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No Name's Dynasty  作者: 大道福丸
第二部
91/94

因縁の終わり

「これなら多分……きっと……いや、絶対!イケるはずだ!!」

 カンシチ孔雀はいつもと違って、淡い光を放つ無影覇光弓を、いつも通りの美しいモーションで構えると、いつもよりも激しく輝く矢が形成された。

「とりあえず……一発目!!」


バシュン!!


 矢は凄まじい勢いで飛び出し、紅蓮の巨獣体内の湿った空気を蒸発させながら、この期に及んで動こうとしない覚醒朱操に迫った!

「なんだか知らんが……ただのこけおどしだろ!ブラッディ・シールド!!」

 赤き怪物が手を翳すと、同じ色した赤い液体が出現、そしてそれがまた一瞬で円形の盾へと変形した!

「今の俺は誰よりも強い!くそ農民の矢な……」


バシュン!!


「――ど!?」

 しかし、深紅の盾は役目を果たすことはできなかった。あっさりと貫かれ、守るべき主人の下へ、矢をほぼ威力を殺すことなく素通りさせてしまう!そして……。


バシャアァァァァン!!


「――ぐっ!?」

 朱操の腕を跡形もなく吹き飛ばした!

「やった……これなら……!!」

 絶望的だった状況の中、一筋の希望の光を見出だし、思わず顔が綻ぶカンシチ。しかし……。

「腕一本……腕一本吹き飛ばしたぐらいで、調子に乗るな!」

 まるで朱操の激情が溢れ出したかのように、赤い身体の赤い傷口から、これまた真っ赤な液体が吹き出すとみるみる腕の形を形成し、あっという間に元通りになってしまった。

「ちっ!やっぱ再生能力をなんとかしないと……!!」

「そうだ!お前はこの力をなんとかしなければ勝ち目はない!だが!そんな術はない!!」

「そんなこと!!」

「あるさ!そろそろ諦めろ!ブラッディ・ランス!!」


バババババババババババババッ!!


「――ッ!?」

 朱操は自分の周りに無数の深紅の槍を召喚、発射した!

 カンシチ孔雀は回避運動を必死に取るが、残念ながら避け切れず、空のような青い装甲や効果はないが、一応絶対防御気光を展開し、黄色になったクリスタルを傷つけてしまう。先ほどから何度もこの光景を繰り返している。

「はっ!我が攻撃を回避できず、我が肉体を傷つけることもできないお前如きが弓がちょっと強くなったぐらいで勝てると思うなど、おこがましいんだよ!!」


バババババババババババババッ!!


「くっ!?」

 絶え間なく襲いかかる深紅の槍の嵐の中、カンシチは必死に頭を動かしていた。朱操に勝つ方法……いや。

(おれの予想が正しければ、あいつの再生能力はどうにかなる……きっと奴の力の源は……!)

 多くの修羅場をくぐり抜け、一介の戦士として成長したカンシチは既に勝利に至る道筋を見つけていた。ただ……。

(頭では勝つ方法が理解できても、身体が、水晶孔雀のスペックがそれを実行させてくれない……!)

 今も深紅の槍を受け続け、傷を増やす愛機……頭にある作戦を現実のものにするのは不可能に思えた。

「せめて隙さえできれば!!」


バシュン!バシュン!!


 半ば自棄になって矢を放つ……が。

「ふん……それがどうしたというのだ!!」

 朱操は顔色一つ変えることなく、矢を食らい、再生する!そして……。

「ブラッディ・ランス」


バババババババババババババッ!!


「ちっ!?」

 反撃の槍を放つ!カンシチ孔雀はなんとか致命傷だけは避ける、無様なディフェンスを続けるしかない。

「このままじゃ埒が……」

「明かないな」

「――!?」

 槍の雨が突然止む。カンシチは理由を求めて、朱操に視線を向けると、彼は手のひらの上に赤い渦を作っていた。

「それは……?」

「あぁ、これか……これは……生まれ変わった俺の最強の必殺技だ!!」

「――ッ!?絶対防御気光!フルパワーだ!!」

 本能が宿敵の言葉は真実だと訴え、理性が回避不可能だと判断、カンシチは全てのエネルギーを防御膜に回す決断を下した。

「無駄なことを……ブラッディ・サイクロン」


ブルオォォォォォォォォォン!!


