伝説のように
「……って、黄昏てる場合じゃねぇな。特級装甲二連発でしんどいけど、早く脱出しねぇと……!」
カンシチは自分で開けた穴に向かって駆け出……。
グルン!!
「うおおおっ!?」
突然、世界が回転した!クアフゾンが反転したのである!
「な、何が……えっ!?穴が塞がった!?」
穴から見えていた風景が、この一瞬で見えなくなってしまう。穴が塞がったというよりも、何かが穴の前にそびえ立っているように見える……。
「おいおい!どうなってんの!!」
カンシチは疲れた身体に鞭打って、今度こそ穴に走り出す!そして……。
「――ッ!?か、怪物がもう一匹……!?」
カンシチは愕然とした。穴の先にいたのはもう一匹の化け物……見たこともない巨人がこちらを見下ろしていたのである。
「カンシチくん!」
「ほらほら!おれっちの言った通りだろ!何故か石雀になってるけど、あの気配は間違いなくカンシチだ!!」
その巨人の中では彼の友人たちが歓喜に沸いていた。
「さっきの光もカンシチくんが……って、そんなこと言ってる場合じゃないか」
「あぁ、まずは……」
「うん!早く助け出さないと!」
「えっ!?ちょっと待て、ラク!!」
キトロンの制止は僅かに遅かった。ラクがカンシチの前に盤古の手を差し出すイメージをしてしまった。
「ウオオォォ……」
それに従い、手をゆっくりと動かす巨神。その姿をカンシチから見ると……。
「こいつ!?おれを捕まえようとしているのか!?」
恐怖でしかなかった。しかも朱操との戦いで疲れ切っている彼は判断力が著しく落ちている。そうなると彼の取る行動は一つだった。
「ちっ!?四の五の言ってられねぇか!」
カンシチは残った力を振り絞って、穴に向かって加速し……。
「ええい!ままよ!!」
そこからジャンプした!盤古の手の横を通り抜け、地面へと一直線に落下していく!
「カンシチくん!?何で!?」
「あのバカ、おれっち達のこと、というより初めて見る盤古を敵だと誤解したんだ!!」
「――ッ!?そ、そうか!?くそ!彼の把握している状況を誤認したぼくのミスか!!」
「あいつが短絡的なだけだ」
「と、とにかく助けないと!!」
「その必要はないと思うぜ」
「えっ?」
「奴が来てくれた」
「うあぁぁぁぁぁぁっ!?」
引力に導かれ、地面へと落下していくカンシチ!このまま行くと、せっかくの勝利も水の泡……結局死亡エンドで彼の物語にピリオドが打たれてしまう。
「ヤバい!?おれ、もしかしなくても早まったかも!?」
ようやく自分の浅はかさに後悔するが、流れる時は反省する暇も与えてくれずに地面はどんどんと近づいてくる!
「くっ!?蒼天の射手の最後が墜落死なんて……」
カンシチはもはや自分には為す術ないと覚悟を決めた。目を瞑り、いずれくるであろう激痛に身構え……。
ガクン!!
「――うおっと!?」
突如として、身体にかかっていた重力が消える。というか、どうやら落下が止まったような感覚が……。
「なんだ……?死ぬってこういう感覚なのか?」
カンシチは恐る恐る目を開ける……そこには!
