輝く大地に抱かれ……
「天がお前を選んだだと……!」
蚩尤はさっきまでとは明らかに様子が違う黄金の龍に向かって、臆することなく歩き出した。
「そうだ。正確にはあんたの大好きな自然が、この大地が力を貸してくれた」
応龍も光と風とともに、堂々と青銅の獣へ近づいていく。
「大地……龍穴か」
王瞑はジョーダンの一言で全て理解した。彼が何をしたのか、自分にとって不都合なことが起こっているのかを。
「あぁ、龍穴から力を引き出す宝術師のように、この呂九平原の、猛華の想いを応龍を使って掬い上げた。この意味がわかるか、王瞑?」
「……さぁ?」
「あんたの愛する自然は人間が滅ぶことを望んでないってことさ」
両者、お互い手の届く距離まで近づくと停止、仁王立ちで睨み合う。
「そんなはずはない……!クアフゾンこそがこの大地の意志……人間を滅ぼせという世界の願いだ……!」
「そう思うなら、ボクを倒してみろ。本当にあんたが正しいなら、天に選ばれた者だというなら、きっと出来るはずだ」
「自然の代弁者にでもなったつもりか?」
「その言葉、そっくりそのまま返すよ、皇帝陛下」
「我が慇では皇帝への不敬は……斬首だ!!」
蚩尤は斧を召喚!龍の首に撃ち下ろす!
「ハアッ!!」
ガギィン!!
「――なっ!?」
しかし、応龍は裏拳一発で斧を粉々に砕く!二人の間を、龍が纏う光を反射する破片がキラキラと舞い散る!
「この!!」
蚩尤は怯むことなく、今度は剣を召喚!突きを繰り出す……が。
「遅い!!」
ゴォン!!
「………がはッ!!?」
逆に突きのスピードを超える応龍の拳を胴体に叩き込まれる!青銅色の分厚い装甲に稲妻のように無数の亀裂を入れながら、吹っ飛んだ!
「ぐっ!?」
「王瞑!奴のパワーもスピードも、先ほどよりも上がっておる!ここは距離を取って戦え!!」
「ワタシも……そう考えていたところだ!!」
着地と同時に蚩尤は四本の腕を分離!応龍に向かって、ジグザグの軌道を描きながら飛ばす!
「エネルギーは十分チャージできておる!存分に暴れさせろ!!」
「おう!!」
四本の腕は全て大砲に変形!応龍を取り囲むように配置されると……。
バババババババババババババッ!!
数え切れないほどの大量の光の弾丸を発射した!けれど……。
「……わかった」
「な……」
「なんじゃと!?」
応龍はまるでダンスを踊るかの如く、光弾を全て避けていった。
「無駄だ。風が、大地が応龍を通じて教えてくれる……あんたの動きを!」
「くっ!?そんなわけあるか!軍神の矢!フルパワーシュートだ!!」
ドシュウゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!
一本の腕から光の奔流が放たれる!けれども……。
「ゴルドオーラ!!」
龍が展開した黄金の膜に弾かれてしまう。
「まだだ!これでバリアを使い切った!もうこの第二射からお前を守るものは何もない!!」
ドシュウゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!
再び撃ち出されるエネルギーの塊!しかし、これも……。
「小龍砲!!」
ブルオォォォォォォォォォン!!
黄金の翼を広げ、そこに取り付けられているファンが凄まじいスピードで回転し始めたと思ったら、すぐさま竜巻を発射、軍神の飛腕が放った光とぶつかり、相殺した。
「バカな!?あんなにすぐに撃ち出せる小回りの効く武器ではなかったろうに!?」
「今のあいつなら、早撃ちもお手のものってことか……!」
「くっ!?だが!!」
「あぁ!まだ、腕は残っている!!」
残り二つの宙に浮く大砲もエネルギーを砲口に集中させ、応龍に向かって……。
「何度も、何度も……鬱陶しいんだよ!!」
ブオォォォォォォン!!
「――ッ!?」
「この突風は!?」
応龍が腕を振ると、それに合わせて強風が吹き荒れ、それに当てられた彼の周りに配置されていた飛腕は体勢を崩す。結果……。
ドシュドシュウゥゥゥゥゥゥッ!!
二本の光の奔流は明後日の方向に飛んでいくことになった!
「ちっ!?だが、まだこちらには腕が……!」
本来の腕を大砲に変形させようとする蚩尤……だったが。
「させないよ」
「――なっ!?」
目にも止まらぬスピードで応龍は彼の懐に潜り込んで来た!
「軍神の盾!!」
予定を変更し、攻撃の為の大砲ではなく、防御のための盾を両腕に装備する青銅の獣!
「無駄だ!!」
バギィ!バギィン!!
「ぐっ!?」
しかし、応龍はそれぞれ拳骨一発で粉砕してしまう!さらに……。
「王瞑ッ!!」
ガンガンガンガンガンガンガンガン!!
「――ッ!?」
勢いそのままに拳の連打を開始!蚩尤にパンチの雨をお見舞いする!蚩尤はとにかくガードを固めることしかできない!
「天才科学者が……聞いて呆れるな……結局、最後はこんな原初の暴力に回帰するか……!」
「それを言うなら、お前こそだ、皇帝王瞑!!その力は民を傷つけるためではなく、導くために使うべきでしょうが!!」
「知った風な口を訊くな!!」
ガンガンガンガンガンガンガンガン!!
「ちっ!?」
いつの間にか再接続していた四本の腕と合わせて、六本腕になった蚩尤が反撃を開始!凄まじい拳の応酬が繰り広げられる!
「お前だって、散々見て来たはずだろ!度し難い人間の愚かさを!」
「人並みにはね……!」
「ワタシはその何倍もの数を見て来た!そして、それがこれからも繰り返されることを歴史が証明している!