 覚醒朱操の両手から二本の深紅の渦が発射される!紅蓮の巨獣体内の不愉快な空気を取り込み、進んでいくごとに大きくなっていく!そして……。


ブルオォォォォォォォォォォォォォン!!


 カンシチ孔雀を絶対防御気光ごと飲み込んだ!

「ぐ、ぐうぅ!?」

 エネルギーを全部回した甲斐があったのか、僅かな間カンシチは耐えることができた……僅かな間だけ。


バリィン!!


「――ッ!?」

 光の膜は深紅の渦に押し潰され、砕かれ、その役目を終えた。


ブルオォォォォォォォォォン!!


「ぐあぁぁぁぁっ!!?」

 そして、ついに渦は本来のターゲットであるカンシチ孔雀を捉える!その身体を宙に運び、その青い装甲を抉り、削り、容赦なく砕く!

「ふん……片田舎で土いじりだけしていれば、こんなことにならなかったのにな。分をわきまえないからだ、くそ農民」

 渦が消え、砕けた装甲とともに頭から落下するカンシチ孔雀を見つめ、朱操は呆れた。今も、今までも次森勘七という男の行動は彼には理解できなかった。だからこそとてつもなく苛立って仕方なかったのだ。

 しかしそれも今日、遂に終わることになる……。

(一手……一手足りなかった……)

 カンシチは妙にゆっくりと流れる上下逆転したグロテスクな風景を見つめながら、後悔に苛まれていた。

(あと、もう少しだけおれに力があれば……もし今、おれの手に“あれ”があれば……)

 カンシチが思い出していたのは、一の門第二戦前のジョーダンとの会話、彼から渡された切り札のこと……。

(特級装甲があれば、あるいは……そんなこと考えてたら、本当に目の前にあのガードが見えてきた気がするぜ……)

 目と鼻の先に待機状態の特級装甲が見えた。今渡の際に見た儚い幻……じゃない!

(ん?あれ、これマジでないか、特級装甲!?クアフゾンの腹の中だぞ!?そもそもあれは玄羽様が……)

 刹那、カンシチの脳裏に少年のように無邪気に笑う拳聖の顔が鮮明に映し出された。

(あぁ……そうか、そうだよな……あの人が届けてくれたんだ。おれのために、灑の国のために、猛華のために……おれに前を向けと尻を叩いているんだ!!)

 カンシチは残った力を振り絞り、特級装甲に手を伸ばし……掴んだ!

「玄羽様!あなたはやはり最高だ!特級装甲、水晶孔雀!!」

 青赤の装甲に金色が加わる!その金色がカンシチの強い感情に反応して、底を尽きかけていた水晶孔雀のエネルギーをフルに、いやフル以上にする!

「あれは……そうか!まだ、あれがあったのか!?」

 特級装甲をカンシチが今の今まで手放していたことを当然、知る由もない朱操は自分の浅はかさを恥じた。だが、すぐに気持ちを切り替え、深紅の槍を新たに生成する。

「ふん!だが、今の俺の敵ではない!!」


バババババババババババババッ!!


 槍をいまだに頭から落下する水晶孔雀に発射する……が。

「そんなちんけな槍……全部、撃ち落としてやる!孔雀超戦光!!」


ビビビビビビビビビビビビビッ!!


「何ぃ!?」

 くるりと特級孔雀は上下を正しい状態に戻すと全身のクリスタルからいつも以上の太さと輝きを持つ大出力のレーザーを放ち、深紅の槍を相殺した!

「このまま一気に終わらせる!!」


バシュン!ビビビビビビビビビッ!!


 着地と同時に特級孔雀は矢とレーザーを絶え間なく発射しながら、朱操へと駆け出した!

「くっ!?ブラッディ・シールド&ランス!!」


バババババババババババババッ!!


 覚醒朱操は周りに深紅の盾を展開、そこから更に槍を撃ち出す!狙いなどつけてなどいない……自分に近づく者は誰一人として許さない言わんばかりに、がむしゃらにひたすら撃ち続ける!

