知ればなんとやらと言うしな」

「ですから今回は色んな意味で失敗です。あのまま続けていたら、先に骸装通しを喰らって負けていたでしょうし」

「耐えてカウンターするつもりだったんだろ?」

「あの感じだとちょっと……受ける直前になって無理だって悟りましたよ。今の自分ではとてもじゃないが、耐えられない。自信をつけるために始めたのに、これでは逆効果ですよ……」

 リンゴはガックシと肩を落とし、項垂れた。

「じゃあ、自信を取り戻すためにカンシチ辺りをボコってやればいい」

「弓使いを格闘戦でいたぶってもね……」

「となると、ジョーダン辺りが……」


「ちょいちょい!おれっち達のこと忘れてねぇか!!」


 突如として、二人の間に見慣れた妖精、ルツ族のキトロンが入って来た。さらにその後ろからリンゴには見知らぬ男が……。

「キトロン、久しぶりだな」

「おう!」

「それと……」

 リンゴは視線を妖精から後ろに控える男に移した。

(なんだか大人しそうな人。だけど……猫背だからわかりづらいけど、自分と同じくらいの背が高い……体格的には恵まれてる。重いパンチが撃てそうだ)

 人としてはいいのか悪いのか判断しかねるが、武術家リンゴにとっては、強いかどうかがまず確認すべき人間の価値基準であった。

「えーと、自分は拳聖玄羽が一番弟子、林江です」

「お噂はかねがね。わたしは安密 (あんみつ)。以後、お見知りおきを」

 リンゴと安密は拳を手のひらに打ち付けると、お互いに向かってペコリと頭を下げた。

 その光景を見て、シュガは満足そうに人より大きい口角を上げた。

「うむ。うまくやれそうだな」

「うまくってことは、今日来たのは、このアンミツさんを自分に紹介するためですか?」

「あぁ、お前にはこいつとキトロンと一緒にちょっくら旅に出てもらおうかと思ってな」

「そうですか、ここにいるみんなで旅に………え?」

 わけもわからず首を傾げるリンゴ。

 唐突に始まった彼の旅はジョーダン達に負けず劣らずのかなり刺激的で、過激なものになるとは……リンゴを含め、なんとなくその場にいるみんなは予感していた。

「はぁ……アウトドア派ではないのですが……」

「おれっちはやる気満々だぜ!!」

(よくわかんないけど……大変なことになりそう。師匠、どうか自分達を見守ってくださいね)


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