「残念だったな、貴殿はまだこの血生臭い俗世から逃げられない」
「ら、蘭景!?」
今まで影も形もなかった蘭景が自分の身体を抱き抱え、界踏覇空脚で空を駆けていた。
「お前……どうしてここに……?」
「それよりも言うことがあるんじゃないか?」
「あっ!大変な時にはどこにもいないのに、美味しいところはしっかり持っていくお前のそういうちゃっかりしたところ、おれは大好きだ!!」
「そうか……そんなに落ちたいのか」
「嘘!嘘!嘘!ありがとうございます!助けていただいて、心の底から感謝しております!!」
「最初からそう言えばいいんだよ」
この状況でふざけるカンシチに呆れると同時に、健在なことが確認できて蘭景は内心ほっとした。
「マジで感謝な、蘭景」
「もうわかった。それよりも大人しくしていろ。この場から自分たちが離れないと、盤古が紅蓮の巨獣を攻撃できない」
「そうだな、盤古が…………あれ、盤古なの!!?」
ようやく謎の巨人の正体が幼き日より聞かされてきた伝説の盤古だと知り、カンシチはその巨大な顔と自分を抱える蘭景の顔を忙しなく交互に見た。
「マジで!?マジで!?あれが盤古なの!?」
「マジのマジ、大マジだ。諸葛楽が呼び出し、今彼が操縦していると思われる」
「そうか諸葛楽が操縦……盤古、ラクが操縦してるの!!?」
衝撃で思考回路がショートしてしまったようで、カンシチの目は盤古に釘付けになったまま動かなくなってしまった。
「盤古を……ラクが……」
「わかったら、とっとと退くぞ」
「あぁ……いや!ちょっと待って!!」
「ん?」
「すぅ……」
なんとか気持ちを切り替えたカンシチは空気を肺に取り込んだ。友人に大切なメッセージを伝えるために。
「ラク!!今、おれが出てきた穴のところにクアフゾンの心臓がある!!!」
「――!!キトロンくん!!」
「あぁ!カンシチの奴、でかしたぜ!!」
蘭景に抱えられる間抜けな姿で離れてゆく友人を見送ると、こちらも心を戦闘モードに切り替えた!
「心臓周辺でどんぱちやってたから、妙に大人しかったのか」
「そして今、穴が空いたことで完全に動きが止まっている!!」
「ならば!!」
「おう!ぶちかましてやれ!ラク!盤古!!」
「ウオオォォォォォォォォォォッ!!」
盤古はラクの意志に従い、指を伸ばし、腕を振りかぶる!
「必殺!盤古フィンガー!!」
「でえぇい!!」
「ウオオォォォォォォォォォォッ!!」
ザシュン!!
「グガアァァァァァァァァァァッ!!?」
盤古の巨大な貫手が紅蓮の巨獣に炸裂した!心臓を貫かれ、クアフゾンは天地を揺るがす断末魔の叫びを上げる!
「よっしゃ!盤古の大勝利!!」
「いや、まだだ!」
「えっ?」
「相手は伝説の存在……念には念を入れる!」
「ウオオォォォォォォォォォォッ!!」
ラクの想いに呼応し、盤古は腕を引き抜き、後ろに跳躍!距離を取ると、口を開き、そこにエネルギーを集め始めた。
「一人の骸装機開発者としては、もったいないって気持ちがあるけど、こいつの死骸は新たな戦いの火種になる!」
「だな!できる限り吹っ飛ばしちおう!ちょうどあっちもチャージ終わったっぽいしな!!」
「ペペリさん!!」
倒れる無数の慇兵の中で、ボロボロの狻猊がラクたちの考えを察し、声を上げた。
「んだ。あのでっかい背中を見てればわかる……一緒にぶちかませってな」
ペペリは胸に大きな風穴を開けた紅蓮の巨獣を見据え、スイッチに指をかける。
「虞籍殿、よろしいか?」
「あぁ!ターゲットロック完璧!おもいっきりやってしまえ!!」
「んじゃ……ポチッとな」
ドシュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!
ペペリがスイッチを静かに押し込むと、大気を焼き焦がす光の奔流が旱魃砲から発射された!!
「ぼくたちも!!」
「いっけぇ~!!ハイパー盤古ブラスターだ!!」
「ウオオォォォォォォォォォォッ!!」
ドシュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!
盤古の咆哮とともにこちらも口から圧倒的なエネルギーをクアフゾンに照射する!そして……。
ドシャアァァァァァァァァァァァァッ!!
「――グガアッ……!?」
天才が作り上げた大砲と、伝説の巨神の一撃が同時にクアフゾンに炸裂!光に覆われた巨獣の身体は焼かれ、溶かされる!
結果、紅蓮の巨獣のビルのような大きな身体は尻尾だけを残して、この世から消滅した。
「ふぅ……これで……」
「伝説の通り、盤古の勝利だ……!」
巨神の中で天才と妖精がお互いを称えるようにサイズの違う拳を合わせた。