「ぐっ!?この!!」

 しかし、特級孔雀はスピードを落とすことはあっても止まらない!迎撃できずに深紅の槍に装甲を抉られようとも、手も足も持てる力全てを使って、必死に動かし続ける!

「ちいっ!?」

 朱操もまた矢で貫かれようとお構い無しだ!手に入れた再生能力を頼りに、意識を攻撃だけに集中する。それが自分が今、打てる最善の手だという確信があるからだ。

(その金ぴか装甲の厄介さは身をもって知っている……だが、同時に弱みも理解している!三十秒……たった三十秒、耐えればいいだけだ!!)

 朱操はこの攻撃で決着をつけるつもりなど更々なかった。ただ時間を消費させることができれば、十分だった。そしてその策は狙い通りに実行された。

「くっ!?」

(5……4……3……)

「ちいっ!?」

(2……1……)

「くそおぉぉぉぉッ!?」

「ゼロだ!!」

 ミッションを達成して、朱操の心と攻撃が思わず緩んだ。

 その時をカンシチは待っていた!

「よっしゃ!かかったな、アホが!!」

「――ッ!?」

 再びこちらに向かって、金色の装甲を纏ったまま加速してくるカンシチ孔雀!朱操はあり得ない光景に思考がショートする!

「バカな!?その金ぴかは時間切れのはず!?もう発動時間はとうに過ぎているだろ!?」

「相変わらずコミュニケーション不足だぜ、朱操!このマシンの元の持ち主に、呉禁に聞いていないのか!特級装甲の発動時間は半年前より延びていることを!!」

「なっ!?」

 まさに寝耳に水だった。朱操は特級装甲の時間延長については初耳だった!

 彼の名誉のために補足しておくと、朱操だけでなく、慇軍にもそもそも呉禁が報告していないのである。

 呉禁自体、幸か不幸か時間切れを待たずになんとか特級装甲に対処できたことによって過小評価していたことと、その直後に現れた応龍弐式に完膚なきまでに負けたこと、そして慇という国の恐怖政治、それらが折り重なった結果、報告を怠ってしまったのである。

 そのツケが巡り巡って、朱操に襲いかかったのだ!

「くっ!?ブラッディ……いや!」

 思考を再び開始した朱操はとりあえず盾で防御を固めようと考えたが、すぐにその考えを改めた。

(弓使いであるあいつがわざわざ接近しようとしている……それは何故か?考えられる答えは一つ……至近距離からの全力の一撃で再生する間もなく吹き飛ばそうとしている!そうに違いない!!)

 カンシチの思考を読み切ったと思っている朱操は一転、不敵な笑みを浮かべた。

(そんな単純な考えでは覚醒した俺を滅ぼすことなどできん!逆に引き付けて、カウンターで仕留めてやる!)

 朱操はピンと指を伸ばし、そこに意識と力を集中させた。

(さぁ、来い!くそ農民!!)

「うおりゃあぁぁぁっ!!」

 カンシチは朱操の企みなど知らずに真っ直ぐと向かって来る!

 どんどんと近づいていく二人……三歩ほど先、二歩ほど先、手が届く距離!

「今……!」

「よっと!!」

「――だ!?」

 朱操の渾身の貫手は空を切った!目前まで迫った特級孔雀が突然、進行方向を前から上に変えたのだった。

「こいつ……まさか!!?」

 朱操はここでようやく自分の過ちに、侮っていたカンシチという男が、想像よりも遥かに賢い男だということに気づいた。「お前、一歩も動かないとか言ってたけどよ……一歩も動けないんじゃねぇのか?その足裏でクアフゾンと繋がって、エネルギーを供給してもらってんじゃねぇのかよ!!」

「ぐっ!?」

 その推測はそれこそ的を射ていた。朱操の力の源は正にその足元にあったのだ!

「その繋がりを断ち斬れば、再生なんかできねぇよな!!」

 朱操の頭上で弓を引く特級孔雀!狙いは宣言通り、足下だ!

「させるか!!ブラッディ・シールド!三重連!!」

 朱操は咄嗟にカンシチとの間に深紅の盾を三枚重ねて、生成した……無駄なことなのに。

「お前……この弓が何なのか忘れちまったのか?」

「あっ」

「無影覇光弓の矢は……防げない!!」


バシュン!!