煌武帝が一つにまとめた猛華は俗物どもの欲望によって分断された!我が慇も、お前ら灑もそうだ!是も合わせてこの三国は元々一つ、煌武帝の子孫の一人が治める国だった!だが、下らない後継者争いのために三つに分けられ、今も争い続けている!
ワタシも姫炎も統満も、血筋を辿れば親戚だというのに!!」
「だったら!今、このしょうもない連鎖を止めるために力を振るうべきなんじゃないか!?」
「そうだ!その答えがクアフゾンの復活だ!!長きに渡り、憎み合って来た民を一つにするためには共通の敵と苦難が必要なのだ!!」
「王瞑……お前……」
「煌武帝は紅蓮の巨獣を倒すことで、民を一つにしたが、ワタシは巨獣の力をもって、国の枠組みを壊し、文明を粉砕し、自然に帰し、その結果、人を団結させる!!傲慢な人間をまとめるには、それしかないんだ!!」
バギィン!!
「――ッ!?」
蚩尤の拳が黄金の仮面を叩き割り、内部から伸びたコードが皮膚の下に潜り込み、応龍と同じく青色に変化したジョーダンの素顔が露出する!
その瞳は真っ直ぐと蚩尤を、その中にいる王瞑を見つめていた!
「傲慢なのはお前の方だ!人間はお前を傷つけるために生きているんじゃない!自然はお前を癒すために存在しているんじゃない!それっぽい屁理屈こねているが、お前は結局、自分中心にしか物事を考えられていないだけなんだよ!!」
ガアァァァン!!
「――ぐふっ!?」
カウンター炸裂!応龍の拳が蚩尤の胴体に叩き込まれ、異形の巨体が宙を浮き、吹き飛ばされた!
「ぐ、ぐうぅ……!?か、勝てない……!!王瞑……ここは一旦退くぞ!!」
今の一撃で電子の亡霊の心は完全に折られてしまった。彼の目的はあくまで不老不死、この戦いの顛末や、国の未来などには全く興味がないのだ。しかし……。
「やだね」
「えっ?今、なんと……?」
「嫌だと言ったんだ……!ここで……ここであいつから逃げたら……今までの自分を否定することになる!!」
王瞑は蚩尤の言葉を聞き流し、六本の腕を全て大砲に変形させ、エネルギーを充填し始めた。
「やめろ!目的を履き違えるな!!生きてこそ成せることがあるのじゃぞ!!」
「履き違えてなどいない!ワタシの目的はクアフゾンの復活によって、一応達成している!!」
「そ、そうじゃった!!」
蚩尤はここで生に執着する自分と、すでにこの世に未練が残っていない王瞑が相反する存在になってしまっていることに気づいた。
もうこの電子の亡霊が、使命から解き放たれた皇帝陛下を止める術はないのだ。
「もう人の顔色を伺うのはごめんなんだよ!オレはオレの好きなようにさせてもらう!!」
絶望に打ちひしがれる蚩尤!逆に自分の全てをぶつけるためにどこか愉しげに力を溜める王瞑!
彼らを前に、ジョーダンも決着の一撃を放つ準備を進める。
「王瞑……ボクに出来るのは、お前の想いを正面から受け止め、そして打ち破ることだけだ!!」
翼のファンを高速で回転させるいつもの動作。しかし、いつもとは違い、龍の周りにまとわりつく猛々しい風と眩い光を取り込んでいく。
「正真正銘、これで最後だ!ジョーダン!!」
「あぁ!何の因果か繋がった、ボクとあんたの運命の糸を今、ここで絶ち切る!!」
「喰らえ!ゴールドドラゴン!!これが我が最強の一撃!六星戦光波!!」
ドシュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!
六つの腕から発射された光が一つに重なり、巨大な光の奔流になって、地面を抉り、溶かしながら、応龍へと進んでいく!
「大地よ!風よ!猛華よ!ボクと応龍に奴を倒す力を!猛華黄金嵐龍砲!!」
ブルオォォォォォォォォォォォォン!!!
文字通り黄金の嵐が吹き荒れる!まるで金色の龍のように光輝く二本の竜巻が地面を抉り、削り、砕きながら、蚩尤へと迫る!そして……。
ドシャアァァァァァァァァァァッ!!
光の奔流と黄金の竜巻は龍と獣の間でぶつかり合う!激しい衝撃が大気を揺らし、大地を震わせる!
「ぐうぅ……!負けて……負けてたまるか!!」
王瞑の魂の叫びとともに、その想いが蚩尤によってエネルギーに変換され、光の奔流をさらに大きく、太く、強くした!しかし……。
「こんなセリフ、ボクらしくないから言いたくないけど、この際だからあえて言わせてもらう……そんな独りよがりの力じゃ、今の猛華の依り代になった応龍には届かない!!」
ブルオォォォォォォォォォォォォン!!!
「――!?六星戦光波をも取り込むか!?」
黄金の竜巻は六星戦光波さえも吸収し、さらに荒ぶり、さらに輝いた!そして……。
「そうか……これが……」
ブルオォォォォォォォォォォォォン!!!
「ぐきゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
竜巻は青銅色の獣の異形を飲み込み、その身体を抉り、削り、砕いた!
そのまま金色の烈風は、まさしく龍のように天に昇り、空を覆っていた灰色の雲もかき消す。
姿を隠していた太陽が顔を覗かせ、その光が更に応龍の金色の身体をきらびやかに飾ってみせる。
「これが……キミの夢の果てだよ、王瞑……」
打って変わって穏やかで、爽やかな風に頬を撫でられながら、ジョーダンは寂しげに呟いた。