 矢は放たれた瞬間、姿を、存在を、この世から消し、深紅の盾を通過していく。次に現れたのは、ターゲットに着弾直前だった。


バシャアァァァァン!!


「ぐがあぁぁぁっ!?」

 悲痛な叫び声を上げる朱操!足元が崩壊し、そこに根差していた彼の足裏から伸びる根っこが焼き尽くされていく。

「や、やった……!」

 困難なミッションを達成したと同時に特級装甲は解除され、カンシチ孔雀は地面へと降り立った。しかし……。

「まだだ!」

「――!?」

「お前なんかに俺が負けるはずがない!!」

 先ほどまでの鮮やかな赤とは打って変わり、くすんだ赤色になった覚醒朱操が飛びかかってきた!皮肉にも、カンシチが彼と紅蓮の巨獣との繋がりを切ってしまったことで、自由に動けるようになったのだ!

「死ねぇ!!くそ農民!!」


バギィン!!


 今度こそ朱操、渾身の貫手が水晶孔雀に炸裂した!……水晶孔雀だけに。

「ナンバー25……短い間だったけど、お前は最高のマシンだったぜ……ありがとよ」

 カンシチは水晶孔雀を脱ぎ捨て、後方に脱出していた。朱操が貫いたのは中身の入ってない抜け殻だったのだ。

「くっ!?猪口才な!!」

 朱操は怒りに任せて、水晶孔雀を投げ捨て、再度生身のカンシチに飛びかかる!

「愛機を犠牲にしても、ほんの少し寿命が延びただけだ!骸装機のないお前など、道端に転がるゴミも同然よ!!」

 朱操は逃げ道を塞ぐように両手で貫手を繰り出す!右と左から触れれば、間違いなく死が待っている悪魔の手がカンシチに迫る!

「お前、執念深い奴だと思ってたけど、意外と忘れっぽいんだな」

「は?」

「おれにはもう一体、骸装機がある……お前と初めて戦った!捕虜になったおれにお前がわざわざ返してくれた親父の形見が!!」

「しまっ!?」

「石雀!特級装甲!!」


ザンッ!!


「――ッ!?ぐわあぁぁぁぁぁっ!!?」

 黄金の装甲を纏った石雀が無影覇光弓を振るい、取り付けられていた刃で朱操の両腕を切り落とした!

「このまま切り刻むのは……蒼天の射手らしくねぇよな!!」

 特級石雀は後方に跳びながら、弓を構えた!全てを終わらせる最後の一射を放つために!

「俺が……エリートだった俺が農民であるお前なんかに負けるのか……?」

「それがお前の敗因だよ、朱操。上ばっかり見て、足元を疎かにした。それにお前という存在はクアフゾンに食われた時点で終わっている」

「何?」

「お前はここに来てから、あれだけ大切にしていた友人の……徐勇のことを一度も口にしなかった。お前はクアフゾンを操るとか言っていたけど、逆だ……お前がクアフゾンの内部を守る防衛機構として、都合のいい道具として作り変えられたんだよ」

「そ、そんなわけあるはずない!」

「朱操の記憶を持っているかもしれないけど、意志はない!ただのクアフゾンに操られる人形でしかないんだよ、今のお前は……!!」

「ち、違う!?俺は朱操だ!!俺は……!!」

「自分探しは……地獄の亡者とやってくれ」

「次森勘七ぃッ!!」


バシュウゥゥゥゥゥゥゥゥン!!


「ッ……!?」

 カンシチの想いと猛華の大地の力を乗せた無影覇光弓の矢は光の奔流となって、朱操の形をした者を飲み込み、跡形もなく消し去り、さらにクアフゾンの分厚い皮膚を貫いた。

 空いた大きな穴から太陽の光が差し込むと、特級装甲が解除された石雀を優しく照らした。

「お前との戦いから始まったこの旅で、おれはかけがえのないものを数多く手に入れることができた。その点はお前に感謝してるぜ、朱操……」

 輪牟の村から始まった二人の因縁は紅蓮の巨獣の中で終わりを迎えた。


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